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色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ  作者: 谷島修一
英雄は二度死ぬ
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「謁見の間」メモ

 イリーナとクララは見つけたメモを読む。


『大陸歴1658年4月頃・帝国首都アリーグラード・謁見の間


 私は当時軍事顧問をやっていたイワノフと共に、クリーガーが連行されてくるのを待った。クリーガーが反逆した理由を直接聞きたかったからだ。

彼は、つい先日まで最も信頼していた人物の一人でもあった。


 イワノフからクリーガーが反乱軍に関わっている可能性があると聞かされた時は耳を疑った。イワノフは一年ほど前にユルゲンと会ったことがあり、軍の内情について知りたがったという。その時、クリーガーは偽名を使っていたという話だった。私はそれを信じることができなかった。

 クリーガーは自らの命を顧みず、帝国の危機を救い、 “英雄” と呼ばれるような人物だ。たとえ外国出身者であったとしても、その働きは帝国の誰も認めるところだった。


 まず、クリーガーが首都に到着したと聞いて、私はクリーガーを謁見の間に連れて来させた。

 謁見の間に現れたクリーガーは、縄で拘束され衛兵に脇を抱えられていた。私はクリーガーを跪かせた。


「まさか、あなたが裏切りとは。あなたが反乱分子と関係しているという疑念は、イワノフから聞きました。昨年、イワノフに身分を偽って軍の内情について話を聞きに行ったようですね。だから、今回、試したのです。あなたに反乱分子がいるベルグブリッグに向かわせ、それらを討たせる。もし、反乱分子をせん滅できればそれはそれでいいでしょう。もし反乱分子に加わるなら軍を派遣して討伐しようと思っていました。しかし、ベルグブリッグではなく、モルデンに向かい、偽の命令書で騙してモルデンを掌握するとは。機転が利く」。


 私がそういうとクリーガーはイワノフに向かって口を開いた。

「イワノフさん。去年、私と会った時、あなたは、『共和国の統治には負担がかかる。そもそも共和国を侵略した理由がわからない。単に領土的野心で侵略したとしたら愚策でしかない』、とおっしゃっていました。イワノフさんは帝国の窮状を良くお分かりです。今、帝国が苦しんでいるのは、急激な領土拡張が仇になっています。そもそも、これはアーランドソンの企みのせいで、こうなったのです。帝国の誰の意思でもありません」。


 次にクリーガーは私に向き直って続けた。

「陛下、これを機会に共和国全土の解放をお願いしたい。これは帝国の為でもあります」。


 私は答えた。

「そんなことを言うために、一人で降伏してきたのですか?帝国の現状がどうあれ、お前が国を裏切ったことには変わりはないのですよ。今後のあなたの身柄ですが、後日、軍法会議が開かれます。それまで牢で待ちなさい」。

 私はそう言って立ち上がり衛兵たちに手で合図した。

 衛兵達は私の両脇を抱え、立ち上がらせた。

 そして、謁見の間を出て、地下の牢屋まで連行された。


 その後、私はイワノフと話し合った。イワノフはクリーガーの意見に同調していた。

「クリーガーの言う通りです。陛下もお分かりの通り、現在の帝国の状況は非常に危険な状態です。このままでは国家の体制が危ういと思います。共和国の占領統治による様々な負担が大きい。私は共和国から手を引き、帝国の内政に力を入れるべきだと考えます」。


 私もそれに同意した。

「それは私も感じています。アーランドソンのせいで帝国は滅茶苦茶です。なるべく早く共和国から手を引きましょう。大臣たちにもそれを伝え、早々に手続きを進めさせます」。

「ただ、クリーガーの言いなりになったような状況は避けた方が良いかと」。

「この件は、もともと決まっていたということにしましょう。実際に私たちはそういう方向で考えていました」。

「いいでしょう」。


「ところで、クリーガーをどうしますか?」

 イワノフは話題を再びクリーガーに戻した。

「今回の彼の罪は反逆罪ということですね?」

「はい、反逆罪です。後日、軍法会議に掛けることになりますが、有罪になれば死刑です。今回の場合だと有罪は免れられないかと」。

「惜しいですね。これまでの功績を汲んで何とかできないでしょうか?」

「反逆罪を赦す前例を作るのは良くないと思いますが、陛下がどうしてもというのであれば何か方策を考えたいと思います」。

「法律の事では、こういうときにいい人物がいる。パーベル・ムラブイェフだ。彼ならいい案を思いつくかもしれない。彼と相談してやってほしい」。

「御意」。

 イワノフはそういうと、頭を下げ謁見の間を立ち去った。』


 イリーナとクララはメモ読み終わると顔を上げた。


「ソフィアさんの話にあった、お爺様がたった一人で投降して、皇帝を説得したという話は、本当みたいね」。イリーナはソフィア・タウゼントシュタインから聞いた話を思い起こしながら言った。「お爺様の思惑通りに事が進んだということね」。

「すごいことだね」。

 クララは感嘆の声を上げた。

「皇帝はお爺様を助けたいと思ったみたいね」

 イリーナが言った。

「でも、それはなぜだろう?」

「アーランドソンを倒したから?」

 その場にいて、二人の話を聞いていたブユネケンは疑問に答える。

「そういえば、母がそのことについて言っていたことがあるよ。ユルゲンさんを助けたいと思ったのは、やはり、彼がアーランドソンを倒して、帝国の実権が本来持つべき母の手の戻ったことだと思うよ。そのことについてはとても感謝していたようだね。もし、アーランドソンがそのまま帝国の実権を握ったままだったら、大陸中に戦争を仕掛けて大変なことになっていたと思うよ。あとは、母の命も危うかったようだし」。

「命?」

 イリーナは繰り返した。

「そう。アーランドソンはユルゲンさんの体を乗っ取ったあとは、母と結婚しようと企んでいたと聞いたよ。そうすれば、アーランドソンは正当に国の実権を握ったままにできるからね。もし、母がそれに歯向かえば母を殺すことも考えていたようだ」。

「もし、そんなことになっていたら、歴史は相当変わっていたでしょうね」。

「母によると、チューリンを排除しようとしたことから、大きく事が動いたんだが、そのきっかけはユルゲンさんの奥さんだったのは知っているかな?」

「知っています」。

「その奥さんの存在もユルゲンさんを赦そうと思った理由の一つだったようだね。奥さんはずっと母の護衛をしていて、公私ともに親友みたいな関係だったようだから。彼女のためにも何とかしたいと思ったみたいだ」。

「なるほど!」。

 イリーナが相槌を打った。

「お爺様やお婆様の人徳という事ですねー」。

 クララがちょっと嬉しそうに言った。

「まあ、そういうことだね」。

 ブユネケンもちょっと笑って見せた。


 他にもメモがあるので、イリーナとクララは続いて覗き込んだ。

 皇帝とムラブイェフ、イワノフとの会話でユルゲンに恩赦を言い渡した直後のメモのようだ。

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