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夜の帳に潜り込んで優雅に生きていきなさい  作者: Cestab
第一章 私はごく普通な村娘
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第五話 手続的正当性と小さき勇者④

多分、残酷な描写に該当するところがありますので、嫌いな方はご注意を。

シーナの視点に戻りました。

よろしくお願いいたします。

 私がケイル君たちを見つけたのは、彼が一人の男を地面に叩き倒して合口でその男の首筋に置いて、洞窟に入ろうとする男の手下を脅しているところ。追い回されたケイルだったが、最初に洞窟に入った男が強盗たちのリーダーみたいで、色んな意味でついているかもしれない。


 今回の盗賊は自首した奴らと違って、血の匂いがする。この匂いがきついほど私の嗅覚を刺激しているから、殺めた人数がかなりあるだろう。


 私は隠蔽の魔法を使って洞窟の中に入った。心配だったので、ひとまずキャシーちゃんの様子を見た。間に合ってよかったと思いつつ、彼女に別状ないと判断して、ケイル君の方に視線を向けなおした。


 しかし、トリックを使ってリーダーを倒したんじゃないかって思いこんだようで、二人の取り巻きがいまだキャシーちゃんを狙って、洞窟の両端を迂回しようとしており、ケイル君の脅しに反応が薄かった。ケイル君もあいつらの行動に緊張して、合口を握る手がぷるぷると震え始め、うっかりするとリーダーらしき男を殺しかねない。


 私も少し焦ったのだ。ケイル君が一人相手に手一杯だと思って、このままじゃキャシーちゃんの状況もかなり危ない。そう、()()を見るまでは、魔法で強盗をぶっ飛ばすところだった。。


 ケイル君はあいつらの行動を読んだに違いない。自分が怖がっていると見せかけて、事前に仕掛けたトリップへ誘導したのだ。なんと、ケイル君が洞窟の両端、つまり強盗たちが迂回しようすれば必ず通る道に、麻痺薬を塗ったヒシを仕掛けといた。


 あれは確かに密猟者がよく使うウツギの樹液から抽出したもので、強壮なイノシシを狩るとき、うちの村の狩人もそれを微量に使って矢先に塗ることがあった。


 ケイル君はまだ13歳で、ミアちゃんと同い年。大人相手に、一人を打ちのめし、冷静に演技をし、油断した追い手を罠に見事に掛からせた。まして、仲間を守り通す心意気、実に男前なのだ。


 これには驚かれた。まあ、強盗たちも脳に魚を飼うバカじゃない。気が付けば、洞窟の外で見張っていれば、食料なしじゃ、三日でケイルたちが窮地に落ちるだろう。


 その前に、ここで片付けちゃおう。


 私が手を出そうとするときのことだ。


 「野郎ども!外で見張ってろ!食うもんのないこいつらは長く持たん!後で俺の仇を打ってくれ!」ケイルが注意力を迂回する二人に回った隙に、そのリーダーらしき男が突然大声で叫んだ。


 ケイル君、ごめん!縁起でもないことを考えた私が悪かった。


 血の匂いがすると知ったとき予測はしたけど、この群れはさっきのと違いすぎた。これは審判のときで知ったことだ。


 強盗の男たちが際どい生活を送ってきたやつばかりで、つい先日ある村を襲って、女を犯し、男を殺すなど、悪行の限りを尽くしてきた。だから、リーダーが真っ先に突っ込んだのも最初に愉悦を味わえようとしたいだけで、打ちのめされたとき既に死ぬ覚悟ができている。


 故に彼はケイル君を煽った。


 「俺は死ぬけどよ。あんたも長くはない!せいぜい目の前であんたの後ろに隠れてた女のなぶられるところを、俺の兄弟が飽きるまで存分に楽しもうじゃないか!楽に死なせないぜ!」


 ほんの一瞬で私は少しためらった。


 そして、ケイル君に恨まれる覚悟で彼が男に振り下ろした合口を止めた。同時に、本来隠すつもりもなかった魔法を使って、全員を洞窟の前に集めて束縛した。


 「ケイル君、ごめんね。」


 私の声を聞いて、驚いたままのケイル君がほっと息を吐いて、その場で座り込んだ。彼に手放された合口はそこら辺に転がった。そして、地面にぱっと尻もちづいた彼が、痛そうに眉をひそめた。


 もちろん原因は、私が彼の抑えている男を含めて、全員洞窟の外にまとめて風で束縛し、結界の中に放り込んで、下敷きのクションがなくなったからだ。


 私の行為に批判する人もいるだろう。こんなひどい犯罪者を庇って、その人権を尊重する偽善者と呼ばれるかもしれないし、心でなしと罵倒される可能性もある。


 裁判官だから、一言だけ弁解する。これが「手続的正当性」をとる私の立場上やらねばいけないことなのだ。最も簡単な例で説明してあげよう。


 「手続的正当性」を認めてはじめて、私刑が禁じられ、拷問されてやむなく無実の罪を認めることを防げる。つまり、権力者から一般の民を守るためである。個人的な考えだけど、トロッコ問題に出くわすとき、他人の命を選別権利など、我々にないと思っている。


 幸い、ケイル君が私を責めるような顔をしなかった。それどころか、私に感謝した。


 「シーナさん。助けてくれてありがとう。」


 だから、彼に理解してほしかった。


 「ねえ、ケイル君。私があなたを阻止したことに、疑問はないの?」


 けれど、彼が呆れたように私を見た。


 「シーナさんがやさしいのって知ってる。そこで俺を止めたのもきっと理由はある。汚い話に煽られて、憤りに流されたまま殺っちまうのもいいが、シーナさんに感謝はあれど、責めるような真似でもしたら、村に戻って連中にぶっ殺される!」


 少し安心した。私だって嫌われたくないもの。


 「ケイル君って、勇者の話知っている?」


 続いて話を持ち掛けた途端、私、ドン引きされてしまった。ケイル君に、《この場合に普通、そこまで脱線する?》と言わんばかりの表情で!私のことに気づいたキャシーちゃんもいつの間にケイル君の隣まで来ているし、ケイル君と同じように引いてた!


 くすん。


 「聞きたくないならさっさと戻るぞ!」


 私がそっぽむくと、キャシーちゃんが左腕に抱き着いてきた。ケイル君も立ち上がって詫びるような表情で謝りにきた。


 こうなったら、まるで私が拗ねた子どもじゃないか!


 拗ねたけど。


 「それじゃ、村に戻ろう? 話は後で聞いてもらうわよ」


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