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導き出した最善のスキル

 剣に兜、斧に弓と矢。それ以外にも武具を揃える武器屋や、ドワーフが鉄を打つ鍛冶屋。おどろおどろしい雰囲気の薬を作る錬金術師屋を回ってみたが、気は晴れない。

むしろ、冒険者として戦うのではなく、スキルでサポートをする人々を見て、自信をなくした。礼二には、それすらできないのだから。

 ステラは頑張って元気づけようとしているが、この心に浮かんだ雲は晴れそうにない。

 そんなこんなで街の中を回ること一時間ほど、ギルドで食べた朝食から時間も経ったので、情けないがステラにお願いしようとした時だった。道の隅で深く帽子をかぶり、口元を布で覆っている男性に呼び止められたのは。

「旅のお方とマジックキャットの二人組とは珍しい。一度、占ってみないかい?」

 くぐもった声はよく聞こえないが、占うだと?

 怪しげな宗教かと警戒したら、ステラが駆け寄っていた。

「占い師さん! あなたのおかげで、サイクロプスは退治できましたよ!」

「それはよかったね。マジックキャットは伊達ではないようだ。それで、そこにいる旅のお方は?」

 礼二に向けられた視線に、旅人ではないと返しておく。

「もう説明するのは面倒だから省くが、遠方からこの地にやってきた」

「なら、旅人じゃないのかい?」

「いや、遠方と言っても距離じゃなくて……とにかく! さっき遠くから来た、柊礼二だ!」

 変わったお方だ。占い師は二人を見比べると、うーんと唸った。

「ステラさんも、礼二さんも、どうやら大きく重たい運命を背負っているようだ」

 占い師は意味深な言葉を言いながら、布で隠してあった水晶に手をかざした。

「ふむ、近い未来に運命は待っていないね。でも、少しばかり問題があるかもしれない」

 なんのことだ? 天才の魔術師と器用金持ちの二人は占い師に尋ねると、迫っていると、街の外を指差した。

「サイクロプスの脅威は去ったけれど、この街にゴブリンの群れが迫っているね。大型のホブゴブリンもたくさんいるみたいだし、ここにいる冒険者だけじゃ、対処しきれないかも」

「なっ!」

 それは大変だ。ゲームのように、至急、防備を固める必要がある。そう、防備を――

「って、この街、壁の一つもねぇじゃないか!」

 つまり、ゴブリンとやらは、なんの障壁もなく街の中に乗り込んできて、人々が襲われる。

「それと、もう時間もないみたいだね」

 言われ、壁のない街の先を見たら、砂煙と共に何かが向かって来ている。占い師が占った、ゴブリンだろう。

 ステラは一歩前に出て、礼二へ振り返った。

「ごめんなさい、礼二さん。私が一人で足止めするので、その間に逃げてください」

「また囮になるつもりか? 今こそ冒険者が一致団結する時じゃないのか?」

「……この街の冒険者は、どこかの村の力自慢だとか、駆け出ししかいないのです。コブリンも、一匹では対して脅威になりませんが、あれだけの土煙を上げて来るというのなら、相当な数がいます。それに加えてホブゴブリンもいるとなれば、私でも時間稼ぎが精いっぱいです」

 だから、逃げてくれ。なんとも情けないことか。女が前に出て戦って、男はその間に逃げる。どうにかしたいが、礼二には一発の弾丸しかない。サイクロプスのような巨大な化け物一匹なら、脳天を貫いて解決できたが、数がいるのでは対処しきれない。

「クソッ!」

 認めるしかない。自分はなにもできない弱者だと。それでも、ゴブリンの襲来を、街に住む人々や冒険者たちに知らせることはできる。


「あれ?」

 そんな時になんだが、占い師がいつの間にか姿を消していた。

 奇妙だが、今は目の前の事に集中するべきだ。

「何とか使えそうな奴らを援護に回す! 持ちこたえてくれ!」

 そう言い、冒険者ギルドへと駆けた。いくら弱くても、戦力にはなるはずだ。

「ステラ一人に背負わせはしない」

 不思議と心に沸くステラへの感情を無視して、冒険者ギルドの扉を開いた。緊急事態だと。

 



 あれから、ずいぶんと時間が経った。冒険者たちは、立ち向かう者もいたが、ほとんどが、ホブゴブリンとやらを見て逃げていった。

当然か。二メートル以上ある、はち切れんばかりの筋肉で人を襲う化け物を見れば、逃げ出したくもなる。

ステラは、街の入り口で杖からバリア――さっき知ったプロテクションというスキルで侵入を防ぎ、雷を落として、ゴブリン達を黒こげにしている。それでも、抜け穴を見つけては街の中に入ってきて、人々が襲われている。

 礼二は少しでも役に立とうと試行錯誤するが、まだこの世界に来て一日も経っていないのだ。街に関しては、半日も経っていない。どうすることもできず、ただ茫然と逃げ回っていた。

「なにか、なにかないか!」

 逃げ回りながら、ホログラムのように浮かび上がったスキル一覧を、スマートフォンの様にスライドさせている。

この際覚えられるのが一つでも、サイクロプスを倒した分のスキルポイントでレベルを上げれば、どうにかなるのではないか。しかし、

「ポイントが足りない……!」

 ファイアーボールを覚えるのに三ポイント使い、残りの十七ポイントをレベルアップに使っても、ここにいる冒険者にも届かないだろう。


 なにかないのか。この状況を打開する手立ては。


「あれは……」

 逃げ遅れた少女だろうか。どうやら足を怪我しているようで、迫りくるゴブリン達に悲鳴を上げている。間一髪のところで、先ほど見た鍛冶屋のドワーフが、槌でゴブリンを殴りつけて助けた。

しかし、次から次へとゴブリンは迫り、対処しきれない。

 どうする。本当にどうする。考えるのだ。元の世界では妬まれた頭で。二十三年間の人生経験で。ゴブリンをスキルで攻撃するにはどうしたらいいのか。


――ん? ちょっと待てよ?


 異世界だとか、スキルだとか耳にして、映画に出てくるような魔法ばかり考えていたが、それだけじゃないはずだ。あのドワーフは、スキルカードを貰い、鍛冶屋になった。鍛冶屋で働く為に、スキルカードを使ったのだ。

それでも、ああして武器があれば戦える。つまり、魔法や剣にこだわる必要はない。


 魔法で戦う以外の方法を探すのだ。


 礼二は錬金術や鍛冶屋についてのスキルをチェックする。戦うためのスキルと違い、覚えるためにも一ポイントで済むものばかりだ。

 鍛冶屋や錬金術師が覚えるスキルは、考えられる限りなにがある? より良い武器を作るためのものか? 珍しい薬草でも調合する術か? いや、それだけではないはずだ。様々な要望に合わせて武器を作っている。様々な薬を作っている。そんな時に、作るのが面倒な部品や見つけるのに手間のかかる品を、わざわざ一から作るか?


 それらから導き出される答えは――


「もしかしたら!」

 頭に電流が走ったように、スキルの抜け穴を見つけ出した。

礼二はホログラムの様に浮き出たスキル一覧から、鍛冶屋や錬金術師が覚えるスキルへとスライドさせる。一度は全てを見たので、あったはずだ。この現状の打開策となるかもしれないスキルが。

 ホログラムを縦にスライドさせる事、一分ほど、ようやく目的のスキルが見つかった。この後の目的のために使えるかは、概要からは詳しく分からない。

それでも、今はこれに賭けるしかない。

「頼むぜ……スキルセット! そのまま、スキルポイントも全部、このスキルにぶち込む!」

 装備すれば、緑色の光が礼二を包んだ。そうしてスキルカードを見れば、お目当てのスキルが装備されている。更に、たったの一ポイントで覚えられたスキルへ、十九ポイントのスキルポイントでスキルレベルを上げる。

どうせ一つしか覚えられないので、思い切って決断したが、上手くいくか、否か――




 街の入り口で、ステラは百はいるだろうゴブリンとホブゴブリンの相手をしていた。

単純に戦うのなら勝つことは容易だが、街への防備が薄くなる。自分の身と、街の人々。その両方を守るとなると、いくらステラでも、限界がある。

「ライトニングアロー! ファイアボルト! フリーズブラスト!」

 次々と詠唱されるスキルの名前は、青い結晶を輝かせると、雷の矢がゴブリンを貫き、炎が包む。氷の塊に吹き飛ばされた奴もいる。

 青い結晶の杖は常に光り輝き、ステラの声に呼応して、休む暇もなくスキルを発動させているのだ。

 しかし、あのサイクロプスとの戦いからろくに休んでいない。疲弊し、街に侵入するゴブリンも増えてきている。

 止めなければならない。疲れた体に鞭を打ってプロテクションを広範囲に発動させると、ゴブリンたちは足を止めた。

そして、膝を付いたステラへと襲い掛かった。

近接戦闘用のスキルを会得していないステラでは、眼前に迫ったゴブリンの攻撃に対し、反撃ができない。目の前にプロテクションを張ったが、守りきれない。


「あ……」


ゴブリンが六匹、正面から、一斉に襲い掛かってくる。

ステラは、この刹那を永遠のように感じていた。この先に待つ痛みと、ゴブリンに孕ませられる未来を見ながら。



――なにも、起きない?



 なにがあったのだ? ステラは困惑しながらも辺りを見回せば、ゴブリン達は頭が吹き飛んでいる。それに、サイクロプスの攻撃すら凌いだプロテクションが破壊されている。いったいなんなのか。答えは、砕けたプロテクションの先にいた礼二が握っていた。




 間一髪のところでステラを救った礼二は、攻撃用のスキルではなく、鍛冶屋や錬金術師が覚えるスキル、『複製』を会得していた。

概要は、レベルに応じて大きさや複雑さの決まる、構造を理解している物をコピーするだけのものだ。鍛冶屋も錬金術師も、ついでに取るような影の薄いスキルだ。

 しかし、礼二にはピッタリのスキルだった。たった一発の弾丸が無限に近く増えたのだから。

ニート生活で覚えた弾丸の構造と、サイクロプスを倒した分のスキルポイントでレベルを上げた複製なら、いくらでも、手のひらから作りだせる。

「さぁ、誰から穴を開けてほしい!」

 空薬莢を捨てて装填すると、次から次へ乱れ撃つ。リロードも射撃も、元の世界で嫌というほど練習してきたのだから、狂いはない。

そうやって撃ちつづけていれば、マグナムの轟音と威力に恐怖したのか、ゴブリン達は逃げ始めた。逃がすかと追おうとしたが、まだ街の中からは悲鳴が聞こえてくる。

「逃がしちまったか。仕方ない。おい、残党を片づけるぞ。やれるか? おい、ステラ?」

 呆然としていたステラは、礼二の声に涙ぐみながら感謝すると、マグナムを指差した。

「使えないはずでは……」

「事情があってな。とにかく行くぞ!」




 その後、街に侵入したゴブリン達はことごとくマグナムの餌食になり、どうにか殲滅した。

 街はあらゆるところが破壊されているものの、死者はいないようだ。ステラがいかに頑張ったのか伺える。

「さて、こうしてマグナムを無限に撃ちつづけられるようになったわけだが、ちょっと頼みがある」

 ヒールというスキルでステラを青い光が包むと、なんだろと礼二を見れば、微笑んでいた。

「二度も命を救ってもらったのです。私に出来る限りのことでしたら、なんでも力になります。それで、なんでしょう」

 ヒールは体力と傷を治すのか、目に見えて疲れていたステラは顔色を戻し、話を聞いてくれた。。

 パーティーを組んでほしいと。




 けが人の治療が行われている表通りの裏で、ステラは考えてくれている。礼二も、必死に頼みこんだ。

「俺はまだ、この世界について知らないことだらけだ。そこで、色々と教えてもらいながら一緒に戦いたい。もちろん、こいつで戦いにも参加する」

 黒光りするマグナムの威力を、ステラは知っている。ハイエルフだとかエルダードワーフよりも強力な攻撃のできるマグナム使いが味方になるのなら、悪い話ではないだろう。

 ステラは考えた後、嫌な顔一つ見せずに了承してくれた。

「ですが、私が本来住んでいるのは、ここより更に西へ行った街です。馬車の用意をしますから、少し待っていてください」

 案外あっさり決まってしまったことに安堵しつつ、当面はステラと共にこの世界について学ぼう。

 なんだ、そこまで難しくないじゃないか。この調子なら、成すべき何かも、簡単にこなせるのではないだろうか。

 とにかく、準備ができたら、その街へ行こう。


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