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第十八話

人気のない、校舎の端に位置する教室で。勇者研究会として活動するために、僕たちは集まっていた。


「色々調べようにも、許可証がないと外出できないからねー」


そう言ってエマはため息をつく。


何度か研究会として集まって古の女神について調査をしているが、いかんせん対象が誰もが口をつぐむ邪神様。学園内の資料では限界がある。だからと言って、外に情報があるわけでもないが。手がかりになるとしたら『魔剣』、『黒』、『勇者』といったところか。


まあ、純粋に外出したいだけかもな。


「規則だから仕方ない。けど、リゼには頑張ってもらうから」


「はい。必ず試験には合格してみせます!」


試験を目前に控え、リーゼロッテにも気合いが入る。イルザからの圧力も良い方に作用しそうだ。彼女の議題について聞いてはいないが、エマやイルザがついているなら問題ない。


「ヴィクトール君、ちょっといいかな?」


「どうしたアレクシス?」


入口近くに立って全体を見回していたアレクシスに声をかけられたので、彼の方へ歩み寄る。


「ここしばらく調べものが多かったから、体を動かす時間が減っていたものでね。少し付き合ってもらえないか?」


「ああ。少しは体を動かした方が頭の回転も良くなるからな。手合わせ願おう」


これは彼の能力を直接測る良い機会だ。


「感謝する。すみませんが、リーゼロッテ様をお願いします」


「まかせて」


「問題ない」


「それでは少し外します」


エマとイルザにリーゼロッテの護衛を任せると、アレクシスは手近な演習場に向けて歩きだす。僕は黙ってついていく。


しばらく歩くと、誰もいない演習場につく。


学園の施設の利用には事前申請が必要なものもあるが、演習場で体を動かす程度ならば自由に使える。


「魔術の使用も有りで良いかね?」


「もちろん」


演習場の中央にいき、少し離れた、双方が手を伸ばしても届かない距離感でとまる。


僕たちはクラスも違えば、寮の部屋も違う。今まで直接手合わせする機会はなかった。


アレクシスはリーゼロッテの話から。


僕は実技試験主席という肩書きと先日の魔剣披露で。


お互いの情報はその程度しかない。


故に、はじまりはゆっくりとした動作だった。


全身に巡らせる身体強化の魔術。アレクシスが使用した魔力量から、僕も同程度の強化を施す。その状態で、様子見で繰り出される拳を受け流していく。


そこから徐々に速度を上げながら打ち合う。


魔術による強化だけでなく、魔剣を持っているだけで身体能力が上がるのか。


僕の見立てでは素の身体能力に大きな差はない。魔術も同程度に調整している。それでもアレクシスの方が僅かに速い。一旦距離をとるか。


一歩引こうとした動作を隙有りと見たのか、重心を落とし力強い踏み込みから正拳突きが放たれる。


かわせないなら、その勢いを利用するまで。僕はアレクシスの拳を受けながら後ろに跳ぶ。


開始時と同じくらいの間合いで見合う。互いに一呼吸。


これなら実技試験主席というのも頷ける。正統派の動きだ。


対する僕は、レイさんから強く影響を受けた動き。試験で評価されるような武術ではない。


こちらを休ませてくれるつもりはないようで、アレクシスの手から魔術が発現する。


それは光輝く白刃。


先日目にした光翼によく似ているが、数も質も劣る。それでも、触れれば容易に人体を切り裂くだろう。


直線的な動きで飛来する白刃を、魔力操作のみで逸らす。


距離をとるのも良くないか。


次々と白刃を逸らしながら、アレクシスの意識の外をいくように、魔力補助した重心移動と足運びによって距離を詰める。


彼からは、目の前に、いきなり僕が現れたように感じたことだろう。


右手に作り出した氷の刃を、アレクシスの首もとに突き付ける。


「━━勝負あり、かな」


「リーゼロッテ様の話は半信半疑だったが、これほどとは。……私の負けだな」


「とはいえ、今のは軽い運動みたいなものだ。お互い全力でもなかっただろう?」


魔剣を使われていたら、果たして対処出来ただろうか。


「そうだな。私も君の実力の一端が知れて良かった。改めて、君がリーゼロッテ様の友達になってくれたことが喜ばしいと思うよ」


「大げさだな」


アレクシス・ヴォルフガング。


決して魔剣だけの男ではない。


彼が立ちはだかる限り、リーゼロッテの身に危機が迫ることはないだろう。

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