表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

第十三話

「━━そうして、勇者様の魔剣が闇を切り裂いたのだ」


「へえ。何度聞いても面白いな」


「……すみません。もう流石に聞き飽きましたよね」


黒い扉探しの夜が明け、いつもと変わらぬ授業を受けた日の昼食で。アレクシスから、いくら聞いても興味の尽きない勇者の話を聞いていた。


あの体力測定の日から、毎日という訳ではないが、度々リーゼロッテたちと食事を共にするようになっていた。


話題は決まってアレクシスの勇者語り。


実際、聞くたびに新たな発見があって面白い。僕とは比べ物にならないほどこの話を聞かされているであろうリーゼロッテには悪いが、貴重な情報収集を止めるつもりはない。


「ところでヴィクトールさんは、もうどこかの研究会に参加されていますか? それか、これから入る予定があるとか」


「いえ、まだどこにも入っていないですね。今のところどこにも参加する予定はないです」


「そうなんですね! 今、私たちで新しい研究会を立ち上げようと考えていまして。ぜひ、ヴィクトールさんにも参加していただけないかと」


僕の話を聞いていなかったのだろうか。


この学園には研究会と呼ばれる集まりがある。


それは授業とは別に、生徒が自主的に様々な研究を行うものだ。魔術に限らず、運動競技、武術、科学、文学、歴史、人物、芸術、その他何の研究を行おうと自由。学園からの援助も受けられる。ただし、最低五人でグループを作らなければならない。


大抵の場合、既存の研究会に入れば満足いく研究を行える。既に多岐にわたる研究会が存在しているからだ。


それでも新しく立ち上げようと考えているからには、今までにない分野ということか。


王女様の一声があれば、人数問題は簡単に解決するだろう。


なら、どうして僕を誘ったのか。


「ちなみに、どんな研究会を始めるつもりですか」


「……古の女神の研究です」


リーゼロッテが声を潜めて告げたのは、予想外の答えだった。


「それだけはやめた方が」


「わかっています。それでも、私はどうしても知りたいのです」


真っ直ぐな瞳で、彼女は言い切った。


━━古の女神。


聞こえの良い言葉で繕っているが、それは邪神を指すものだ。黒き女神、ミーネ様のことを。


歴史上は邪神として扱われているが、世界を創造した神と共に、世界を運営していた偉大な神である側面は完全に否定できない。そのため、一部の物好きな歴史家の間では、創造神との対立以前を古の女神と言い表す動きがあった。


しかしそれは、一歩間違えば邪神崇拝ととられてもおかしくないもの。


十年前に勇者の手によって邪教は殲滅された。だからこそ、邪教徒と判断されるような事柄からは皆距離を置いている。


世間的には、もはや語られることすらない存在なのだ。


それを創造神側である王族が研究しようだなどと。そんな事をしても誰も良い思いなどしないだろうに。


この様子では、放っておけば、リーゼロッテは一人でも研究を始めるかも知れない。そうなると、知られてはならない真実に辿り着く可能性も否定できない。


心配しすぎかもしれないが、近くで監視するのが得策か。


それに、上手く使えば、僕の役に立ちそうな状況とも考えられる。


「表向きは、歴代勇者の研究とかにした方が良いと思いますよ。それなら僕も参加したいです」


「ヴィクトールさん、ありがとうございます!」


「流石ヴィクトール君は目の付け所が違う。彼の神と勇者様の関係は切っても切れないものだ。これ程有意義な研究は他にない」


「それでは、古の女神改め勇者研究会の発足に向けて一歩前進ですね!」


嬉しそうにしているところに悪いが、まだ研究会を作る条件を満たしていないと思うのだが。


「会員は五人必要だと思いますけど。僕とリーゼロッテさんとアレクシスで三人。後二人の枠にあてはありますか?」


「それについては心配無用です。ご紹介したい人がいますので、今日の放課後、お時間をいただいてもよろしいですか?」


「ええ。問題ないです」


こんな危険な研究に手を出そうとする人物には興味がある。是非ともお会いしたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ