夜の街を眺めながら
窓を開けると、刺すような冷気が部屋になだれ込んできた。
タバコに火をつけ、燻らす。煙は風に流れて夜の闇に吸い込まれた。
街はまだ眠らない。
もう深夜だというのに、煌々とした街明かりが一つの塊となって、闇夜に浮かんでいた。
上京してもう五年。
初めは眠らない街にも騒がしい都会の喧騒にも驚かされた。
けれど、人は慣れる生き物だ。
今では当たり前の顔をして都会の高いビルの間を歩いている。
感動もない。
ふと、田舎と都会の違いについて考えた。
同じ日本の、地球の目線からすれば少しずれた場所でしかないその二つは、どうしてこんなに違うのだろう。
景色も違うし、人も随分と違う。
故郷にいる時は隣の家やその隣の家まで、なんという名前のどういう顔をした人が住んでいるか、自然と把握していた。
けれど、都会に住んでいる今の私は、隣に住んでいる人の顔も名前すら知らない。
人との繋がりが薄くなったと捉えるべきか、面倒な人付き合いがなくなったと捉えるべきなのか。
私は後者だろう。出来るだけ無駄な人付き合いはしたくない。
冷たいと言われればそれまでだけれど、これは元々の性格だ。人付き合いは苦手だし、気を使うのも苦手だ。
そういう意味だと、都会の方が性に合っている気がする。
けれど、同時に故郷に帰りたくなる自分もいる。
人に会うというより、景色を楽しみに生きたくなる。
都会には田圃も、綺麗な小川も、どこまでも続くような空もない。
私は故郷に帰ると、必ずと言って良いほど長い散歩をする。
懐かしい景色に挨拶をして、ゆっくりと深呼吸をする。
都会の排気ガスに染まった身体をリセットするのだ。
そういう意味だと田舎はとても居心地が良い。
まぁ、そんなこと考えたところで意味はない。
故郷はあくまでも故郷でしかない。
今の居場所はこの都会で、私は求められる限りここにいるのだろう。
暗く星一つ見えない空を眺めながら、眠れない夜に思考を深くしてしまった。
早く寝ないと明日に響く。