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第十七話

「やあ、アイリス。相変わらず今日もすごいね」


あれから一週間、僕はできるだけ図書館に通うようにしていた。


最初に彼女と会った時から変わらず、周りに多くの本を積み上げたアイリスに声をかける。


「こんにちは。そういうヴィクトールも毎日熱心だよね」


出会った時よりも砕けた口調になった彼女が答えた。


隣の席に座り、手にしていた本を傍らに置く。


「もう少しで考えがまとまりそうなんだけど。後一歩何かが足りないんだ。アイリスの調子はどう?」


「わたしも手詰まりで。ちょっと聞いてもらってもいいかな?」


この一週間で、彼女はふわふわとした見た目に反して鋭い思考をすると感じる場面がいくつかあった。そんなアイリスがどんな答えを導きだすか興味がある。


「もちろん。聞かせてよ」


「〈“雷電魔術”を有効的に活用できるのは一週間の中で何日か意見をまとめよ〉━━一週間の中に雷の神はいない。でも、雷は時に、神鳴り、神成りといった風に言い表されるの。この事からも、雷が神の影響下にある現象であるのは間違いないよね」


「確かに。雷を神聖視したり、超常的な力として扱う文化はある。ここで言う神とは、創造神のことだね」


自然現象での雷は、神が起こすものだと考えられていた時代もある。時には神と同列視されたりもした。


「つまり、雷電魔術は白日において有効である」


「だったら、他の神はどうかな?」


「雷は風雨と共に発生することが多いよね。それは地面が受け止めることになるし、落雷のあった場所では作物の実りが豊かになったという話もあるの。また、落雷の場所によっては火災がおきるし、電気を流すことで熱を発生させられる。それに金属は電気をよく通す」


「雷電魔術は全ての神に通じる。よくそこまで調べたね」


「わたし、夢中になると止まらないみたいで。でも、どの日が答えなのか余計にわからなくなっちゃったよ」


そう言って、アイリスは苦笑いを浮かべた。


そこまで調べあげているならば、すぐに彼女なりの答えを出せるだろう。ならば、一言くらい助言しても悪影響はないか。


「今の話からすると、一週間の全部の日で有効的だからね」


「そう。一週間全部でね。……え、まさか!?」


どうやらアイリスは気づいてくれたようだ。


「どうしたの?」


「わたし、議題文の“何日”を、どの色の日かを問われていると思ってたの。でも、何日間か、だったら答えは間違いなく七日間になる」


そうだ。一見答えの無さそうな問題も、捉え方次第で回答が生まれる。


「そんな冗談みたいな話があるかな?」


「ある、かも? あの魔術師協会から来たって人は、言葉遊びが好きそうだったから」


「そうだね。七日間。一つの方向性としては、いい考えだと思うよ」


討論会は一人で行うわけではない。当然、各々の考えがある。一致することもあれば、違う意見が出ることもある。


それでも、自分の中に論理立てて説明出来る答えがあれば、落ち着いて挑めるだろう。


アイリスなら、認定試験に関してはもう心配いらないな。


「ありがとう! ヴィクトールのおかげで、万全の状態で試験に臨めそうだよ」


「アイリスが頑張ったからだよ。僕も一緒に読書していて楽しかったし」


アイリスが教えてくれた本は全部が役立つものだった。僕も少しくらいは手助けをしたいと思うのは当然だろう。それに、彼女の満面の笑みを見るとこちらまで嬉しくなる。


「ところで、ヴィクトールは何を悩んでいるの?」


「寝ている間は魔術を使えないよね?」


「さすがにそれは無理だよね」


「だよね。魔素を物質化していれば消えてなくなることはないけれど、物質化でない魔術、身体強化とかは眠ったらとけてしまう。空間魔術はその辺りどうかな、と」


「どうだろう? 空間はわたしたちが生活している世界だよね。そこに干渉する魔術となると物質に影響を与えているのかな。でも、何かを形作る魔術とも言い切れない。……待って、そもそも、空間魔術で何をしようとしているの?」


「やっぱりそうなるよね。空間魔術が何をする魔術なのかを決めなければ、議論にすらならない」


空間移動。収納空間。活動空間。空間には色々な側面がある。物質的なもの、非物質的なもの。捉え方次第で、可能にも不可能にもなる。それはこの一週間に読んだ本からも得られた知識だ。


「……もしかして、そっちも実現の“可能性”について考えるだけでいいの?」


「可能性についてある程度理論的な説明は必要になるだろうけれど、僕はそうだと予想している」


問題は、その理論的な説明が出来るかどうかだ。

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