プリブレジヌイの戦い8
大陸歴1660年12月4日・ブラミア帝国・プリブレジヌイ郊外
ナタンソーン、キーシンなど革命のリーダー達は指揮官のテントで昨日の戦いについて評価をしていた。
「昨日の作戦はうまくいったな」。
「もう少しで帝国軍を追い詰めることができたのに、残念です」。
キーシンは口惜しそうに答えた。
昨日、革命軍はキーシンの作戦の通り事が進んだが、今一歩のところで帝国軍を捉えられなかった。あの戦略家のルツコイを罠に掛け、被害を与えることができただけでも良しとすべきか。
しかし、本陣の前で最初に帝国軍と戦闘になったスラビンスキー率いる元第四旅団は戦闘で壊滅し、スラビンスキー自身も戦死していた。
帝国軍は基本的に籠城をするようだ。昨日と同じ作戦にはもう乗ってこないだろう。
しかし、ただ、ここに陣を張っているだけでは、時間と食料を浪費するだけの上、厳しい寒さの中、兵士達の士気も徐々に下がってくる。時間が経てば経つほど革命軍は不利になってくる。早めに決断をしなければいけない。
撤退か? 攻撃か?
ナタンソーンは決断を迫られる。
「ここは撤退を」。
キーシンは撤退を進言した。もう帝国軍には首都を奪還する力はもうないだろう。
かといって、革命軍にもプリブレジヌイを攻略する力はない。彼は城攻めの難しさを良く知っている。
五年前のプラウグルン共和国の都市モルデンの戦い、二年前のテレ・ダ・ズール公国首都ソントルヴィレでの戦いと、二つの攻城戦で大きな被害を出し、その難しさを嫌と言うほど味わっていた。
しかし、ナタンソーンは最後まで戦い、帝国の息の根を止めたい考えだ。彼ら貧困地域の出身者達の支配階層に対する恨みは強かった。
しかし、無暗な攻撃は返り討ちに会う可能性も十分にある。攻撃するにしても、何とか敵を城から引きずり出さなければ勝機はないとキーシンは考えていた。
ナタンソーンはどうしてもプリブレジヌイを攻撃しなければ気が済まないようだった。キーシンは、一度だけという約束で全面攻撃を仕掛けることに承諾した。状況が不利だとみればすぐに撤退するということで話が付いた。
キーシンは、二年前のソローキンのソントルヴィレ攻略の際も同様な話がされたような気がする。それを思い出してキーシンは苦笑した。
キーシンは入念に作戦を準備し、翌日の朝、攻撃を開始することが決まった。
◇◇◇
翌日の午前中、キーシンは全軍に突撃命令を出した。
プリブレジヌイを攻略するための革命軍の攻撃が始まった。
この戦いの勝算は少なく、キーシンとしてはナタンソーンをあきらめさせるための戦いだった。
キーシンの気分は乗らなかったが、周到な作戦を立て城攻めに挑む。馬を駆って全軍の先頭を切って突撃を開始した。
キーシンの憂慮に反して、兵士達の士気は高いようだった。
プリブレジヌイの街壁に革命軍は近づいたところで、矢の雨が降り注ぐ。
キーシンは盾を上に掲げてそれを遮る。反乱軍は馬に乗っている者が少なく、キーシンの馬は目立っていたため矢の攻撃がより集中的に降り注ぐ。
ついにキーシンの馬に矢が刺さり、地面に倒れ込んだ。キーシンも地面に叩き付けられる。
キーシンは立ち上がり、自分に怪我がないことを確認すると、盾を掲げて歩兵たちと突撃を開始した。
革命軍は横に大きく広がり迫っていく。兵力は革命軍の方が倍近いが、攻城戦は籠城している方が有利だ。
革命軍が矢の届くあたりまで到達したところでルツコイは叫んだ。
「一斉射撃!」。
革命軍に矢の雨が降り注ぐ。盾を持っている者が少ないため、次々と討ち取られていく。
ルツコイは革命軍の攻め方に違和感を覚えた。ここまで闇雲の攻めてくる理由がわからなかった。ひょっとしたら革命軍は食料が不足して来ているのかもしれない。
しばらくして、革命軍の兵士たちが街壁までたどり着いた。そして、壁を上るため鈎付きのロープをどんどん投げ込んできた。
これを街壁に引っ掛けて登ろうとする。さらに革命軍も街壁の下から矢を射て壁を上る者を援護する。
しかし、帝国軍も街壁の上から矢や投石で応戦し、革命軍の兵士はなかなか登りきることができないでいた。犠牲者が増えていくばかりだ。
そして、小一時間ほどして革命軍はついに攻撃をあきらめ、撤退を開始した。
キーシンが大声で撤退を命令する。
帝国軍はこれを機会にと、城壁の上からの攻撃は公国軍に任せ、ルツコイとユルゲンが率いる重装騎士団と兵士達は城門を開けて追撃を開始した。
重装騎士団は革命軍に追いつき、次々を兵を倒していく。
しばらくして、逃げる革命軍に追ったところで、
丘を越え別の部隊がこちらに突撃してくるのが見えた。
キーシンはこのような時の為に、別部隊を二千を密かに待機させていたのだ。
それに最初に気が付いたユルゲンは叫んだ。
「新手です!」
「あの新手に攻撃を仕掛ける!」
ルツコイは命令を出した。
ルツコイとユルゲン、重装騎士団は方角を変え、別部隊に目がけて走っていく。
こちらに突撃してくる別部隊の先頭に騎馬が二十騎ほど。ほとんどが歩兵の反乱軍の中、それは目立っていた。
そして、先頭の騎兵の人物の顔が判別できるほど近づいたところで、ユルゲンはその相手に衝撃を受けた。




