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第七話

この魔導学園では魔術の歴史を学び、魔術、ひいては人類の発展のために何が必要かを考え、魔術の基礎や科学的な知識を実践を交えて体得していき、それぞれが魔道を極めることを目標に掲げている。


「━━そうして神々の戦争は、創造神様の率いる軍勢が勝利した。その後数百年に渡り邪神を崇拝する邪教徒と歴代勇者様の戦いが続いたが、十年前に邪教の教祖が討伐されたことで、この争いに終止符がうたれた」


魔導学園で行われる最初の授業。

世界の成り立ちと魔術の基礎。


この世界は創造神によりつくられ、創造神を含む七柱の神により運営されてきた。


ある時、運営方針の相違により、争いが起きた。


創造神と黒の女神の対立。


最終的には創造神側に他の五柱がついたことで、黒の女神は敗北し、邪神と呼ばれるようになった。


という話だ。


「━━創造神様によってつくられたこの世界は魔素により構成される。その魔素に働きかける力を魔力と呼び、魔素を魔力で操り、世界に干渉する術が魔術とされる。まだまだ研究途上の部分も多いが、魔術は世界の法則の中でおよそ人間の想像が及ぶ全てを行うことができる。そして、世界の法則の外にあるものを魔法という。……とまあ、最初の授業はこんなところだ。次回からはより詳細な話をしていく。今日はこの後昼休憩を挟んで、演習場での体力測定だ」


そうして、学園の最初の授業は終了した。


休憩の時間になり、教室の皆は自己紹介の後に出来たであろうグループで食事に向かっていった。


「リーゼロッテさんも一緒に行こうよ」


「はい。一緒に行きましょう」


王女様も数人の女子と連れ立って食堂に向かうようだ。


どうやら彼女が一人になる機会は少なそうだ。


彼女の護衛として入学した女子が数人この教室にはいて、常に目を光らせている。また、他の教室にも護衛がいるようだが、その全容は知れない。何より一番厄介なのが━━


「━━リーゼロッテ様、私もお供します」


光翼の魔剣使いアレクシス・ヴォルフガング。


王女の護衛のために、わざわざ隣の教室からやって来たようだ。


「おや、ヴィクトール君もこちらの教室だったのか」


当然、王女の隣の席に座る僕には気づくよな。


「やあ、アレクシス。昨日はありがとう。楽しい話を聞かせてくれて」


「まだまだ話し足りないのだが。すまない、続きはまたにしよう」


「ああ、またの機会に」


勇者の話になると止まらないアレクシスだが、今は護衛が優先だと心得ているのだろう。王女の方に向き直る。


「ヴィクトールさん、アレクシスとお知り合いだったのですね」


「昨日寮の食堂で偶然知り合いまして」


「せっかくですから、ヴィクトールさんも一緒に行きませんか?」


「……それは、王女様のお誘いとあらば是非に」


まさか彼女の方から話しかけて来るとは思わなかったが、断る理由はない。ここで接点を作っておいて損はない。


「王女様ではなく気軽にリーゼロッテとお呼びください」


「では、リーゼロッテさんと呼びますね」


「よろしくお願いします。それでは食堂に向かいましょうか」


誰とでも分け隔てなく接して、対等な友人関係を築こうとする姿勢は立派だ。彼女の柔らかな笑顔を見れば、どんな悪人も心を許すことだろう。


リーゼロッテを中心にして周りを囲うようにして食堂に向かう集団の少し後ろをついていく。


すると、いつの間にか隣を歩いていたアレクシスに話しかけられる。


「出会ったばかりの君にする話しではないかもしれないが、ああ見えてリーゼロッテ様は敵が多い」


「意外だな」


「自分から積極的に敵をつくることはしない。しかし、彼女の誰にでも等しく接する優しさを快く思わないものもいる」


それは仕方ないことだ。


単純に優しさを独占したいと思うものもいるだろう。

それに、根本的に彼女の有り様がこの世界の摂理に反する、という部分もある。


力の強いものがより強く、永く繁栄すること。それが創造神の運営方針だ。


弱いものに手を差しのべ、寄り添うこと。それを運営方針とした神様とは真逆の考え。故に対立が起きた。


個人の考えは自由だが、王族であり、神の愛し子であるリーゼロッテの立場は複雑なものだろう。


「それは大変だろうな」


「私達は護衛だ。リーゼロッテ様を御守りするのが使命。時にはリーゼロッテ様の心を無視する必要もある。だからこそ、ただの学友の一人として、君にはリーゼロッテ様と仲良くしていて欲しい」


「わかった。僕の出来る範囲でになるけれど」


「ありがとう。今はそれで十分だ」


僕が積極的にリーゼロッテと仲良くすることはないだろう。

しかし、アシュレイとの約束を守るためにも、それまでは彼女には元気に過ごしていてもらう必要がある。

リーゼロッテを害するものは、僕の目的を邪魔するのと同じだ。


しばらくはただの学友として過ごすのも悪くないだろう。

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