第七話 邪者との戦闘
「クロさん!」
「グガァァァ」
シンは自分のことをかばったクロに向かって叫ぶがもうクロの意識は邪者にとりつかれたせいでなくなっていた。その姿を見てシンは呆然としてしまう。
「シン、危ない!」
シンが立ち尽くしていると、クロがシンに向かって腕を振り下ろす。舞が危険を知らせるがシンは動かない。そのままクロの腕が直撃すると思われたが、“カンッ”と乾いた音が響いた。
そこにはコウが木刀でクロの攻撃を受け止めていた。
「シンしっかりしろ」
「…あ…ごめん」
シンは後ろに下がり、コウもクロの腕をはねのけ後ろに下がる。
「クロはどうなったんだ」
「たぶん、自我がなくなってるから、低級の邪者にとりつかれたんだと思う」
舞は冷静に状況を判断する。シンはまだうつむいている。
「シンもうあれは俺たちの知ってるクロじゃない。倒さないといけないんだ」
「わかってるけど…ぼくのせいで」
シンは自分のことをかばったせいでクロはこんな風になってしまったと自分の事を責めている。
「なら俺たちで戦うからシンは後ろで休んでて」
「でも…」
シンは歯切れが悪そうだが、コウは木刀を構え、舞は木の槍を構え前に出る。
「どうすればいいんだ?」
「私もまだちゃんと教わってないから倒すしかないと思う」
邪者にとりつかれた者は倒さなければならないとイチイから教わっていたが邪者だけを倒す方法までは教わっていない。なので、今はもうクロごと倒すしかできない。
コウと舞は、武器に魔力をまとわせた。そしてコウは邪者に攻撃を仕掛け、舞は魔力を集める。
「はっ」
コウは上段に木刀を構え振り下ろす。それをいともたやすく邪者は受け止め、握りつぶす。だがそれをわかっていたコウはすぐに潰された木刀を手放し後ろに下がる。そして舞の目の前に魔術陣が浮かび上がる。
―ショック―
魔術陣から電撃がでて邪者に当たる。
「どうだ」
少しはダメージが入ると思っていたが邪者は、無傷のままたっていた。
「無傷かよ」
コウは自嘲する。邪者はコウへと迫り腕を横薙ぎに振るう。コウは防ごうとするが木刀を手放してしまっていたので防ぐことができずもろに腹に攻撃を食らってしまい飛ばされて木にぶつかってしまう。
「コウ!」
舞が心配そうに呼びかけるがコウからの返事がない。コウは木の目の前で倒れこんでしまっている。
「…うっ」
かろうじてまだ意識はあるがダメージが大きすぎて起き上がれないでいた。その状態を見てチャンスと思った邪者は、追撃するために走ってコウの下に行く。それに反応が遅れた舞が慌てて助けようとするが間に合わず邪者がコウに向かってとどめを刺すため腕をおもいきり上にあげ振り下ろす。
もうだめかとコウは思ったが当たる前に“ゴンッ”と鈍い音が響く。コウは顔を上げるとそこには
「コウ、大丈夫」
シンが木刀で邪者からの攻撃を防いでくれた。そしてシンは木刀を持っていない方の手を邪者のお腹に手をかざすと莫大な魔力を集め魔術陣を展開した。
―バースト―
魔術を発動させると“パンッ”と破裂音がした。そして邪者は奥の木を倒しながら吹っ飛んでいった。
「今、回復させるから」
シンはコウに手をかざし治癒魔術を発動させた。そうしたらみるみるうちに回復していきコウは動けるようになった。
「ありがとう。だけどいいのか。クロを殺すことになるぞ」
「うん。僕も覚悟を決めるよ」
シンはたとえ自分がとりつかれたクロを殺すことになっても攻撃の手を緩めない覚悟だ。
「だけど、どうやってあいつを倒すの?」
「コウはあの剣術って使える?」
「…多分使えると思うけど木刀をあいつに握りつぶされちゃったからないんだ」
「なら僕の木刀を使って、切れ味をよくする魔術をかけてるからかなり切れると思うよ」
そう言ってシンはコウに木刀を渡す。
「コウはどうするんだ?」
「僕は、これを使うんだよ」
シンの言葉に疑問を持ったコウと舞だが次の瞬間その疑問は無くなった。シンは自分の手に魔力を集める。そこに小さな魔術陣が現れ、そこから炎が溢れだしてきた。
―炎剣―
炎は集束し剣の形になっていく。それをシンが握った。
「これで戦うからさ」
「すごいな」
「でしょ」
シンはいつも道理の調子に戻っていた。
「作戦はあるの?」
「うん。まずは―」
舞が聞くとシンは考えた作戦を伝えた。
「これでいい?」
「ああ」
「いいよ」
コウと舞が答えるとすぐに行動に移る。
「グォォォォ」
邪者が叫び三人に向かっていく。
「それじゃ、いくよ」
「分かった」
シンとコウが邪者へと切りかかる。だが二人の攻撃はいともたやすくはじかれてしまう。邪者は、炎剣を危険と判断しシンに狙いを定めた。シンに向けて腕を横薙ぎに振るう。それをシンは炎剣で綺麗に受け流す。そしてシンは邪者の後ろに急いで回り再び切りかかる今度は攻撃が通り邪者の背中に浅いが切り傷が付く。
「グギャァァァ」
邪者は傷つけられたことで怒りの叫びをあげる。そのまま乱雑にシンへと殴り掛かるが、怒りで攻撃が読みやすくなってしまい、シンに全てかわされてしまう。そしてまたシンが切りかかり攻撃が通る。だが邪者が右手のストレートで攻撃されそれを受け止めるがシンは飛ばされてしまう。
シンは、なんとか体勢を立て直し再び邪者の攻撃を受け続ける。
後ろから舞の魔術が発動され邪者に電気が襲い掛かるが無傷だった。舞は、魔術を連射していく。
邪者はうっとうしくなったため、地面をたたきつけ石や土塊が浮かび上がる。シンは、ひかざるを得なくなり後ろに退く。これにより、舞の魔術は浮かび上がった物に阻まれ当たらなくなってしまう。
邪者はニヤリと笑いシンへと襲い掛かる。シンは、すぐに防ごうとするが後ろに引く際に体勢を崩したため防ぐことができない。
そのまま邪者の攻撃をくらい飛ばされてしまう。邪者は、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべるが、それは、明確な油断になってしまった。
「いまだ!」
シンがそう叫ぶと舞が魔術を発動させる。するとコウが数人現れ一斉に邪者へと切りかかる。邪者は、焦り急いで腕を横に振りコウたちを薙ぎ払うとコウたちは魔力となり霧散していく。それを見て邪者が驚いていると
「これで終わりだ!」
―月華―
コウは邪者の一瞬のスキを見逃さず横に一閃。邪者は上半身と下半身を真っ二つにされ上半身が落ちた。切り口はとてもきれいだ。だが血は一切出ない。邪者にとりつかれた者は魔力の塊となってしまう。なので、倒された邪者は魔力が霧散し消えてしまう。邪者は切られたところから霧散していった。
シンは、殴られる直前で防御魔術を発動させ威力を和らげることができたため、さほどのダメージは入っていない。そして立ち上がると邪者になってしまったクロに近づいた。そして悲しい顔をしながら、
「ありがとう、クロさん」
そう一言いうと完全に邪者は消えていった。それを見ていたコウと舞は、シンを励まそうとするが
「さぁ、帰ろうか」
シンがこちらを振り向き言ってきた。その顔は無理して笑っている顔をしていた。コウと舞は、かける言葉がみつからなくなってしまう。そしてその場を後にした。
森の奥からいつもコウとシンが遊んでいる場所につくと三人は身体強化の魔術を使い走り出す。
「シン、大丈夫なのか?」
「うん、もう平気、心の整理は済んだから」
シンは笑顔で答えた。その笑顔はいつものシンの笑顔だった。もうシンは大丈夫だろう。
「邪者が出たことは師匠に急いで報告しないとね」
そういうとシンは走るスピードを上げた。
コウたちはイチイの家に着いた。もうあたりは暗くなり月が出ていた。
「師匠、戻りました」
シンがイチイを呼ぶと家の中からイチイが出てきた。
「おい、どうしてそんなボロボロなんだ」
コウとシンは邪者とおもいっきり近接で戦ったので服と体はボロボロだった。コウたちは森の中であったことをすべて話した。
「そうか。分かった。コウとシンは風呂に入って洗ってこい。舞は俺がポータルまで送ってく」
「じゃあね、舞」
「じゃあな」
コウとシンは家の中にある風呂に向かって行った。イチイの家の風呂は、それなりに広く大人6人くらいが足を延ばせるくらいの広さがある。
「ふぅ、今日は疲れたね」
「そうだな」
コウとシンは今日あったことを風呂に入りながら思い出していた。
「大変だったね」
「そうだな」
少しの間静寂がこの空間を包む。
「…よし、決めたよ」
シンは、何かを決心した表情になる。
「何をだ?」
「僕はもっと強くならないと。邪者は昔こんなことしなかった。だから僕は邪者がこんな風になった元凶を倒したい」
「一人でか」
「いや、僕一人じゃ無理だよ。だからさ、もし僕がその元凶を倒すときに一緒に戦ってくれるかい?」
シンは、笑顔で手を差し出してきた。コウはその手を強く握りしめ握手をする。
「いいぜ」
ああは言ったがシンはまだクロのことを気にしていたあの時もっと強ければクロに助けてもらう必要はなかったんじゃないか、あの時クロごと倒さずに邪者だけを倒す方法を知っていればと考えてしまう。
今日の事で自分たちは、強くならなければ大切なものは守ることができないとこの年で思い知らされてしまった。
そのためにコウとシンは、星空が輝く下で約束をするのだった。
イチイと舞はポータルへと歩いていく。
「今日見たことは、向こうで誰にも言うなよ」
「?分かりました」
舞はなぜイチイにそんなことを言われたのか分かっていなかったが、何となくそれにしたがった。イチイは今日舞が見たコウの剣術のことをあの家の者に知られないように舞にくぎを刺したのだ。もし、今シンの存在があの家の者にばれれば、確実にシンを自分の家に取り込もうとするだろう。千のように好意で自分の家に入れようとするものもいるがあの家は違う。コウの力のみを欲しているのだ。
「ここまでで大丈夫です」
「千さんに近いうちにそっちに行くって伝えといてくれ」
「分かりました」
舞はポータルに手をかざすと消えた。それを見届けるとイチイは今日コウたちにあったことを考えながら家に戻っていくのだった。