ようこそ冒険者ギルドへ! A面
誰もが夢見たそれ。誰もが辿るように、彼もまた一歩を踏み出したに過ぎない。
ギイと鳴ったのは悲鳴だろう。数多くの者を受け入れ、迎い入れ、送り出した扉は、もはや等しく悲鳴を上げる。
だが悲鳴とは仲間に知らしめるためでもある。
もちろん、聞きつけた扉が駆けつけるなどは怪奇現象は起こりはしない。
代わりに駆けつけたのは、喉元へ食らいつく数多の視線だ。一瞬であれ、すぐさま引っ込んだとしても、彼を萎縮させるには申し分ないものだ。
手荒い洗礼だったが、まだ残る視線があった。
視線を辿れば、彼の警戒を煽る敵意はなく、むしろ歓迎されざるものだった。
カウンターにいる彼女。剣呑たらしめるここでは、何故咲くのか。カウンター越しに凛々しく立つ彼女の服にはギルドの紋章。答えはそれだけで充分だった。
「初めての方ですよね。ご用件をお伺いします」
「冒険者ギルドに、登録に来たんだが」
「……ああ、加入希望者ですか。ようこそ、冒険者ギルドへ。では二、三ご質問をさせていただきます。討伐経験がありましたら、お聞かせ願いませんか? 過去一番であればなんでも」
「ライデント・ウルフの群れなら退治できた」
「ふむ……ライデント・ウルフですか」
顎に手を当てる仕草は年相応のものだ。
目の前の受付嬢はお手伝いの村娘だと紹介されてしまえば納得してしまう親しみやすいがあった。冒険者ギルドの受付嬢といえば、美人という固定概念を持っていた彼としては、緊張をほぐしてくれる。
「では、大雑把でいいので数を」
「倒したのは5頭だったはず。あとは逃げられた」
「畏まりました。以上で結構です。ご協力ありがとうございました」
出自や冒険者を志す経緯やらを話すつもりでいた彼は、これには肩透かしだった。彼としても故郷に危害を加えた害獣を倒した程度の経験で、道中も降りかかる火の粉を払ったまでだ。さしたる話でもないので、良かったと言えばそうに違いない。
「加入、できるのか?」
「はい、もちろんですとも。ただ、契約にあたり、ここ冒険者ギルドマスタードレッサから実力を測る階級選定を受けていただきます。その後、冒険者ギルドに正式に加入となります」
「すぐに仕事はさせてもらえないってわけか」
「問題ございませんよ。試験が開催されるまでの期間は、一時的ではありますが、階級が付与されます。その旨の証を発行致しますので、ご希望の依頼を受注されましたらその際にはご提示をお願いします」
「発行はすぐか?」
「はい。依頼が掲載されている」掲示板をご覧になってお待ちください」
「ああ、そうさせてもらう」
「あ、お名前を頂いても?」
「そうだな、オレの名は――」
こうしてまた一人の、冒険が始まるのだ。