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第十二話

「わーたーしーも連れてってー」


「……まったく、仕方ないですね。そのかわり、おとなしくしていてくださいね」


僕の背中にしがみついた神様がしつこく迫ってくる。夜になってようやく活動できて嬉しいのはわかるが、耳元でうるさい。


「よい心がけです。我が愛し子よ」


顔は可愛いのだから、もう少し神様らしい振舞いをすれば僕も素直に信仰するのだけど。


「ヴィクトール、大丈夫か?」


「ああ問題ないよ」


これから夜の校舎に忍び込もうとしていた皆に遅れないように着いていく。


あんなに暴れまわっても、神様の姿は誰の目にも写らない。だから、僕が一人で可笑しな行動をしているように見られてしまう。そのため人前では極力神様とは接しないようにしていた。


今日はいつになく積極的だったけれど。


今も僕の背中におぶさっている神様。できるだけ静かにしていて貰えると助かる。


昼間に寮で『無用の黒い扉』の話をした後は、トントン拍子で話がまとまった。━━早速今夜学園に忍び込もうと。


ギャランとユーリは楽しげだが、テオは少し怯えた様子だ。


各々、灯りの魔術道具を手にしているが、それだけでは夜闇に対して余りに無力。心細いと思うのは仕方ない。


とはいえ引き返すという選択肢はないので、どんどん進んで行く。


「……ここまで来たはいいけど、全然手がかりがないんだよな」


「七不思議の話からすると、行き止まりにある黒い扉が目印だけど。さて、どの行き止まりのことだろうか」


ひとまず普段使っている教室が並ぶ辺りまで来たはいいものの、この先の手がかりがない。


僕も授業の合間など暇を見つけては学園の探索をしていたが、何しろ広大だ。手当たり次第に探していてはたどり着くのがいつになることやら。


「━━突き当たりを右。その先二つ目の通路に入って」


普段はまともな助言などしないのだが、今日はどうしたのだろう。背中から神様のお告げが聞こえた。


「皆、とりあえずこっちの方から行ってみようよ」


ただ、今はその助言がありがたい。他にあてもないのだ。言われた通りに進もう。僕が先導するかたちで学園を歩いて行く。


そうして神様の道案内に従ってしばらく歩いていると、行き止まりにたどり着いた。


「まさか、本当にあったんですね」


「黒い扉だな」


「黒い扉だね」


「どう? わたしと一緒に来てよかったでしょ? ミーネちゃん大好き、可愛いね! ってたくさんほめてくれると嬉しいなー」


そういうことを自分から言わなければ、僕だって女神様のことをほめてあげたいのに。


僕は神様を無視して扉に近づく。


「━━よもや、入学間もない生徒が此処に辿り着くとはな。しかし、その先へ進むことは許可出来ぬ」


━━息のつまるような濃密な魔力。言葉の一つ一つすら魔術のようで。扉に伸ばしかけた手が動かせない。


「……学園長」


かろうじて絞り出せたのはその単語のみ。いつの間に背後に立たれたのか。それすらわからない。


老齢のはずが、それを感じさせない佇まい。この学園の全てを預かるもの、学園長ジークヴァルト。そして、魔剣所有者。


「ここで素直に引き返すならば、今夜は何も無かったことにしようではないか。ギャラン・フォーゲル。ユーリ・クライスト。テオ・ミュラー。ヴィクトール・シュミット」


ゆっくりと、染み込ませるように、僕たち一人一人の名前を呼んでいく。


「……すみません。すぐに、帰ります」


この場でとれる手段は他に思いつかない。ここが引き際だ。幸い、僕だけが疑われるような状況は回避できた。


いつか再び、この扉を開けるために訪れる時はやってくるだろう。


僕たちは、七不思議に謳われる黒い扉を発見したが、その先に進むことはかなわなかった。だが、確実に何かがある、ということははっきりした。学園長が秘密にしたい何かが。


僕は必ずその秘密を暴かなければならない。学園長の魔剣に繋がるであろう秘密を。

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