クビ
昔々の頃、この世界には神様が大勢いたらしい。人間が生まれる前から、世界を創って生活していたそうだ。
そんで500年前、神々の間で大戦争が起こった。その発端は、人間にまつわるものだったらしいが、詳しくは伝わってない。
結局、人間を滅ぼすか守るかに別れて争ったそうだ。
勿論人間は守る側に参戦し、何とか勝ちを拾った。
神様も人間も、その大半が死んだらしいが。
そして神の血を引いた人間がこの国、ルーン王国を建国。500年たった現在も、王族として血統は続いている。
そして俺は現在、約500年続くこの国に見捨てられかけている。
「すいません、もう一度お願いします。」
「何度でも言ってやろう。ロック、お前を除名処分とする。今後騎士を名乗らないように。」
「クビですか?」
「クビだよ。」
一応、俺はこの国の騎士団に所属している…明日にはそうでなくなりそうだが。
ルーン王国には、治安維持の為に騎士団が存在する。
国に属するだけあって、人々からは誉れある職業として認知されているし、俺もそう思う。
俺の前に座る厳つい男、グラン隊長は再度口を開いた。
「理由は、分かるな?」
その強面な顔には何の感情もなく、淡々と告げている。
…様に見えるが、口の端が強張っており、笑いをこらえているのは分かる。
俺はグラン隊長に余程嫌われていたらしい。
「俺が、あの闘法で鋼までしか使えないからですか。」
あの闘法とは、錬金闘法というものだ。
人の身体に内在する神秘を練り上げ、身体に纏わせたり武器に纏わせたりする、代々騎士団に伝わる闘法である。
神秘を練り上げる過程で、練り上げる神秘が大きく、また技術が高い程、鋼→青銅→銅→銀→金と纏える闘気の色が変わる。
鋼の闘気を練れる様になるのが騎士としての最低条件。
遅くとも、入団してから3年も修練を積めば、青銅までは練れる様になれるはず…なんだが。
「そうだ。お前はもう5年になる。それで鋼止まりと言うのは前例にない。ここまで続けられた精神力は賞賛に値するが、それも今日で終わりだ。お前に騎士の資格はない。」
そんなことは、俺が一番分かっている。5年間、誰よりも鍛錬をしてきた。それでも、一向に強くなる兆しはない。才能がない、その現実を叩き付けられてきたのは何より自分だ。
握った拳に力が入る。
弱いだけで職を追われるというのは、他の職業では理不尽かもしれない。
しかし騎士は違う。
グラン隊長は笑みをこらえることで強張った顔をやめ、真剣な表情で語る。
「ロック、我々は強く在らねばならない。近頃は魔物の動向も活発化し、それに呼応して犯罪も増えている。これまで以上に、我々は抑止力で在らねばならない。」
「王家・・・月の女神の加護により、騎士団員の神秘は底上げされている。当然辞めれば加護はなくなる。だが、冒険者となり力ある神の加護を得られれば、それなりにでも戦えるだろう。冒険者風情だから限りはあるが。」
その言葉に含まれていたのは、冒険者への侮蔑。
好き勝手に生き、好き勝手に死ぬ。自らを厳しい鍛錬で追い込み、民を守る責任で縛られる騎士団とは対極だ。言い換えるなら、お前に責任を負うだけの強さはないということだろう。
歯を食いしばり、頭を下げる。告げられる言葉に、何一つ反論する余地はない。すべての要因は、俺に力がないという一点だけに尽きる。
(それでも改めて突きつけられると、辛いな…)
震える声で別れを告げる。
「5年間…お世話になりました…っ」
「業務の引き継ぎなどはしなくていい。すぐに荷物をまとめて出て行け。」
扉を閉め、退出する。部屋を出て心の中にあるのは隊長への怒りでもなく、理不尽への疑問でもない。ただ、己の無力さへの怒り。5年間必死で努力した結果が、今日のあの言葉だ。
騎士団へ入れば強くなれると思っていた。国民を守り、抑止力となることで治安を維持する。それは、俺が憧れた強さへの入り口だと思っていた。
(なかなか、うまくいかないな。錬金闘法覚えて、鍛錬しても初手詰まりだ。…悩んでも仕方ない。隊長の言ったとおり、まずは冒険者として頑張るか。それでも上にいけなかったら、強くなるのは諦めよう。)
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