オレガの証言~人民革命~その8
【現在】
大陸歴1710年5月4日・パルラメンスカヤ人民共和国・首都アリーグラード
「そういうわけで何日も、師の遺体を探したんだけど、その行方が分からなかった。でも結局、師は数か月後に生きて帰って来たので、遺体が見つかるはずもないわね」。
オレガは過去の出来事について話し終えると、紅茶のカップをテーブルの上に置いた。
イリーナは改めて尋ねた。
「確認ですが、数か月間はユルゲンさんの行方は全く分からなかったのですね?」
「そうよ。どこにいたのか師は詳しくは教えてくれなかったのよ。ただ、戦場からそう遠くない村にて、怪我が治るまで潜伏していた、とだけ言っていたわ」。
「何か隠していますね」。
「私もそう感じたわ。でも、それ以上は教えてくれなかった」。
「この謎は調べたいですね」。
続いてクララが尋ねた。
「お爺様は戻って来てから革命軍の士官になったの?」
「そうよ、ナタンソーンと会って革命軍の指揮をすることになったみたい。その頃、外国勢力がまた攻めてきそうだという情報が入って来ていたから、ともかく、ナタンソーンは軍の指揮のできる者、元帝国軍でも戦える者は構わず仲間に引き入れていたのよ」。
その後、テレ・ダ・ズール公国、ダーガリンダ王国、アレナ王国、プネルタバ王国の四か国がパルラメンスカヤ人民共和国に宣戦布告して侵攻してきたのだ。約一年の戦いの後、革命軍はなんとか四か国の連合軍を撃退した。
「その後は、師は肩書は上級士官だったけど、軍隊を実際に率いるのはさほど多くなくて、士官学校で剣や用兵を教えたりしていたみたい。例外的にシンドゥ王国との戦争の時は指揮を執って活躍したわ」
四十数年前、南の大陸 “ダクシニー”にある大国のシンドゥ王国が大陸に侵攻してきた戦争があった。その時は、大陸の南端のアレナ王国を主戦場に激しい戦いが行われ、シンドゥ王国の侵攻を寸前のところで食い止めたのだ。
オレガ、イリーナ、クララの三人は紅茶をもう一杯飲んで雑談をした後、その日は別れることにした。
“人民革命”については、オレガの知る限りの話を聞くことができだろう。
イリーナとクララの二人は、ユルゲンの行方が分からなかった数か月が気になっていた。オレガによるとユルゲンは確かに死んでいたというのだ。しかし、実際には生きて帰って来たので、彼女の勘違いだったと思うが、そのあたりのことも調べたい。
イリーナは礼を言った。
「今日はありがとうございました」
「お役に立てたかしら?」
「はい!」
二人は元気よく返事をした。
「また、いらっしゃいね」。
オレガは家の扉まで杖をついて見送ってくれた。
帰り道、二人はオレガの話で、これまでの分かったことと不思議な点を改めて全て挙げていった。
【分かったこと】
・ブラミア帝国の皇帝スタニスラフ四世が殺され魔術師アーランドソンに体を乗っ取られていたこと。
・その魔術師アーランドソンを倒したのはユルゲン・クリーガーであったこと。
・“チューリン事件”のチューリンや怪物はアーランドソンに魔術で操られた傀儡だったこと。
・“ソローキン反乱”は皇帝がソローキンを排除するための謀略であったこと
・ソローキンを倒したのはユルゲンだった。
・ユルゲンが率いる遊撃部隊が共和国の反乱に加担してモルデンを掌握したこと。
・そもそもユルゲンは、かなり前から共和国の独立派と内通していたこと。
・ユルゲンは一人で降伏し、軍法会議において反逆罪で死刑宣告を受けるが恩赦されたこと。
・ユルゲン・クリーガーの屋敷にいた召使いナターシャ・ストルヴァは、革命軍の仲間だった。
【謎】
・モルデン掌握、死刑宣告と恩赦について秘密にされている理由は不明。
・ユルゲンが裁かれた軍法会議の記録が残っているか確認する。
・ユルゲンが革命軍の追っ手から逃げ延びたこと。
・ユルゲンがオレガに斬られて死亡したはずなのに、数か月後生きて現れたこと。




