表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の帳に潜り込んで優雅に生きていきなさい  作者: Cestab
第一章 私はごく普通な村娘
2/9

第一話 村娘の誇る「牧場」

早速第一話もアップします。

 「ねえ、最近森の様子がちょっとおかしいんじゃない?」

 

 あぁ、まただ。裁縫家のミアちゃんが納品しに来るとき、必ず話題を振ってくる。それに事後的にわかったことだけど、なんと今までの話題全てが持ち切りだった。


 話題を振ってくること自体、嫌いなんて一言も言ってないよ。長命種のせいか、自ら身を投じないと、どうにも流行りや時勢に敏感にならないらしい。


 「おかしいって何が?」


 しばらく返事が来ないから、顔を上げてミアちゃんのとこを覗いたら、むっとしたミアちゃんが頬を膨らませてじっとこっちを見ていた。


 栗色の三つ編みした髪、天真爛漫を感じさせる大きな空色の瞳、藍色がメインのエプロンドレスを着飾って、正直ミアちゃんの恰好は村に住む娘のものじゃない。この可憐さあって、13歳の彼女に結婚を打診する者が後を絶たないとか。


 人間の女性は15歳で成人だし、早くこの可愛い少女と縁を結んで独り占めしたい気持ちがわからなくもない。


 と思って、膨らんだ頬っぺを指で軽くつついたら、ほら、赤くなった、顔が。


 「シーナ姉がいつもこう私を子ども扱いする!」


 「ミアちゃんは私にとって子どもだから、いいの~♪」


 少しじゃれあってから、むっとしたままのミアちゃんがようやく諦めたようで、語り始めた。


 「昨日ポリスさんのことを知ってた?あの大けがは魔物によるものって同行のジェフさんとアンディさんが証言した。しかも、この付近で生息していない魔物らしいよ。シーナ姉の牧場が森に一番近いから、気を付けてね!何があったら警備隊に早く言うのよ。」


 「そうそう、村長さんがもう町の役所に連絡したから、もうすぐ町の警備隊も増援しにくるって。」


 ミアちゃんがまだ子どもだけど、しっかりもので、顔も可愛いし、よく愛嬌を振りまくから、人気があって当然。姉として慕ってくれているのが嬉しくて、鼻が高い。


 ついでに、森の様子がおかしいのが知っていた。そもそも森の一番近くに牧場を建てた原因は村を守るためだ。でも、守るのと積極的に手を出して問題を解決するのが別だ。真祖を要らない「人」の国には、手出すのが野暮だからな。


 「生老病死」は人間として避けられないもので、その循環を破る気はない。親しい者がなくなるのは自然に悲しいし、その成長ぶりを見て楽しく思う。手助けは簡単極まりないが、神に奉られるのはごめんだ。


 10年をかけて、我なりに家訓を理解したと言えた。「夜の帳に潜り込んで優雅に生きていきなさい」は、夜の一族である真祖が夜に溶き込んだ如く、姿を見せてはならないこと、かつ、優雅でなければならないこと、と一応解釈しておく。


 難点もあった。真祖だから、精霊と似て不老不死に近く、日照など影響ないし、吸血衝動もない。生きるのに必須なのはマナであるため、最悪石を齧ってでも生きられる。それはあくまで仮定の話で、空気中マナが充満しているから、食事は嗜みのようなものに過ぎない。

 

 難点と判断した理由も単純で、普通何十年も同じ土地で暮らすとなると、怖がられてしまうかもしれない。元々長い時間に同じ場所でとまる予定もなかった。


 なぜか、この地に我を怖じる者はいなかった。


 理由は不明。かつて真祖の一族に統治された地とはいえ、噂では我一族が恐怖そのものの代名詞で、それが理由で排除しようとした…


 これは違うなあ。民が良い生活をしていれば、統治者が犬であろうとかまわん。種族差別が禁止すると国に成文法で明言していたし、多宗教を認めて政教分離してきたから、宗教も原因に当てはまらない。


 やはり解せぬ。

 

 わからないものに拘る意味がない。話を戻すけど、食事が嗜み程度といえど、かけては歯がゆい。


 それでは、わが牧場を御覧に入れましょう。


 早速ですが、


 ごめんなさい。「牧場」もどき農園でした!


 それほど大きいわけでもない農園だが、果物、野菜、牛、ニワトリ、魚など、品沢山である。


 意味不明だよね。なら簡潔に紹介する。


 養魚池と水田が一体化して、稲を栽培しており、魚糞がそのまま肥料と化す。魚が成魚に成長すると、分類して隣の繁殖用の池や品定め用の池に移動させる。主にブナといった淡水魚を養殖している。


 淡水魚に好き嫌いがあるかもしれないが、内陸地に魚が食べられるから、売れ行きも悪くない。川で獲れなくもないが、量が安定しないし、川が大体森の奥に流れているため、淡々として行き来できる場所じゃない。村回りの川が生活用水の機能を果たしているので、魚が生息しづらい水質ではないが、そこでとれた魚を口に運ぶ勇気を持つ村人じゃないからね。


 果物はもちろん池を囲んで植樹している。落葉と魚糞で混合した肥料がなかなか良いから、お裾分けしているくらい好評だった。作物の要る元素が足りない可能性?マナでちょこっといじれば問題なし。っていうか、魔法の世界で何を求めているのよ!


 成魚の池もそうしているが、住居に一番近い池の周りだけに楓の木を植えて、池の中央付近に築山を置いといた。我ながら情緒もあるのだ。


 さすがに命を奪うような真似を自分の手でするのに抵抗があったから、「繁殖農家」まではうちの仕事で、食用牛のほか乳牛も取り扱っている。まあ、牛は食べるけどね。


 ニワトリは柵で囲んで飼うつもりだったが、畑で放し飼うことにした。ニワトリが逃げたり、畑の表面がカサカサにさせたり、苗の根を食い散らかしたりすることには心配無用。こういうときって「魔法が便利」と実感させられる場面かもしれない、が。


 うちは精霊を雇って管理しているから、魔法と関係な…なくもなかった。少量のマナを分けてあげることで喜んで雇われてくれたので、楽で結構。精霊たちも世話を焼きたがる性格の持ち主で、時々果物や作物の成長を促進したりしてくれるのも嬉しい。


 王女だったころの勉強で学んだことを生かすくらい、罰はあたらないだろう。


 紹介は簡潔じゃなかった(ぺこり)!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ