第四話
「この肉もすごくうまいぜ!」
同部屋の四人で親睦を深めようということで、寮の一階部分にある大食堂に来ていた。
中央のテーブルにところ狭しと並べられた色とりどりの料理たち。そこから好きなものを自分で皿に盛り付け運んでくる形式だ。
料理からは離れているが、食堂の一番奥の席が空いていたため、そこで食事をしている。
ギャランの目の前には様々な肉料理が置かれていた。
「野菜も食べた方がいいよ」
そう言うユーリは野菜しか食べていないようだ。
「こういうのは全部の料理をちょっとずつ食べるのがいいんですよ」
テオの皿には今日出されている全ての料理が乗っていた。複数が混ざりあって元の料理がわからないものもありそうだ。
「まあ色々な食材を満遍なく食べるという点には同意かな」
僕の手元には、テオほどではないが、数種類の料理が乗った皿がある。
「━━それで、勇者の話だったかな? 最近はあまり聞かないよね」
しばし料理に夢中になっていたが、ここに来るまでに話題となっていた話をユーリが持ち出してくれる。
「俺たちが5歳かそこらの頃の話だろ。あんまりよく憶えてないけど、凄い強い正義の味方だよな。勇者ごっことか言いながら、近所のやつらと木の棒を聖剣だーって振り回して遊んでたな」
「自分はそういう遊びの時って、大概やられ役だったんで良い思い出ないですね」
「……なんて言うか、ごめんな」
「いえ、ギャランが悪いわけではないんでいいんすけど」
あからさまにテオの表情が暗くなる。相当嫌な思い出なのだろう。
「でも結局、勇者の正体は謎のままなんだよね?」
しかし、まだ聞きたいことがあるのでこの話題を終わらせるわけにもいかない。テオには悪いが我慢してもらおう。
「黒いマントに黒い仮面、その上黒い剣と来たら、見た目は不審者だよな」
「犯罪組織、邪教に人類の敵。一般人の手に負えない悪を次々倒した正体不明の勇者、という話が伝わってるだけだしね。年齢性別実在すら不確かだからか、想像で色んな物語は作られているけど」
「━━勇者様は実在する」
隣の席で食事をしていた男子生徒が、会話に参加してくる。
「いきなりすまない。私の名はアレクシス・ヴォルフガング。勇者様の話が聞こえてきたのでつい」
「アレクシスって、実技試験首席のアレクシスかよ?」
「ああ、入学試験の順位はそうなっている。武器の性能に助けられただけだがね」
謙遜しているが、実力は確かなものだろう。今日学園に来てから目にした誰よりも、落ち着いた空気を纏っている。
アレクシス・ヴォルフガング。
金髪で整った顔立ち。
入学試験の実技試験首席。
そして━━
「勇者様に授けられた光翼の魔剣。これが、勇者様が実在する何よりの証拠だ」
勇者へとつながる魔剣使いだ。
「それは勇者本人から受け取ったのかい?」
アレクシスが腰に提げている白い剣は、尋常でない魔力を放っている。
「10年前のあの日のことは、忘れもしない。悪鬼に襲われた故郷を救い、私に剣術を教えてくれた。大切なものを守れるようにと魔剣まで授けてくれた勇者様には、一生かかっても返しきれない恩がある」
「ちょっと詳しく教えてくれないかな」
「俺も本物の勇者ってのがどんなか興味あるぜ」
「……自分も」
なんと言っても勇者は子供の憧れ、夢の存在。その活躍が聞けるとあっては、皆興奮を隠せない。
「いいだろう。よく聞きたまえ」
その後は、アレクシスが体験した勇者の戦いの話を聞いた。
脚色されていると言われた方が納得出来る程の活躍ぶりには、若干引いた。
━━日の光が消えた夜の闇の中。
寮の部屋から抜け出した僕は、人気のない林の中にいた。
学園の敷地内に人目につかない場所があって助かった。
「上手に魔剣使いと接触できましたね、我が愛し子よ」
夜とは、創造神の加護が届かない時間を指す。
明かりはなく、人々は寝静まる時。
逆に、そこでしか活動できないものもいた。
「おほめにあずかり光栄です。これも神様のお導きのおかげです」
「かたーい! 神様じゃなくてミーネちゃん、て呼んでって言ってるでしょ!」
僕が生まれたときから信仰している黒き女神、ミーネ様。
なめらかな糸のような黒髪は腰くらいまでの長さで。
透き通るような白い肌は、実際少し透けている。
ゆったりとした黒い衣装ではっきりと足元は見えないが、実体のない神様は地面から浮いている。
魔力で身体を形成する神様の姿を見られるのは、神様と同じ目を持つ僕だけだ。
「神様ですから。そう言う訳にはいきません」
「やっと夜になって出てこられたんだから優しくしてよー」
見た目や言葉づかいはわがままな少女。
そんな神様は、世間では邪神と呼ばれている。
「そんな事よりも、大事なお話があるのでは?」
「もう。……それでは、我が愛し子ヴィクトールに命じます。吸血鬼アシュレイ、勇者の弟子アレクシス、学園長ジークヴァルト。この学園にいる三人の持つ魔剣を奪いなさい」
「承りました」
神託は下った。
だが、これは僕の目的のためにも避けては通れない道だ。




