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マグナムの破壊力

 この世界にも四季はあるようで、今は冬の終わりらしい。日は出ていて、雲はない。陽光をたっぷりと浴びた風が吹いている草原を、荷馬車は進んでいた。

桜はあるのかな、なんて考えていたら、ステラはため息を吐いた。

「突然知らない世界に来たのですから同情はしますが、これくらいは覚えてもらわないと、生きていけませんよ?」

 安売りされていた荷馬車は、ステラの召喚スキル、『零体召喚』によって、半透明な幽霊が操っている。そんな荷馬車の荷台に、ステラは四つの硬貨を並べた。

「いいですか、この魚が描かれている茶色い銅貨がボトム銅貨です。お釣とか細かい買い物はこれで行います。それが五枚集まると、鳥が描かれた茶色いアルト銅貨です。それが二十枚集まるとエーベル銀貨になります。宿泊や商人の取引は、基本これを使います。最後に、エーベル銀貨が十枚で、竜の装飾があるアリオーヌ金貨です」

 もう何度も聞かされた貨幣の価値は、真面目に覚えるのなら、メモ用紙が必要だ。だが、この中世な感じが丸出しの世界では紙があまり出回っておらず、羊皮紙に書くしかない。

 その羊皮紙もないとなれば、暗記するしかない。とはいえ、礼二のガチガチに固まった文系の頭では、暗記に時間がかかって当然だ。

「まあ、実際に使ってりゃ覚えるだろ。俺が単位欲しさに受けていた経済学の先生も、教科書を買う金があったらミニ株を買えとか言っていたからな」

 単位? 教科書? ミニ株? と、おそらく三つの知らない言葉に、ステラは黙ってしまった。しかし、使って覚えるというやり方には賛同してくれたようで、並んでいた硬貨をきびだんごでも入っていそうな袋に戻すと、アリオーヌ金貨を抜いた三つが、十枚並べられた。

「命の恩人にして、私のパーティーの仲間なので、受け取ってください」

 鞄からもう一つ、手のひらほどの布袋を取り出して、渡そうとしてくる。

「いや、ちょっと待て」

「なんです? お金をもらってうれしくないのですか?」

「いや、そういうんじゃなくてな……」


 情けない。女の子からお金をもらう自分が情けなさすぎて、たまらないのだ。


「非常に難しい顔をしていますが、お金がなくては、私とはぐれた時になにもできません。ですから、受け取ってください」

 悲しいが、それが現実だ。ステラもいつまで一緒にいてくれるのか分からない。パーティーから追い出されたら、貨幣の価値もろくに知らない孤独なガンマンになってしまう。


 孤独なガンマンは、いい響きだが。


「すまない」

 渡された布袋に、並んでいる硬貨をしまっていく。これからは財布となる布袋は、この赤いロングコートにしまっておこう。

「ちょっと、派手ですよね」

「なにがだ?」

「あの、そのロングコートです」

スエルでゴブリンを倒していたら、ジャージは血まみれになったので、服をどうにかしなくてはならなくなった。

しかし、運のいいことに、ゴブリン退治の英雄として、服装一式と背中より大きい旅用のリュックを貰った。

 今は、その中にあった血の目立たない赤いコートに、ジーパンの様な、そうでないようなズボンと、黒いシャツを着ている。

「赤が好きなんだよ。それに俺の一世界には、あえて赤く目立った格好をしたら、今までより三倍速く動ける奴もいるからな」

 アニメの中でだが。とりあえず、好みの一つだと認めてもらうために、引き合いに出した。

「通常の、三倍ですか」

「角もあったほうがいいな」

「……それ、人間ですか?」

「宇宙を飛ぶ彗星だよ」

 宇宙は知らないようだが、彗星は知っていた。とりあえず、彗星並みに速く動けるということで、話は落ち着いた。

「俺はしばらく寝る。なにかあったら起こしてくれ」

勝手な人だ。ステラは呆れながらも、心地よい日差しの中、うつらうつらとしていた。




 眠って、起きて、買い揃えた旅装備で釣りをして、木の実を取って、動物を仕留めて。サバイバルの様な旅生活にも慣れてきた頃、山の様に高くそびえ立つ市壁が見えてきた。街を囲むように造られている市壁には人が集まり、それぞれが検問で手荷物をチェックされている。

 密輸や密入を防ぐために行われているようで、鼻のいい犬耳族とやらが検問官としてチェックしている。

「あれが私の暮らしている『ハイランド』です。ローリアン地方の中でも、一、二位を争う規模の街で、様々な種族がそれぞれの特技を生かしています。冒険者の方もたくさんいますよ」

 ローリアン地方。荷馬車での旅で世界の常識として教えられた、このあたりを統べる王国の領土だという。人間の足どころか、馬の脚でも端から端まで行くのにどけだけかかるか分からない程に広く、各種族の里も点在している。

「入国料は、私は住民なので無料ですが、礼二さんはアルト銅貨五枚です。持っていますよね?」

 笑顔でこちらを見るステラに、礼二は若干の恐怖を覚えた。原因は簡単だ。途中に立ち寄った小さな街の賭場で大負けしたからだ。ステラへはそれ以降、金を何に使ったか、教えなければならなくなった。

そのおかげで、一文無しから戻ることはできたのだが。

「そういや、検問で持ち物を見られるんだろ?」

「そうですね。靴の中敷きまで、とはいきませんが、それなりには」

「なら、こいつはどうする」

 ホルスターにセットされているマグナムと、複製で作った弾丸五十発ほどが入った布袋をリュックから取り出す

「マグナムは、たぶんこの世界にない材料で作られていて、弾丸は火薬の塊みたいなものだ。危険物として取り上げられるとかは御免だぞ」

 礼二にとって、唯一戦う術となるマグナムがなくなるのなら、街へ入らない方がマシだ。しかし、ステラは大丈夫と、また膨らみの見られない胸を張った。

「マジックキャットの通り名は伊達ではないので、任してください!」

 そこまで言うならと引っ込むが、不安でいっぱいだ。




 だんだんと、荷馬車用の検問が近づいてきた。ステラは大丈夫と言ったが、本当に信頼していいのだろうか。

 そして順番が回ってくると、名前の通り、頭に垂れた犬の耳を生やした犬耳族が、ステラを見上げた。

「おお、ステラさんじゃないか。ずいぶんと留守にしていたね」

「小さな街がゴブリンの群れとサイクロプスに襲われまして。散々な遠征でしたよ」

「サイクロプス、ですか……やはり、ステラさんが?」

「いえ、私は足止めで精いっぱいでした。しかし、ここにいる彼が救ってくれたのです」

 ステラはこちらを向くと、ウィンクをした。今時そんな真似する奴がいるとは、と元の世界の価値観で考えてしまったが、おそらくサインだろう。

話の流れから、サイクロプスを倒した男として、出るのだ。

 奪われる心配をしながら身体検査を受けると、犬耳族の検問官はスンスンと臭いを嗅いでいる。

 そして、マグナムに目がいった。

「これは、そのリュックから漂ってくる火薬と同じ匂いがしますね」

「それで、サイクロプスを倒したのです」

「ほぉ……ですが、これでどうやってサイクロプスを?」

「えーと、その、マグナムが狙撃で弾丸が――説明してください」

 あの自信はどこに行ったのだ。仕方なくシリンダーから一発取り出して、理解できないだろうが、撃つ際の動き方も説明した。

 案の定、何もわかっていない顔をしている。だが、検問官は通っていいと、マグナムからステラへ目線を向ける。

「金髪のステラさんと、銀髪のこちらの方が並ぶと宝石のようだ。どうぞ、通ってください」

 特になにも言われなかった。入国料を支払うと、なにをしたのかと、ステラを見る。

「ああ、えーとですね。この街は凄腕の冒険者ばかりですから、変な密輸や密入を行なうには不向きなのですよ。見つかったらタダではすみませんからね。ですが、それくらいの、マグ、ナムでしたか。詰まっている火薬も鍛冶屋が使うほどなので、最初から問題なかったのですよ」

「そのわりにはない胸を張っていたが……って、なんで杖を持ち出す!」

 黄金の瞳がギラつき、猫耳がピンと張っている。

「礼二さん、あなたの世界にコンプレックスやマナーといった言葉はないのですか?」

 青い結晶が光り輝き、道行く人は驚いて逃げている。化け猫が暴れていると叫びながら。

「……今逃げた人は別に対処するとして、礼二さん? これからも仲良くパーティーを組むのなら、相手の事も、よく、よーく考えてくださいね?」

 にっこりと笑って杖をひっこめたが、笑い顔なのに怖いとは、まさにこういうことなのか。

「胆に銘じておきます……」

 なら許します。ステラはようやく敵意を引っ込ませると、まず荷馬車を売るらしい。

「礼二さんが異世界人ということなので今回の旅は荷馬車を使いましたが、普段の依頼は、基本的に馬か徒歩になります」

 雑貨屋に二束三文で荷馬車を売ると、ギルドへ行くかと思いきや、まずは礼拝が先だと、石畳の上を行く。

煉瓦の建物と、大通りにある露店を通り越して、ようやく見えたのが、映画で見たことのあるような教会だった。

「なんだったか、三人の勇者と一匹の竜だったか」

「はい、ローリアン地方だけではなく、他の地域でも崇められている存在です」

 なにやら、三人の勇者が遥か昔に魔王を倒して、空では人間を守る竜と、闇に堕ちた竜が戦ったそうだ。結果的に、三人の勇者の内、女の大魔導師が命を散らして、勇者と魔王は相打ちとなった。残されたハイエルフは、魔王のいない世界に溶け込んでいった。そんなおとぎ話だ。

 おとぎ話でも、その話には一点だけ、礼二の心に突き刺さった名詞がある。

 『魔王』。あの夢で何度も戦った、真っ黒い鱗の生えた奴だ。その姿形とこの世界の魔王が同じなのかと思っていたが、どうにも違うようで、魔王は人間の姿をしているらしい。

 しかし、一年程前に、魔王が復活したようだ。以来、魔王城は遥か北の地にある、世界の果てとも呼ばれる濃霧の前に造られ、悪意を持った魔物達を方々へ向かわせては、混乱を引き起こしている。

 夢で見た魔王とは別物らしいので、成すべき事は、魔王の打倒ではないのかもしれない。

 ならどうするのかと考えながら、天に飛び立つ竜――ではなく、西洋ファンタジーに出てくる四つ足があるドラゴンと、一本の剣、それから二本の杖が奥に祭られている。

 一応、この世界の住民として、周りに習って礼拝を済ませると、剣と杖をもう一度目にする。

「本当に、魔王打倒が目的ではないな」

 あんな剣も杖も使ったことない。夢の中でなら剣を握っていたが、魔王の姿形が違うのであれば、意味はない。

 早々に教会を後にすると、ようやく冒険者ギルドへ行くことになった。興味半分、不安半分といったところか。なにせ、得物が剣や斧ではなくマグナムなのだから。

 ステラはそんなことを気にする人たちではないと言うが、やはり緊張する。

 そのまま歩くこと数分。小学校のグラウンド程の広場があった。練習場だろうか。スキルを使っている冒険者たちが見受けられた。

「それで、ここが入り口か」

 グラウンド程の広場があるのなら、学校ほどの建物があってもおかしくない。まさにその通りで、三階建ての冒険者ギルドは学校を思い起こさせられた。

「それでは行きましょう」

 ステラの声に頬を叩いて緊張をほぐすと、扉を開く。先に広がっていたのは、数えきれないほどの長机と、そこに座って昼間から酒を飲むドワーフや、弓の手入れをしているエルフたちがいた。他にもカウンターにエルフの受付嬢などもいて、上げればきりがないほどに、他種族が入り混じっている。

 と、入った先で見回していたら、何人かの男たち――鱗の生えた、確かリザードマンと呼ばれる種族や、人霊という、人間と契約を結んで共存している精霊などがステラを出迎えた。

 全員男だが。女冒険者たちは、つまらなそうな顔をしている。

「長旅、お疲れ様でした!」

「ステラ様がいないと、ここは寂しくてしょうがない」

「お疲れでしょうに。何かお飲みになりますか? 奢りますよ?」

 ステラは困った様な笑顔であしらおうとしているが、各種族の男たちは『ステラ応援隊』だとか名乗りだしている。

 ここに礼二がいたら面倒なことになる。他人のふりをして集団から抜けようとすれば、コートの裾を掴まれた。ステラはまたしても笑顔で、礼二とくっついた。

「その、私には旅慣れしていない大切なパーティー仲間がいますので、道を開けてもらえませんか?」

 すっかり無視されていた礼二を、男たちは凄まじい剣幕で睨み付けた。人殺しの様な目つきに囲まれ、ついマグナムへ手を伸ばそうとしたが、ステラが手を取ってやめさせた。

「ここであれを使ったら大変になることくらいわかっていますよね」

 くっ付いたまま耳元で囁かれると力が抜けるが、ぶっ放したら殺されても文句言えないだろう。

 だから、ただの冒険者仲間だと断言すると、竜に転生するとされているリザードマンが、礼二を見て一考していた。怒るでも悲しむでもなく、なにか別の感情だ。

 どうしたと、問いかけようとしたら、他の男どもに囲まれる。

「ステラさんは天才だ。スロットが百を超えているなんて、ローリアン地方にも他にいるかも怪しいところだ。そんなステラさんは、誰ともパーティーを組まなかった! 人間の、魔力がほとんどない兄ちゃんは、どうやって受け入れてもらったんだ? まさか弱みを握ったのか!」

 不味い。そう思う頃には遅く、礼二がステラの弱みを握ったと騒ぎになった。ステラと一緒に違うと否定するが、この応援隊たちは得物まで取り出そうとしている。

 流石にそれはいけないのか、受付の耳が長いエルフが止めに入るが、これでは安心して夜も眠れない。寝込みを襲われたら、それこそ殺されてしまう。

 つまり、力を証明するしかない。ステラがパーティーを組むに値する力を持っていると。

「ステラ、悪いがプロテクションを出してくれるか? できるだけ固いやつを」

「ど、どうしてですか?」

「天才とか言われているステラのプロテクションを破れば、認めてもらえるからだよ」

 その手がありましたか。などと、またヒソヒソと相談していれば、一人の犬耳族らしき男が、黒いコートに身を包んでやってきた。

 取り巻きも冷や汗をかいて、道を譲っていた。

「おい人間、俺は耳が特別いいから、今の会話は聞かせてもらった。まだ世の中って奴が理解できてないようだから教えてやるが、弱みを握っていると疑われているお前がプロテクションを破っても、なんの説得力にもならないぞ」

 本物の殺し屋に様に低い声と、刃物のような鋭い目つき。それに加えて顔に一筋の切り傷があり、灰色の耳も垂れていなく、尖っている。

 灰色の髪を生やした赤い瞳の、本当に怖い人が出てきた。心の中で勘弁してくれと思っていると、ステラがはしゃいでいた。

「ウルビスさん! いたんですね!」

「俺だってたまには休暇くらいとる。それで、そこの人間は、本当にステラがパーティーに選ぶほどの力を持っているのか? 持っていなく、脅しているだけなら、この場で斬る」

 スラッとまばゆい光を伴って腰から抜かれたのは、日本刀によく似ていた。しかし、刃の部分からして、とんでもなく分厚く、長い。身長が百八十ほどある礼二が両腕を伸ばして、やっと同じくらいになる程だ。

 このままでは、証明しなければ殺される。

 仕方ない。礼二は割り切ると、大声で呼びかけた。この中で一番固い盾を持っているのは誰かと。

 場がざわつくと、一人のドワーフが人ごみを裂いて歩いてきた。その背に背中以上に大きな盾を背負って。

「若者たちのいざこざに、ワシの様な爺さんが加わってもいいかと思っとったが、ステラちゃんには何度か世話になった身なのでな。もう新しいのが工房で作られているだろうから、この盾を使ってくれ」

 ドスンと置かれた大盾は、傷ついているも、触ればいかに頑強か分かった。同時に、これさえ壊せば認められるとも。

「おい、あの小僧は大丈夫なのか」

「グレッグさんの大盾ですからね。ちょっとやそっとじゃ傷もつかないでしょうが――確信を持って、大丈夫だと言えます」

「ほう、お前がそこまで言うとはな。ならば見せてみろ、人間の小僧」

 気持ちで負けそうになるほど、この犬耳族からは凄みが感じられる。だが、こんなことで引いていては、成すべき事も成せずに終わる。それと、

「俺の名は柊礼二だ! 念のために言うが、柊と礼二で名前が分かれているからな。それで、その盾がこの中で一番固いんだな」

「大盾のグレッグの名は伊達ではないわい。それで、この盾をどうするのだ?」

「簡単だ。一瞬で風穴開けてやるんだよ」

 すると、周りの冒険者たちは笑い出した。魔力も少ししかない人間になにが出来るのだと。無駄だと。馬鹿だと。


 ――あの時も、こんなふうに馬鹿にされていた。大学でボッチになり、嘲笑の的になっていた、あの時も。

 異世界に来てまで、もう、逃げたくない。ならば成して見せよう。このマグナムで。


「誰でもいい、床と垂直に立てておいてくれ」

 本気でやる気かと笑いながら、俺たちがやってやるよと、見るからにチンピラなドワーフが二人盾を支える。礼二はホルスターからマグナムを抜くと、357マグナム弾は健在だ。丁度六発装填されている。

「なんだ、あれ。鈍器か?」

「それにしては火薬の匂いがするけどなぁ」

「ま、あんな小さなものじゃ、どうにもならないだろね」

 無視だ。あんな言葉は無視してしまえ。そうすれば大学を辞めずにすんだのだから。

 それと撃つと前に、人差し指を立てる。

「これから行うのはスキルじゃないからな。ありとあらゆる技術の結晶が、その盾に穴を開ける。だがその前に、一つだけ忠告しておく――耳がいい奴は、塞いでおけ」

 なにを馬鹿な、と誰かが言いかけた瞬間、トリガーを引いた。ハンマーは弾丸を強打し、爆発の衝撃で盾へと飛んでいった。当然、こんな中世レベルの盾では357マグナム弾を防ぎきれるはずもなく、貫通した弾丸が、机に並んでいた酒の瓶を粉砕して、壁も貫いた。悲鳴が聞こえてこないので、誰かに当たったわけではないだろう。

 しかし、これで力は見せた。あとは、ここにいる連中が認めるかだが――耳をふさいだまま距離を取られ、武器を手に警戒されていた。

「な、なんだ、今のは! 爆弾でも仕込んでいたのか!」

「グレッグさんの盾が破られるはずない! なにをしたのか、正直に答えろ!」

 なんというか、文化の違いとやらは凄まじいようだ。しかし、ステラからウルビスと呼ばれていた男は剣を鞘にしまうと、貫通した盾を嗅いで、穴を触っている。

「うむ。間違いなく、この盾に仕掛けはない。匂いがグレッグの爺さんと、押さえていた二人からの匂いしかないからな。穴も、あの小僧の方から抉られるように開いている――なにをどうしたらこうなるのか。理解に苦しむが、小僧は相応の力を持っていたようだ」

 何か反論しようとしたエルフがいたが、ウルビスが一睨みすると引っ込んだ。

「しかし、とんでもない音だったな。深く詮索はしないが、お前は武器と言っていたな。だがあんな芸当、どんなスキルでも無理だ。本当に武器なのか?」

 ウルビスの問いに、ガンスピンをしてホルスターにしまう。

「武器と技術が融合したんだよ。それと、こいつは連射がきく。文句ある奴は、プロテクションでも盾でもいいから出してみろよ。穴開けてやるから」

 ウルビスの声と、礼二の挑発に、一同が口を閉じた。そこにステラが前に出てくる。

「さて、皆さんも分かっていただけたようなので、私たちもそろそろ座ってもいいでしょうか?」

 ステラはギルドに入るなり、立たされっぱなしだった。男たちはそれに気づくと、サッーと道が開けた。

「どうもありがとうございます。それでは、行きましょうか、礼二さん。それとウルビスさんも」

「あ、ああ、そうだな」

 なぜ、このウルビスとかいう奴を誘うのか。嫉妬とかではなく、純粋に怖かった。



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