予兆
無事ヒイロの冒険者登録も終わった。その代わり、マインさんの俺に対する評価は急転直下したようだが。あの後しっかりと説教をいただき、帰ったのはその日の夕方だった。とりあえず、当面の目標を定めないとな。いつヒイロが限界を迎えるかも分からないしな。
「ところでヒイロ、体はどれくらい持つんだ?」
「だいたいあと3ヶ月といったところだ。魔物の欠片を食べればある程度維持はできるが、どうしたって限界はくる。完全に安定するには、やはり神核を手に入れるしかないな。完全とは言わないが、一部分だけでも。」
・・・3ヶ月か。未踏破ダンジョンに挑めるのは、最低でもBランクからだ。大して俺ら二人はDランク。パーティーを組めば受けられる依頼が増えるのですぐにCランクには上がれるが、そこから先が問題だ。CランクからBランクに上がるためには大規模な試験を受ける必要がある。そして、その試験は半年後。
「その場しのぎでどれくらい伸ばせそうだ?」
「5ヶ月持つか持たないかだろうな。・・・最後の方は、常に眠りっぱなしになるだろうが。」
(どう足掻いても間に合わない、か・・・?最悪、不許可でダンジョンを攻略するしかない。)
そこまで考えたとき、あることを思い出した。確か神核ってのは、持ち主が死に、そのまま放置されるとダンジョンに戻るそうだ。それを狙って踏破済みダンジョンを攻略し続ければ、ある程度希望が持てるかもしれない。
「ヒイロ、安心しろ。Cランク冒険者になれば踏破済みダンジョンを攻略できるし、運が良ければ戻ってきた神核を手に入れられる。・・・運がなくて、限界が近そうだったら未踏破ダンジョンに忍び込むが。」
「あまり法は犯したく無いからな。普通に考えて犯罪者の女神とかありえんし。よし、それでは当面の目標はCランクだな!」
(あ、一応世間体は気にするのか・・・。)
「ああ、Cランクを目指していこう。Cランクへは、依頼を10個ほど達成すれば上がれるはずだ。パーティーがあと一人いれば受けられる依頼がグッと増えるから、2,3個クリアしたらパーティーメンバーも探そう。」
「それじゃあ明日はクエストだな!おやすみ!」
そう言うとヒイロは寝床に入った。ってまだ夕方なんだが。睡眠をとって節約しなければいけないのだろう。・・・早く、ヒイロが夜まで起きてられるようにしないとな。俺は少し鍛えてから寝るとしよう。さすがに軽い運動で爆発はしないはずだ。・・・しないよな?
翌日、ヒイロと一緒にギルドへ行く。ヒイロが起きる時間が少し遅かったので、周りの冒険者はクエストを選んで出発した後のようだ。朝一番で確認しないと割のいいクエストはすぐ無くなるからな。・・・ダインの姿が見えないところを見ると、さすがに今日はクエストにいったらしい。
ヒイロと一緒にクエストを見に行くと、残っているのはやはり平原でのゴブリン退治しかなかった。パーティーなら魔狼やオーガの討伐クエストも受けられるんだが、ないものは仕方ない。今日は大人しくゴブリンを狩りに行くとしよう。
「このクエスト受けます。」
「初依頼だ!スムーズに終わらせてくるからな、マイン!」
「ゴブリン退治ですね、分かりました。気をつけてね、ヒイロちゃん。」
そう言うと、マインさんは手を伸ばしてヒイロの頭を撫でる。その顔がめっちゃ緩んでいるのを見ると、よほどストレスがたまっているらしい。プロでもダインみたいなやつの相手は辛いのだろう。後でヒイロと遊んでもらって、存分にストレスを解消してもらおう。
町から離れ、しばらくした後に平原の真ん中あたりに着いた。遠くには俺が死にかけた森がうっすら見える。トラウマになったのか知らんが、あんまりあっちの方に目を向けたくないな・・・。
「さてロック、ゴブリンを狩る前に言っておくことがある。」
「何だ、藪から棒に。」
「昨日見せた力や銃は、あまり使えないのだ。神秘を消費するからな。あの力はまだしも、銃はもう少し回復しないと一発も撃てん。我も邪魔にならないようにするが、足手まといになったら、その、すまん・・・。」
そう言うと、ヒイロは申し訳なさそうに下を向く。戦えないことがよほど悔しいらしい。そんなこと心配するまでもないんだがな。
「大丈夫。お前が戦う代わりに俺がいるんだ。ヒイロは、本当に危険だと思う時まで力を温存してくれ。戦える様になったら戦えばいい。それに、一瞬でもダインより強いならCランク以上の実力は間違いなくあるしな。」
「分かった!恩に着るぞ、ロック!」
言葉使いで偉ぶってはいるが、言えば聞くし、基本素直なんだよなヒイロは。時々変な常識を実行する以外は。悪気はないんだろうけど、被害を被るのは保護者枠の俺だから、しっかり教えないと・・・。
ヒイロとともに平原を探索していると、早速一匹のゴブリンを発見した。まだこちらは見つかっていないので、今のうちに神秘を練っておく。
(やっぱり、体の神秘の量が以前とは段違いだ。少し練っただけでも体全体に『鋼』を纏えるくらいにはなる。)
ゴブリンに近づく。あちらがこちらを視認するよりも早く近寄り、一撃で殺す。体内を確認すると、欠片を持っていない個体の様だ。う~ん、見分け方もないしどうしたもんか。
「ヒイロ、出力の調節云々と言っていたが、今のでどれくらい出てるんだ?」
「今ので約5%といったところだ。我の力と、ロックの体の兼ね合いを考えると、現状だと10%が限界だな。我の力が戻って、ロックが力に慣れればもっと出るぞ。」
「これで5%・・・!?」
(マジかよ。これで100%なんて出た日には、A級冒険者の上位どころか王都の騎士団も目じゃねぇぞ・・・!)
余談だが、騎士団は一定の条件を満たせば王都へ招集され、王都を守護する役割を与えられる。その中でも、団長やその付近は世界最強と言われている。冒険者も犯罪者も魔物も全部まとめてぶちのめせるから抑止力たり得るという訳だ。・・・俺の同期の天才野郎も、史上最短で王都へ招集されたんだよな。どうでもいいが。
その後も、順調にゴブリンを狩っていくも、欠片が中々集まらない。今日は欠片持ちが少ないようだ。魔物を無視するという選択肢はないが、結果が分からないのは辛いものがある。
そんなことを考えていると、ヒイロが口を開いた。
「ロック、アイツかなり神秘を蓄えてるぞ。」
そう言ってヒイロが指差したゴブリンを倒すと、確かに欠片を落とした。・・・これは、もしかして。
「ヒイロは欠片持ちが分かるのか?」
「うむ。うまそうな奴は大体神秘を蓄えてるぞ。」
「すげえな・・・、ん?うまそう?」
「ああ。食ったらうまそうな奴だ。生は勿論最終手段としてだが。」
(こいつ、魔物も食うのか・・・!?野菜は食わないのに・・・!?)
最終的に魔物の捕食シーンを見ないで済むよう、早く神核を手に入れないとな・・・。あと、野菜も食わせておかないと。
そうは言っても、狩る前から欠片持ちが分かっているのは精神衛生上いい。前までこれが嫌で気が進まなかったからな。
(それにしても、やけにゴブリンが多くないか?)
先日ゴブリンを討伐した時も、騎士団時代に狩っていた時も、まばらにいるぐらいだった。それが今日は、道を歩けばゴブリンに当たるレベルで平原にいる。欠片持ちも少ないし。
「とりあえず、見晴らしの良い場所で全体を見渡そう。」
そう考え、小高い丘へと移動しようとした瞬間、ヒイロが丘の先を指差した。
「ん?ロック、あっちの方で何か・・・」
「――――助けてくれッ!」
ヒイロが何かを言いかけた瞬間、鬼気迫る男の声が耳に飛び込んでくる。音の方に目をやると、息を切らしながら誰かが走ってくる。あれは、ダインのパーティーメンバーの一人だったはずだ。
「どうした、何かあったのか?」
「ゴ、ゴブリンだ!クエストの途中で、急にゴブリンキングが現れたんだ!しかも普通じゃねぇ!このままだとアイツらが死んじまう!」
――――――普通じゃない?
その言葉を聞いた瞬間、あのオーガの姿が思い浮かんだ。腕を切っても再生し、通常の個体よりも高く飛翔する化け物。
「ロック!」
「分かった!掴まれヒイロ!」
「待てお前ら!殺されるぞ・・・ってもういねぇ!?」
ロック「そういや欠片食ってるけど味するのか?」
ヒイロ「結構うまいぞ。ゴブリンのは海苔の味がする。食べるか?」
ロック「いや、遠慮しときます。」
今回も読了ありがとうございます!評価やコメントは創作の励みになりますので、是非お願いします。次話は明日12時投稿予定です。