第二十一話
「━━せっかくだから、ここへ招待してあげましょう」
人類を殺す為に生まれた種族━━七つの殺人種。
人類の敵とされる存在で、人間とは隔絶した能力を持つ。単純な力比べで人間に勝ち目はない。また、それぞれの種に与えられた固有能力も強大。それでも人類が絶滅していないのは、殺人種には明確な弱点があるからだ。
吸血鬼であれば紅い瞳。悪鬼であれば蒼い角。といった風に。
そこをつくことが出来れば、子どもでも殺人種を倒せる。
故にこそ、人類は殺人種に抵抗し、滅びの運命を回避することができている。
「招待? 吸血鬼を学園に?」
普通、そんな天敵を自らの生活圏に招いたりしない。
生まれた時から敵同士。たとえ同じ言葉で会話をしていても、根本が違うのだ。
しかし、一時的な協力関係、互いに都合良く利用する道具としてならば、これ程強力なものはない。考えを理解し、使いこなせなければ、待っているのは明確な死でしかないが。
「私が王都に遊びに来ていることまでは知っていても、私が学園の中にいることまでは知られていない。わざわざ殺人事件を起こして自らの存在を誇示していることからも、それは分かるでしょう?」
「何も考えていないのかもよ」
「そうかもね。だからこちらへ、招待してあげましょう」
何が、だから、なのか。
学園に吸血鬼を招き入れる。
そんなことが許されるはずはない。
何より、招待してどうするつもりなのか。
大人しく仲間と家に帰るはずもなく。殺人事件を起こすような存在と話し合いで済むとも思えない。
戦闘になった際に、吸血鬼二人を相手取って切り抜けるのも難しい。
しかし、彼女が言い出したからには、それは直ぐにでも実行されてしまうのだろう。ならば、近くで介入できる隙を探り、可能な限りこちらに有利な状況にするしかない。
「わかった。それで、どうやって招待するつもりなんだ?」
「簡単。こうするの━━」
閉ざされ、外の世界とは容易に行き来できない学園において、常識の外側を生きる彼女達は、あまりに危険。
エミリアはどこからか取り出した繊細な装飾が施されたナイフで、自らの右手首を素早く切り裂いた。
「━━吸血鬼に与えられた色は紅。その血は焔、やがては灰となり、新たな生命を息吹かせる」
手首から溢れ出す血は言葉通り燃え上がり、深紅の焔となる。それは地面に滴ることなく風に揺られ、灰となって宙を舞い。そのまま吹かれてどこかへ飛んで行く。
「これは私たちの間でのみ通じる合図。吸血鬼はどんなに離れていても血の香りだけは間違わない。きっと夜には私の仲間がやってくるでしょうね。その時はお願い。一緒に説得してくれるわよね」
有無を言わさぬ微笑み。
これ以上騒ぎを起こされるのも本意ではない。
「僕が力になれるかわからないけど、わかったよ。協力しよう」
僕にどれだけのことが出来るかわからないが、良い機会だ。いずれアシュレイは殺す。その前に同族から弱点を探ることが出来れば、これ程有意義な時間はない。
あくまで、僕らはお互いを利用し合うだけだ。




