第零話 プロローグ 研究所
信じてきたものは脆く一瞬にして崩れ去る。
少年の目の前で次々に家族と思っていた人たちが無慈悲にも次々に殺されていく。
「助けて」
少女が少年に助けを求めるが、胸を黒い何かかが一突き、少年の目の前で絶命した。
「なんで…なんで、こんなことするんですか!」
「実験ですよ」
研究者のような風貌の男から黒い何かが溢れだしている。絶対的な力の差、昨日まで信じていた人物の裏切り、男が目の前で大切な人たちを恍惚とした表情をしながら目の前で無残に殺していく。
少年の心の中には沸々と怒りと悲しみの感情が沸き上がってくる。そこで少年の意識は途切れるのだった。
うっそうとした森の中、森の奥へとかけ進んでいく人間がいた。
「はぁ~、なんで任務とはいえ、こんな森の中に行かなきゃいけないんだよ」
「しょうがないじゃろ。盟主様からの命令なんじゃし」
だるそうにしている男の名は、神藤 イチイ。整った容姿でサラサラの黒髪に鋭い金色の瞳。
そんなイチイをなだめるのは幼い少女。少女の名は、幻条 千、艶やかな短く切った金色の髪に優しそうな金色の瞳。見た目に反して達観している雰囲気がある。
「イチイ、この先に邪者の研究所がある可能性があるから行かないわけにはいかないだろ」
「禅、そうは言うがこんなよく分からない森の中で調査とか最悪だろ」
ガタイがよくツンツンした赤髪に黒眼の男、この男の名は鬼川 禅。
この世界には、異形と呼ばれる存在が住んでいる。邪者と呼ばれる存在は異形の中でも最も危険な存在であり他の異形や人間を滅ぼそうとしている。イチイたちは、ここに邪者の研究所があると聞きやってきたのだ。
そんな中イチイたちは、不思議な感覚に襲われる。
「グギャァァァ!!!」
「オォォォォォ!!!」
周りから異形たちの叫び声が聞こえてくる。
「どうなっとるんじゃ。異形どもが叫んどる」
「ああ、確かにこれは異常だ」
異形は、通常一斉に叫び声をあげることはない。
その時、三人の前方から大きな爆発が起こり膨大な魔力が流れ込んでくる。魔力とは、この世界に存在する力の事だ。
「これはやばいな。急いで行くぞ」
『了解』
三人は、森を一気にかけ進み森を抜けるとそこには
「⁉」
目の前に広がっている光景を見て絶句した。
目の前には、先ほどの爆発が原因と思われる建物の破片や周りに生えていた木々の破片が散らばっている。
「これはひどいな…?っ!」
イチイが建物の破片が散らばっている方へ向かって走っていく。
「おいっ、どうした」
イチイは禅の言葉を聞かずに急いで瓦礫をどかし始める。
「やっぱりか」
瓦礫の下には倒れている幼い少年がいた。急いで少年を助け出したが気絶しているため意識が無い。なぜイチイがすぐこの少年に気づくことができたかというと瓦礫の下から不思議な魔力を感じ取ったからだ。
少年を安全なところへ運ぼうとするとイチイの頭の中に愉快な声が響いた。
(イチイ、不思議な奴を拾ったな)
「なんだよ。親父」
(この少年から、不思議な魔力を感じるぞ)
「魔力の正体はなんだ」
少年からは、まだ微弱ながら魔力を寛喜ることができる。
(この少年自身の魔力だよ。だがこの魔力は、まさか)
声の主は、何かに気が付き思考を止めた。
「何か気づいたのか」
(それは自分で考えろ)
「ちっ、また秘密かよ」
イチイは不機嫌そうに片手で頭をかく。だがこの少年には何かあると確信できた。
「おい、どうした」
「生存者だ。特に目立った怪我は見当たらない」
「生き残りか」
禅は考える。少年からは邪者特有の禍々しい魔力は感じない。
「この少年どうしますか、幻条さん」
「とりあえずその少年は、向こうに戻ったら病院に連れていく。ここで何が起きたか知っている可能性が高いからのう」
そう言って、この場の調査を進める。
「俺は、ここで少年の様子を見とくから調査はそっちでやってくれ」
イチイは、少年を安全なところに寝かせる。イチイは、なんとか少年の魔力がどんなものか突き止めようとするが全く分からない。そんな風に悩んでいるとまた頭の中に声が響く。
(少しヒントをやろう)
「答えを教えてくれてもいいんだぞ」
(それだとお前の成長にならんだろ。ヒントは人と異形だ)
それだけ伝えると声は聞こえなくなった。
「回りくどいな」
イチイは、コウの魔力をもう一度確認し、声に言われたことを意識すると一つ分かったことがあったがこれには苦笑いするしかなかった。
「まじかよ」
「イチイどうしたんだ」
二人は、一通り調査が終わりイチイのところに戻ってきた。
「いや、なんでもない。それでそうだった」
「特に何も見当たらなかった」
「こっちもじゃ」
二人ともこの場所からは何も見つけることができなかった。このまま少年を連れて戻ろうとするとイチイがある物を見つけた。
「?あれはなんだ」
「ん?どれのことだ」
イチイが爆発のせいで瓦礫以外ない中に不思議な花を見つけた。それは、百合のような形をしており花びらが薄い金色だ。だが花はすぐに散っていき、禅は不思議な花を見ることができなかった。
「どうしたんじゃ、早く行くぞ」
『了解』
イチイたちは、研究所だった場所から、少年を伴って病院へと向かった。
「じゃあ、盟主様に報告しに行くから、その少年の事は任せたぞ」
「分かりました。幻条さん」
千と別れた後イチイと禅は少年を医者に診せる。医者からは、少年はそのうち目を覚ますだろうと言われ、少年は、念のため入院することになった。
二人は、少年を入院させた後話し合っていた。
「イチイ、この少年は何者だと思う」
「…さあな」
「…そうか」
禅が質問すると。イチイが眉をピクリと動かし答える。禅はその反応を見てイチイは、この少年について気付いたことがあると思ったが会えて聞かないようにした。イチイは、この少年が自分と似ている存在であることに気づいた。
それから十日経った日、少年は目を覚ました。
初めましてMTUです。小説を書くのは初めてなので誤字脱字も多いと思いますが、この物語を楽しんでいただけると嬉しいです。気に入っていただけたらぜひブックマーク登録よろしくお願いします。