第十一話
世界を運営するのは七柱の神。
世界への干渉度を均等にするために、一日ずつ日替わりで監督をする。どの神が担当している日であるか、それぞれが司る色になぞらえて言い表す。
創造神の白に始まり、火之神の赤、水之神の青、風之神の緑、土之神の黄、金之神の金、かつて彼女が邪神と呼ばれる前は終わりに黒。七色で一巡。今では、白に始まり、赤、青、緑、黄、金ときて、白で終わる。これを一週間と呼ぶ。
今日は終わりの白日。早いもので学園入学から一週間が経とうとしていた。
「休養日と言っても、街にも出られないんじゃあつまらないよな」
「許可証を貰えるまでは外出禁止という話だからね。こういう日は本でも読みながらゆっくり過ごすのがいいよ」
今日は休養日であるため、寮の部屋で過ごしていた。
新入生はまず、入学してから四週目に行われる試験で許可証の取得を目指す。
それは身分証明書であり、正式に魔術を行使することを認めるものだ。魔術を使うこと自体に許可証はいらないが、街中で無許可のものがみだりに魔術を行使して迷惑をかけようものなら犯罪者の仲間入りだ。
そこで無用の問題を起こさないようにと、新入生は最初、外出禁止とされている。
ギャランも退屈しているようだし、そろそろあの話をするか。
「━━ところで、皆は学園の七不思議って聞いたことある?」
「そういえばクラスの中で話してるやつがいたな」
「それ、自分も気になってたんです」
「僕も全部は知らないけれど、面白そうな話を聞いたから」
ユーリは読書に集中しているようだが、先ほどからページをめくる手が止まっているところを見ると、こちらの話にも興味があるのだろう。このまま続けていればいずれは加わってくれるか。
「俺が聞いたのは『落ちない青い水』って話だったな」
「自分は『食堂の緑の少女』でした」
「僕が聞いたのは『無用の黒い扉』だね」
噂の出どころも、真偽も謎。誰が広めているのかもわからない。入学から五日目あたりで突如として話題に上った学園の七不思議。教室によって話の浸透度も違うのか。
「まて、ヴィクトールのやつは初耳だ。ちょっと聞かせてくれよ」
「いいよ。そのつもりだったから」
そうして僕は話し始める。
『無用の黒い扉』
前提として、この学園には多種多様な部屋、設備が備えられている。それは授業で使用するものや、魔術の探究に用いるものなど様々である。学園内の経路は複雑に繋がっていて、時には迷路のようだと揶揄されることもある。
これは、そんな学園である男子生徒が体験した話。
彼は学園で出された魔術の課題に取り組んでいた。つい没頭してしまい、気付けば夜を迎えていた。急いで寮に戻らないと。彼は焦っていた。
昼間であっても、気を抜けば迷ってしまうほど、学園は広い。夜の闇の中ならばなおさら。
慎重に進むべきだった。
しかしながら、彼は冷静さを欠いていた。日の光の届かない夜闇は人の判断を狂わせる。
寮への帰り道と思って進んでいたはずが、どうやら道を間違えたようだ。行き止まりとなっていた校舎の一角。
そこには、見慣れぬ黒い扉が目の前にあった。
それはほんの興味本位。ここで引き返していればよかったと、後になって悔いる。
━━黒い扉に手をかけ、開け放つ。
そこには、何もなかった。扉の向こうはどこにも繋がっていない。ただの壁だったのだ。
不思議なこともあるものだと、扉を閉めて、振り返ると━━
彼はそこで意識を失い、翌朝、学園長によって保護された。
彼が見たものは、果たして━━。
「という話だよ。夜の学園は危ないから、魔術の探究は程々に、早く寮に帰りなさい、という教訓とも思えるけど。僕は他に秘密が隠されていると思う」
「何だか不気味な話でしたけど」
そう感想を述べたテオの顔はひきつっていた。
「まあ夜ってだけで不気味だよね。でも、七不思議とは別に、学園には隠された宝物庫の噂があるんだ。貴重な魔術道具をしまうためにあるはずだ、ってね。どこにも繋がっていない黒い扉。最後に登場した学園長の存在。生徒を遠ざけようとするかのような七不思議。何だか気にならない?」
「━━面白そうだね。ちょっと探しに行ってみようか」
手にしていた冒険小説を片隅に置いて、いてもたってもいられないといった様子で立ち上がったユーリが、目を輝かせながら言った。
ギャランのイタズラにも付き合うユーリのことだ、この話にも乗ってくれると信じていたよ。




