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色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ  作者: 谷島修一
人民革命
32/66

身代わり

 大陸歴1661年11月12日・ブラミア帝国領内


 その日はもう追っ手は来なかった。

 ユルゲンたち皇帝一行は到着した小さな村で、昨夜同様、とある住民に大金を払って、家を借りた。

 そこで、皇帝を休ませる。

 一日中の移動で誰もが疲労の顔を隠せなかった。それでも追っ手を警戒するためにユルゲン達は順番で見張りをしながら床で休む。


 その夜も何事もなく過ぎ、翌日の早朝、皇帝一行は再びプリブレジヌイに向けて出発した。

 皇帝の馬車はさほど速度が出せないため、このペースでは目的地まで、後二日はかかってしまうだろう。このままでは、反乱軍の追っ手にプリブレジヌイの手前で追いつかれる可能がありそうだ。可能な限り早く馬車を走らせる。


 その後、二日間はこれまで同様、小さな村を経由する。

 それまでは、追っ手の姿を見ることもなく進んだ。しかし、プリブレジヌイまであと半日程度のところでまた追っ手が近づくのに後方を偵察していた者が気が付いた。

 その者によると追っ手は今度は二百名近い人数となっているという。

 さすがにこれだけの人数の差があると、ユルゲンたちと言えども太刀打ちできないだろう。


 ユルゲンは一計を案じ、馬車の中の皇帝に提案する。

「陛下、このままでは追っ手に追いつかれます。馬車を降り、馬で逃げてください。私が馬車を囮として、別の方向へ、わざと遅めに走らせ、追っ手を引き付けます」。

「それでは、追っ手を一人で引き受けることになりませんか?」。

 皇帝が不安そうな声で尋ねる。

「陛下を無事にプリブレジヌイへお送りできれば、私は構いません」。

「わかりました」。皇帝は今度は毅然とした声で答えた。「あなたの忠誠に感謝します」。

「私も必ず生きてプリブレジヌイへたどり着きます」。

 ユルゲンがそう約束する。皇帝は馬車から降り、ベルナツキーの馬の後ろに乗った。一方のユルゲンは馬車の馭者の座席に座る。

「副司令官、どうぞご無事で」。

 ベルナツキーと他の隊員全員が敬礼した。ユルゲンも敬礼し返す。


 皇帝たちが出発するのを見送ると、ユルゲンは皇帝たちが向かった方向と違う方へ変えて馬車を走らせた。わざとゆっくりと進み、近くに見える林の方へ向かう。

 三十分もしないうちに追っ手がすぐそこに見えて来た。追っ手は馬車に気付き、目論見通りユルゲンを追って来る。

 そして、馬車は林の中でついに追いつかれた。追っ手はぐるりと馬車を取り囲む。

 ユルゲンは馬車を降り、それを背にして剣を抜く。周りを見回したが、今回はナタンソーンの姿は無いようだった。


 普通の戦い方では、この包囲を突破するのは到底無理だ。ユルゲンは、ここは魔術で切り抜けることにした。

 追っ手の内の数名が剣を抜いて近づいて来る。ユルゲンは魔術を唱え、水操魔術で霧を発生させた、あたりの視界が一気に悪くなる。ユルゲンは敵がいただろう方向へ動く。霧の中ででも、間近であれば敵が判別できた。ユルゲンにとっては辺りには敵しかないない、霧の中で見える人の姿は誰でも敵ということだ。そして、一対一であれば、相手を倒すこと難しくない。


 ユルゲンは追っ手を次々と五人ほど斬り倒したところで、霧が晴れて来た。次は別の魔術だ、指先から稲妻を放ち近くにいるものから狙い撃ちをする。

「一気にかかれ!」

 追っ手の誰かが叫ぶと、十数人が迫って来た。次の魔術は火炎魔術だ。目の前に炎の壁ができ上り、彼らの接近を遮る。炎に巻き込まれ、焼かれた者が数名。前方から迫ってくるものは遮られた、しかし、横や後ろから接近してくるものは遮れない。再び、霧を発生させ、彼らの目をくらませる。そして、霧の中で、また四、五人を切り倒した。

 しかし、これでいつまで戦えるか。


「遠巻きにして、弓で狙え!」

 追っ手の誰かが叫んだ。

 すると、薄れて来た霧の中、四方から多数の矢が飛んで来る。ユルゲンは咄嗟に念動魔術で矢をそらす。今度は霧があることが逆にユルゲンにとって不利となった。霧で視界が効かず矢のすべてをそらすのは無理だったのだ。腕と脇腹に矢が突き刺さった。

 ユルゲンは苦痛に耐えながら、霧が完全に晴れる前に炎をあちこちに無差別に放ち、辺りの林に火をつけた。これで、霧の代わりに煙がしばらくは視界を遮ってくれるだろう。

 しかし、矢で受けたダメージと痛みで動きが取れない。もはや、この包囲を突破できそうにない。

 もう、ダメなのか。


 ユルゲンは馬車の中に入って、扉を閉めた。矢じりに毒が塗ってあったのか意識が朦朧としてきた。そして、馬車の外が一層騒がしくなった、敵がもう馬車のすぐそばまで来ているのだろう。

 そして、しばらくたって、馬車の扉を激しく叩く音がした。

 遠くなる意識の中、ユルゲンは自分の最後を覚悟した。

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