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第十五話

「今日集まってもらったのは、二つの重要な話があるからだ」


魔術師許可証の認定試験を二週間後に控えた日、一学年全員が大演習場に集められていた。


「先ず一つ。今までの授業でも度々話してきたが、これは実際に見た方が早いと思う。魔術と魔法の違いについてだ。━━来てくれ」


教師に呼ばれ、注目の集まる大演習場の中心部に、アレクシスが立った。


「これから多くの魔術を知るだろうが、早い内に良く覚えておいてもらいたい。魔術と魔法は根本的に違う。魔法にはこの世界の法則は通用しない、ということを」


アレクシスが腰の魔剣に手を掛ける。


「世界の法則の中において、魔素は万能だ。魔素を夢の欠片などとうたう詩人もいる。魔術は人の想像の及ぶ範囲で何でも出来る」


アレクシスが魔剣を抜き放った時、辺りは眩い光に包まれた。


「━━対して魔法は、世界の法則を塗り替える」


光がおさまった後の光景を目にした全員が、息をのむ。


アレクシスの背中に、光り輝く白銀の翼が広がっていた。手には羽を大きくしたかのような意匠の剣が。


「アレクシス、見せてくれ」


「はい」


翼をはためかせ、飛翔する。大空を舞う一羽の鳥になったかのように。ぐるりと上空を旋回する。


━━例えば、空中を歩く技法はいくつか開発されている。単純に魔力と体重を均衡させればいい。


━━例えば、魔素を羽の形に物質化する技法は開発されている。魔素を寄り集めて形作ればいい。


しかして、人が羽を生やして空を飛ぶ魔術があろうか。


そこまでなら、あるいは可能かもしれない。


アレクシスは空中に浮遊すると、大きく広げた翼から、無数の光輝く羽を撃ち放った。


それは隊列を組むようにひとしきり大空を飛翔した後、演習場の各所に設置された的に向けて、それぞれ飛んでいく。


総ての羽は狙い過たず、的を切り裂く。


その羽は剣。


飛びながら自ら剣を振るい、さらには無数の羽剣の一枚一枚を自在に飛翔させ、どんな角度からも攻撃可能。


切り裂かれた的には焼け焦げたような跡も見える。あの光は熱も持つのか。


これだけの複合的な技を剣一本で制御するなんて。反則技だ。


魔術は万能だが、全能ではない。


アルバート・シュミットの作り出した魔剣。魔法の領域へと至る剣。


その輝きに、誰もが見いっていた。


「魔術は人々の生活を豊かにするためにある。日々を幸せに過ごせれば、無理して魔法に対抗する必要はない。それだけは、よく覚えておいてくれ」


それは悲痛にも聞こえる切実な願いだった。


地上に降り立ったアレクシスが剣を納める。翼は一瞬で光の粒子となって消えてゆく。


「ありがとう。下がってくれ。━━もう一つの話は、二週間後の試験のことについてだ」


誰もが、もはや試験の話どころではないだろう。それでも教師は話を進める。


「この学園に入学出来た時点で、皆魔術師としての素養はある。先の体力測定の結果からも問題なしだ。そこで、今回の試験では、魔術師としての正しい心を判断する。そのための試験官を紹介する」


教師に招かれて、一人の男が歩み寄る。


緑色の髪。自信に満ちた眼差し。背筋は伸び、歩く姿に無駄がない。


「皆さんはじめまして。私は魔術師協会所属のエルベアト・ラザフォードだ」


聞き取りやすい低音の落ち着いた声。魔剣に意識を持っていかれていた生徒たちも、自然と話に入り込む。


「健全な精神は、健全な肉体に宿る。それでは、肉体のみを鍛えれば良いのか? 答えは否。健全な精神とは、より多くの知識を己で消化吸収し、洗練された思考へと昇華させてゆく過程で形成されるものだ。考え続けること、と言ってもよい」


そこで一旦言葉を止め、演習場の生徒たちを見回す。


生徒たちがしっかりと話を聞いていることを確認し、続きの言葉を口にする。


「正しさとは常に移ろうものだ。時代や立場、その時々の視点で何が正しいかは変化する。故に、最善を選択するために思考を止めず、新しい情報を取り入れ続ける必要がある。そこで、この認定試験は討論会と言う形式で、君たちの正しい心を問う。議題はこちらで用意した。なお、討論の結果で試験の合否を判断するものではない、と付け加えておく。私からは以上だ」


「今ラザフォードさんからあったように、試験は討論会形式で行う。議題は後ほど各人に通達するが、複数の班に別れて討論してもらう。試験までの二週間で、議題についてよく調査してほしい」


何故早くから試験について話をするのかと思ったがそういうことか。


魔術の腕でなく、論理的思考を問う試験。相応の準備が必要になるな。

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