オーガとの死闘
途中で3人称視点入ります。
「おはようございますマインさん。」
「おはようございます、ロックさん。」
懐かしい夢を見た翌日。朝の気だるさが抜け、何とか普通に動けるようになってから冒険者ギルドに行く。
そして、いつもは取らない魔物討伐の依頼をとり、窓口に持って行く。普通は2、3人で行くものだが、俺はチームを組めない。
騎士団の連中は冒険者を見下し、冒険者は騎士団の連中を嫌悪する。そんな中で、騎士団をクビになった人間で冒険者になるとどうなるか。
答えはボッチだ。白い目で見られる所の騒ぎじゃない。特に何もしていないのに誰も寄り付かないレベルである。
「いつも通り、成功を祈ってますよ~」
そんな中で、営業スマイルで接してくれるマインさんは心のオアシスである。おっぱいでっかいし。結婚したい。
いや、優しい異性が一人しかいないだけなんだけどね。
昨日のノリで受けた今回の依頼は、俺が今住んでいる街、アルケーから少し離れた平原に出没するゴブリン退治だ。
冒険者はDCBAの4ランクあり、Dランクがソロで受けられる唯一の討伐依頼である。
視界の開けている平原の、それもゴブリンに限定される依頼。パーティーを組んでいればある程度自由がきくんだが、いかんせんボッチだ仕方ない。
平原に出るゴブリン相手とはいえ、多少は経験を積んでいないと普通に殺される。素材納品とかを目的とするクエストと比べると難易度は跳ね上がり、複数人で受けるのがセオリーだ。低いランクの内から連携組んだり、絆を深めたりするのも目的の一つである。
まあ、一応騎士団で何回か相手したことあるし、俺はどうとでもなる。ゴブリンといえどほったらかすと厄介なので、任務で狩ることもあるのだ。
ちなみに、踏破済みのダンジョンの探索、沼地や森での討伐任務などはCランクにならないと受注できない。個人的に言って死ぬのは勝手だが。自由とは、己の力量を測れない者にとっては重いものかもしれない。
さて、目的地に着き、早速目標を発見。
身体の内の神秘を練り上げ、いつでも錬金闘法を発動できるようにする。
「ギャアーーーッ」
俺に気づき、近くにいる4体が周囲を取り囲む。
(体躯の小さなゴブリン相手だったら、剣よりも拳だな。)
そう考えながら呼吸をし、拳に神秘を纏わせる。
「ゲェッーーーーーー!」
4体同時に飛びかかってくる。一息に『鋼』を纏い、身体能力を上げる。そしてゴブリンが空中にいる内に2体を殺し、着地の隙を着いてもう2匹を殺す。
倒れたゴブリンの身体の中から、欠片を4つ回収する。何でも、魔物は身体の中に神秘を溜め込み、その神秘は魔物の体内で欠片状になるらしい。
それを利用して丈夫な武器を作ったり、魔物除けにしたりなど利用方法も需要も多い。で、その欠片を回収して納品すれば依頼完了という訳だ。
欠片を落とす個体と落とさない個体がいるのだが、今回は運が良い。今回は欠片5個の依頼なので、あと一体で終われれば御の字だろう。錬金闘法で失った体力を回復する為に少し休み、平原を歩き回る。
――騎士団で加護を受けていた時は、『鋼』なら何時までだって纏えていたのに。
ただでさえ弱いのに、更に弱体化を食らうとは、これいかに。
あれ以来ゴブリンは見当たらず、夕方。気を練り、蓄えつつ探しているが一向に見当たらない。
1日という制限はないが、一体くらい狩ってしまいたい。少々危険だが、森方面に向かう。若干森が見えるだけで、平原ではあるが。
森の方向に歩を進める。その道先に、ゴブリンを一体発見。天の恵みだと近寄り、一撃で仕留める。
欠片を回収し、これで終わりだと踵を返す。
瞬間、周囲に咆哮が轟く。森の木々がざわめき、鳥達が一斉に飛び去る。
「この咆哮は…!」
聞き覚えのある咆哮。これは、オーガが獲物を追う時に、威嚇で発する声だ。
それは、追われる者がいると言う証左。
森の外れに、姿を視認する。
―――獲物は、年端もいかぬ少女だった。
一人の少女が、オーガに追われている。
その身体は、木々で切ったのか所々が血で滲んでいる。息を切らし、既に体力は尽きかけだ。少女は、開けた場所を目指し、一目散に逃げる。
対照的に、オーガはその猿にも似た巨躯に力をみなぎらせ、眼前の獲物を追いかける。そして、その口を開き大きく息を吸い込む。
「――ッ!」
咆哮が轟く。木々がざわめき、大地が鳴動する。
瞬間、少女は足がもつれて転ぶ。
どうやら、オーガの威嚇は成功した様だ。
効果的に獲物を追い詰め、倒れこみ後ずさる少女に舌なめずりをする。
―――このまま、顔面を割って殺してしまおう。
そう考えたオーガは、その圧倒的体躯を用い、握り拳を突き出した。
人間程度すぐに潰れるだろう暴力が少女を襲う。
オーガは獲物を仕留める快感に目を閉じ、余韻に浸り、
―――瞬間、腕が切り落とされた。
雄叫びと共に、刃を振るう。完全に、相手は油断している。
一瞬で刃に『鋼』を纏わせて切り落とした。
そしてすぐに後ろを向き、少女を脇に抱えて逃げる。
本来オーガは、『鋼』を使える騎士団員二人以上で戦う魔物だ。騎士団を抜け、神秘が圧倒的に少ない俺が勝てる相手じゃない。
走りながら、脇に抱えている少女に声をかける。
「おい!アイツの狙いはもう俺だ!俺は逃げながら引きつけるから、お前は早く遠くへ行け!」
「お前は大丈夫なのか!?」
「俺は逃げ足には自信がある、君は逃げろ!」
そう言いながら少女を放し、見つかりやすい別方向に逃げる。
それにしても、『お前』とは…『お兄さん』くらい呼んでくれればいいのに。
下らないことを考えながらオーガを見ると、オーガはまだ痛みから回復しておらず、その場で喚き散らしている様だ。そしておもむろに切られた腕をもう片方の手に取ると、それを切断面にくっつける。
そして立ち上がると…その腕は元通りになっていた。
「再生早すぎんだろ!?」
騎士団時代に相手した個体に、あんなに再生力の強い個体はいなかった。恐らく、通常個体から更に多くの神秘を溜め込んでいるのだ。
これは、逃げることも厳しいかもしれないな…
俺の声に反応し、オーガは怒り狂いながら突っ込んでくる。逃げながら少女の方をチラリと見ると、無事に逃げおおせたようだ。
「何っ!?」
オーガから少女へと意識を向けたその一瞬、一寸左を拳が通過する。
「もう追いつかれたのか…!」
気を練りつつ背後を向くと同時に、オーガが咆哮する。少女に放ったものよりも大きく、怒りがある分より攻撃的だ。
その空気の振動は耳を麻痺させ、大地を大きく揺らす。
至近距離で、しかも真っ正面から受けた俺は、たまらず吹っ飛ばされ地面を転がる。
「これは、あの少女も転ぶ訳だ!」
立ち上がり急いで態勢を整えようとしたその時、太陽が隠れる。
上空にはオーガの影。
圧倒的筋力による跳躍。恐らく、多く溜め込んだ神秘の影響もあるだろう。
オーガは、猿に似た体をしている。その為普段は四足歩行なのだが、獲物を仕留める時に跳躍する習性がある。騎士団でも危険行動として真っ先に教えられる知識だ。実際に見たこともある。
しかし5メートル以上の馬鹿げた跳躍なんぞ、やはり見たことがない。異常過ぎる。
空中から、突き出すは治りたての右手拳。余程、怒りがこもっていたらしい。
人の倍はある巨躯、筋力。上空からのプレス。
対するは、地に伏せ、立ち上がる寸前の弱者。
拳が届くまでもう一秒もない。
―――避けられない。
―――俺は死ぬのか。
「まだだ!」
オーガから逃げながら練っていた神秘を右腕に纏い、相手の拳に合わせて突き出す。
一瞬、闘気が『鋼』から『青銅』色になり押し返した、が右腕は肉が裂け、千切れとんだ。恐らく、二度と何も握れないだろう。そして、体の神秘はもうない。
(5年の努力が実っても、倒せないとは…)
オーガはすぐに右腕を再生させ、俺の周囲を回る。どうやら、先の『青銅』色の闘気を警戒しているらしい。
それが始めから使えたなら、騎士団を辞めさせられることもなかった訳だが…
…恐らく、闘気を纏わなくても剣を刺し、深手を負わせるくらいはできるだろう。
この身体では、もう逃げられない。
(絶対に倒して生きて帰ってやる…)
そう考えながら、息も絶え絶えで後ずさる。獲物に力が無いように思わせる。
すると、オーガの顔に笑みが浮かび、今度こそ右腕を突き出してとどめを刺そうとする。
「3回目だぜ、クソ猿が…!」
腕を突き出すのに合わせて上体を逸らし、左手の剣を腹に刺す。狙い通り、コイツはトドメを刺すとき右腕だ。後ずさって無害アピールした甲斐があったぜ!
(あとはこのまま、腹をかっ捌く!)
左手に力を込め、最後の力を振り絞りオーガの腹を一文字に切り裂く。傷口からは血が溢れ、如何に再生力があろうとも、もう死ぬ筈だ。
そう油断した瞬間、左手が力を込める。避けようとするも、右腕に抑えられて、腹をぶち抜かれた。
???「我登場!次話から張り切って行こう!」
ロック「お前追われてただけじゃねーか!というか俺死にかけてるんだけど。始まる前から人生終わりそうなんだけど。」
???「続きは次話で!評価が上がれば生き残るかもな!」
ロック「どんな決め方だ!?」
評価、感想等気が向いたらお願いします。次話は明日12時投稿予定です。