第二話 手続的正当性と小さき勇者①
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とある日の午前6時ころ、いつも出荷の時がやってきた。
夏真っ盛りになったというもの、顔に当たった風も熱く感じる。近くに湖があれば、湖と森林とが相まって早朝を涼しく過ごせたものを。
危うく私欲で村を漁村に変貌させようとやらかしたところで、遅れた集荷担当のケイル君に文句つけてやらんばかりに顔を合わせると、近づいてきたのは、顔を青ざめた大人たちだった。
「へえ?」
思わず変な声を出した私だったが、頭の回転が速い————
日の出に村人たちが畑仕事に出かけるのは普通で、私だって、牧場の前ではなく、村の北方面の畑沿いにいたら元気よく挨拶でもしただろう。
しかし、村の南方面、つまり森の近くに位置する牧場の前に集うとなると、祭りの相談じゃなければ、ろくでもないことに決まっている。
率先して挨拶してくるのが、腰から肩越しに包帯を巻いた先日大けがした狩人のリーダーのポリスさんだ。筋肉質で麦色の肌でも血色が良くなっていることは目で見ればすぐわかった。仰がなければ顔が見れないのはむかつくけど、イノシシの皮でできた茶色の狩人服を身に纏ったということは……
「おう、嬢ちゃん、早いじゃないか。前のことはジェフたちから聞いた。感謝する。もう出荷の時間か?」
「ええ、普段ならケイル君がきているところだけど、この通り、まだ来ていない。何があったのかしら?……それはそうとして、ポリスさんの怪我、大丈夫?」
安静にしたほうがいいと言いたいところだけど、ポリスさんに聞きながらマナで探知してみたら、だいぶ治ってると知ってちょっとほっとした。
私の話を聞いた途端、ポリスさんの表情が変わった。
「あのな、ケイルのことまだ知らないかい?」
「全然」
「そうか。この面子見て、見覚えあっただろ?ケイルとアンディの妹、昨日森に入ったきり、深夜になっても帰ってこなかったから、村の連中と捜しているわけだ。今のがその二陣。」
確かに、7年前同じく村の子どもが迷子になったことがあったな。言われてみれば、当時と同じメンバーで捜したのは間違いない。ごめんね、見誤ったよ、ポリスさん。
やっぱり人間を見た目で判断するのがよくない。そうしないと心がけたほうかいいかも。だって、そんな健やかな体つきをもつポリスさんは、二人の子どもの父親であって、40代後半にして、よく7年も前のことをはっきり覚えているからだ。
なんか褒めてあげたい気分になった。
さて、私もバカじゃない。狩りに行くなら、ポリスさんと先日の二人が同行するはずで、ここにいる大人たちをざっと数えると、子どもを除いて村の男の三分の一くらいが集まっている。
「二人の無事を祈る。で、私の手伝えることあるの?ケイル君がいなくなると困るし」
「ははは。あいつらを見つかったら、嬢ちゃんが心配してるって伝えてやるから。野郎ども、ケイルのやつを見つけて嬢ちゃんの前で尻を叩いてやろうじゃねえか!」
下衆な発言と爽やかな笑みが似合わないと突っ込みたいものがある。今更突っ込んだとしても余計にからかわれることくらい承知の上で、やめといた。
おおおおおぉ、という掛け声のもと、村男衆が森へ進行。私はその後ろ姿が見えなくなるまで、彼らを見送った。
たまたま、ああいう発言をする村人の男性だけど、悪気がないし、素朴といえるだろうかはともかく、別に気持ち悪いと思わない。むしろ村に来たばかりの気まずかった私を懐かしく思う(遠目)。
ポリスさんとの会話はあくまでも言葉のあやってことで、私もここで突っ立っていられないもの。人間を干渉しないと決めた私は、一介の村娘として、それなりに心配し、それなりに手助けをしたかった。先に言っとくけど、私の行いは本心からそう思って行動するまでだ。決して役割を演じるなどではない。
だから、出荷用の品を道端に置いて、精霊に留守番を頼んで、ケイルを捜してみた。魔法を使って。
うん?期待しても何も出ないわよ。魔法を使うのに詠唱など必要ないし、詠唱したところで威力が増したり、付加の効果をつけたりすることもない。肝心なのは、マナとの交流が正しく伝わるかくらいかしら。
簡単にいうと、プログラミングと似て、オーダーを入力することでそれに応じた結果が出る。そうね、交流という言葉は適切ではなかった。メッセージを正確にマナに伝達するという言い方がしっくりくるかな。詳しく紹介すべきときが来ればまた説明するから、ここは割愛させてもらう。
あぁ、いったいった。どれどれ……
あれ?森を半分も越したじゃない?それに洞窟の奥にいるし。あれは確か……急がなきゃ!