第四話 サバイバル
コウたちは、イチイがどこかに行ってしまい、二人での生活を余儀なくされた。
「コウ、今からはサバイバルだよ」
「サバイバル?」
「そう、師匠がいなくなったら食べ物なんて家にないし自分たちで集めるしかない。」
イチイは自分がどこかに行くときには家に何も置いていかないのだ。なので、シンは一人になるときはサバイバルをしている。一度だけシンはイチイが帰ってくるまで待っていたのだがその時は飢え死にしかけたのだ。
「森の中に入ればいいんじゃないの?」
コウは、森に入れば木の実などの食べ物があるはずなので食べ物には困らないと思ったが
「探検くらいならしてもいいかもしれないけど、食べ物をとりに行くにはさらに奥の方に入らないといけないから無理なんだよ。森の奥には上級異形がいるしへたしたら神格級の異形がいるかもしれないからさ。」
「上級異形?」
コウが聞きなれない言葉を聞き返す。
「あれ?師匠にまだ教えてもらってないの。ならおしえるね。」
異形にはそれぞれ強さの基準がある。低級、中級、上級、神格級の順で強い。神格級の異形の強さは、神と等しく出会ったならば即逃げることが賢明と言われるほどの強さだ。だが、神格級の異形はめったに人前に姿を現さないので心配する必要はあまりないのだ。
「食料は集められないけど。水くらいなら近くの川から汲んでくればいいから今から汲みに行こう。」
コウたちは、近くにある川へと向かった。川には魚が泳いでいたり動物たちが水浴びをしていた。
「川で泳いでいる魚は食べられないの?」
「ん?あぁ、泳いでいるのは魚だけど魚じゃないよ。」
「どういうこと?」
「それは―」
今川で泳いでいる魚やこの世界に住んでいる動物たちは、下級の妖なのだ。現界で死んで妖となってこの世界に来たり、長く生きて自然と妖へと変わってしまった者たちだ。なので、実態はあるがそれは全て魔力でつくられているため食べることができない。
「じゃ戻ろうか」
コウたちは水を汲み家へと戻って行った。
「シンはサバイバルに慣れてるの?」
「うん。慣れてる。よく師匠はどこかに行っちゃうからさ。」
イチイはかなりの頻度で家を離れてどこかに行ってしまう。
「ねぇ、コウ勝負しない?」
「勝負?」
「そう、剣でのみの勝負魔術は使っちゃダメ。どう、面白そうでしょ。」
シンはとても楽しそうな様子だったので断れそうな雰囲気はなかった。なので、受けることにした。
「いいよ」
「負けたら今日の昼食で何かしら食べれそうなものをとってきてもらうから。」
「えっ?」
シンはいい笑顔で言ってきた。シンは意外と策士だったのだ。本当の目的は単なる勝負ではなく今日の昼食を用意させることだった。
「ほら木刀持って」
シンが家に立て掛けていた木刀をコウに向かって投げ渡した。
「それじゃあいくよ!」
コウが受け取るとすぐにシンが駆けだした。そしてコウの目の前に来たら木刀を横に振るった。コウは慌ててかわして木刀を構えなおした。
「コウも攻撃してきなよ。」
シンに言われコウも攻め始める。だがそのすべての攻撃を木刀で見事にいなさしていく。そして逆に反撃をされてしまい腕に木刀が当たった。
「っ...」
そのままコウは防戦一方になってしまう。コウは思う。
(なんだろう。防いでるだけなのに楽しい。体が熱くなる)
そして、シンが木刀を上段に構え振り下ろした。だが今までの速度に比べて遅く見えた。カンッ、乾いた音が庭に響きわたった。コウはシンの攻撃を防いでいたのだ。
「なにそれ!」
シンはとても驚いた。なぜならコウは自分では気が付いていないが紅色の方の瞳が一瞬淡く輝きだしたかと思ったら不思議な魔力が発生し笑っていた。そこからコウの動きが速くなりシンは攻撃を受け流しきれなくなっている。そしてついにシンの木刀が飛ばされ首元にコウが持った木刀を突き付けられていた。
「はぁ、はぁ。俺の勝ちだ。」
コウは息を切らして疲れていた。だけど笑っていた。コウから発生していた不思議な魔力は、完全に消えていた。
「僕の負けだよ」
シンは両手を上げ降参を示し悔しそうにしながらも、負けを認めた。
「はぁ、僕が昼食を探すのか。ちょっと待ってて。」
シンはため息を吐きながらも、食べ物を探しに行くと思ったら、近くの花が咲いている方に向かった。そして手に花や食べたらいけない色をしている草を持ち戻ってきた。
「…それは?」
コウは、嫌な予感がし恐る恐る尋ねた。
「え?ご飯だけど」
まさかの答えが出てきたのだ。さすがのコウも記憶がないとはいえシンが持っているものは食べ物じゃないことくらいわかる。
「ほら」
シンがコウに花とやばそうな草を渡した。
「食べないの?」
「いや。さすがにこれは食べれるものじゃないでしょ。」
「おいしいよ。この草とか甘いし」
そういうとやばそうな色の草をおいしそうに食べ始めた。やばそうな草が甘いなんてありえないと思いながら食べてみると
「甘い」
「でしょ」
なんと甘くておいしかった。いや、ちょっと違うだろう。普通の人が食べたらこの草は少しだけ甘く感じるだけだがコウは病院にいるときから甘いものを食べてなかったためこの草が初めて甘く感じる食べ物だったのだ。
「この花もおいしいよ」
「おいしい」
花もおいしかった。二人は持ってきた分だけじゃ足りなくて花が咲く方に向かい、草や花を取り食べ始める。二人はやばかった。傍から見たら、男の子が二人草を食べながらおししいと感想を言い合っているのだから。
「おなかいっぱいだ」
「だな」
たくさん草を食べた二人は、腹が膨れ動けなくなってしまい座っていた。
「これから何するの」
「じゃあリベンジさせて、暗くなるまで戦って買った回数が少ない方が今日の夕飯とってくるっていうルールで勝負しよ。」
コウとシンは、それから暗くなるまで勝負をした。すべての勝負にシンが勝った。午後の勝負ではコウの動きが速くなることはなかったのだ。あの現象はもうわからない。コウが夕飯の草をとってきて食べ、そのまま疲れてコウたちは寝てしまった。
目を開けると朝になっていた。隣にいるシンはまだ寝ている。
「おい起きろシン」
「ん~」
起こそうとするがシンは起きようとしない。シンは朝が弱いなのでコウは、シンの鼻と口を押さえて息ができないようにした。
「ん…うっ…っ!」
シンが起きたのですぐに手をどけた。
「ゴホッゴホッ、何すんだよコウ!」
「いや、起きないからさ。」
「それでも起こし方があるでしょ。」
そこからさらにシンが怒り、なだめるのに時間がかかった。
「はぁ~怒ったら、お腹がすいてきた。」
「草でも食べよ。」
そう言ってコウたちは、近くに生えてい草や花を取り食べた。
「今日は何するの?」
「今日は森の中に入って遊ぼう。」
「森は危険じゃないの?」
「だいじょぶ、だいじょぶ奥に行かなければ強い異形はいないから。」
今日は森の中で遊ぶことになった。コウたちは、森の中へと入った。森には草木が生い茂り動物の姿をした下級の妖たちがいる。
「何して遊ぶの」
「魔術ありの鬼ごっこ」
「何それ?」
「魔術ありの鬼ごっこはね―」
魔術ありの鬼ごっことは片方が鬼となりもう一人を追いかけ捕まったら鬼を交換しそれを繰り返す遊びだ。そこに何でもいいから相手を妨害する魔術を使っていいというルールだ。
「じゃ、僕が逃げるから、10数えたら追いかけてきて。」
そう言ってシンは森のほうへと行ってしまった。
「―はち、きゅう、じゅう」
数え終わったのと同時にコウはシンが向かった方向に走り出した。そのまま5分くらい走ったがシンの姿が見つからない。なので、魔術を使おうとしたがコウは相手を探すための術式をまだ教わっていない。どうしようかと思っていると、
「お~い、コウそんなところで突っ立てどうしたの?」
奥の方からシンの声が聞こえたがコウには姿が見えない。
「魔術を使おうと思ったんだけど、俺攻撃用のちょっとした魔術しか教わってないからどうしようかと考えてた。」
「あっ、そっかごめんごめんそれじゃフェアじゃないね。ちょっと待ってて。」
シンがそう言うと目の前の草むらがガサガサと音を立て始めた。コウが警戒していると草むらからシンが出てきた。
「僕だけ身体強化の魔術とか使ってたらずるいもんね。」
そういうとシンがコウに身体強化の魔術を教えた。近くの木の棒をとりそれで地面に術式を書く。この術式は手に魔力を集めるのではなく体全体に魔力を巡らせて術式を頭で思い浮かべ発動するものだ。この魔術は自分で止めるか魔力がなくなるまで続いてしまうため調整をちゃんとしないといけない。コウは説明を聞くとすぐに試した。
「コウ、この魔術は難しいからできなかったら普通の鬼ごっこをし―」
シンがそう言いかけたとき、コウは体中に魔力を巡らせ、術式を思い浮かべた。すると、コウは、自分の体をとても軽く感じた。どうやら身体強化の魔術が成功したらしい。
「え⁉すごっ!なんでできたの」
「何となくできるかなって思ったらできた。」
「コウは天才だね」
コウは思ったことを伝えると、シンはとても呆れて言った。そしてシンが小さく「もう驚かない」と呟いていたが何に驚かないようにするのかは分からなかった。
「じゃ、始めようか5数えたら追いかけてきてね。」
そのままシンはまた森の奥へと行ってしまった。コウは5数えた後シンを追いかけた。身体強化の影響でさっきより動ける。コウは、こんなに動けるならできることがあると思い、木に足をかけ蹴った。するとそのまま前に走るより速く飛び進むことができた。そのままさらに前にある木を蹴り進んでいく。そうやってどんどん前に進んでいくとシンが走っていた。コウはシンを見て安心し下にある魔術陣に気づかなかった。そして、何かにぶつかってしまった。
「⁉」
「え!もうきたの、だけど残念だったね。罠に引っかかるなんて、じゃあね」
そういうとシンは言ってしまった。見えない壁は魔術で出来ている。コウは、迂回しようと思い下がろうとするがまた見えない壁にぶつかってしまう完全に見えない壁に全方位囲まれてしまっている。下にある魔術陣が原因だろう。だがコウにとって初めて見る魔術で何が何だかわからない。どうやって出ようと考えているとイチイの言葉を思い出した。
「もしも面倒な魔術を受けたらとにかく攻撃魔術を打ちまくれ。」
とんでもないアドバイスだったが今のコウの状況にはとても適していた。コウは使える魔術がさっき覚えた身体強化と攻撃用魔術しかないからだ。なので、コウは手に魔力を集めたそして、コウの手の先に手のひらサイズの小さな魔術陣が現れた。
―エア・ランス―
魔術陣から風が発生し、一点に集まっていくそして圧縮された風が小さな槍のような形へと変わっていき放たれた。風の槍は見えない壁を貫いた。そこから壁にひびができ、広がっていった。パリンッとガラスが割れるような音がし、見えない壁がなくなった。
コウは急いでシンを追いかけた。そしてシンが見えてきた。そのままシンへと体当たりをして捕まえた。
「つか、まえた」
「もう、少し時間、を稼げると、思ったんだけどなぁ。」
二人はその場に息を切らしながら倒れている。少し時間がたった後、コウはあの罠について聞いた。あの罠は魔術陣を設置し上に人が来ると魔力の壁を作り出し閉じ込める魔術だという。頑丈ではあるが少しでもひびが入るともろくなってしまう。
「へぇ~」
「次はコウが逃げる番だよ10数えるから逃げてね。」
コウたちはそれから鬼ごっこを繰り返し行った。周りが暗くなるとコウたちは森から出て家へと戻った。家に戻るとぐぅ~と可愛らしい音が鳴った。
「そういえば今日はほとんど食べてないね。」
「草も食べつくしちゃったしな」
そう、コウたちは昨日と今日の朝で近くに生えていた草や花をすべて食べてしまい、今、草が生えていた場所はもう何もなかった。
「どうしよっか。」
そんなことを話していると、家の扉が開いた。
「戻ったぞ。」
「食べ物が来た」
イチイが戻ってきた。シンは変な喜び方をしていた。それも当然だろう。さすがに草だけ食べていたらすぐにお腹がすいてしまう。そんなことをシンが言うとイチイに頭をつかまれていた。
「痛い!痛いです師匠!」
「師匠が返ってきたのに、食べ物とか言って喜んでるやつにはちょうどいいだろ。」
「理不尽でしょ⁉」
イチイはかなり力を入れている。そのせいでメキッという音が時折聞こえてくる。絶対に頭蓋骨が割れているだろう。しかしそんなことお構いないしにまだ掴んでいる。
「安心しろ、ちゃんと回復させながら掴んでるからな。」
「え~」
もうシンはあきらめて掴まれている。数秒して解放されたシンは、頭を抱えてうずくまってしまう。
「ほらお土産だ。」
そういうとプラスチックの箱に入った、焼き鳥を出した。そこからとっても香ばしい香りがしてくる。
「これは?」
「これはな焼き鳥っていう食べ物だ。おいしいから食べてみろ。」
コウは、そういわれ食べてみると、とてもおいしかった。昨日から食べていた草なんて比較にならないほどおいしい。
「おいそんな美味しそうに食べて今まで何喰ってたんだ。」
「そこに生えてた草とか花です」
「おいそれ食い物じゃないぞ」
「え?」
コウはまさかのことを言われ、シンの方を向くとシンは
「えっ、あれ食べ物だよ」
真顔で言われたので本気でそう思っているのだろう。どうやらイチイとシンで考えの違いがある。
「師匠はあの草食べられないって言いますけどおいしいですよあれ。」
「そんなわけないだろ。」
「それは師匠の味覚がおかしいんですよ」
イチイが呆れて言う。そしてシンが反論をしそのまま口論になってしまうがすぐに決着がつきシンが何も言えなくなっている。コウたちはご飯を食べ終わると動き回って疲れたせいか、すぐに寝てしまうのであった。