犬耳族の二人
練習場の端にあるギルドの武器庫。そこに暴れるエリアルをウルビスがぶち込めば、人の目を気にせずに、色々と聞くことができる。
「まずは、説明してもらおうか」
獣化を解いたウルビスが指の関節を鳴らして掴みあげると、黒水晶と白水晶について問いただした。
「あ、あれは、その、私は知らない!」
「ほう、こうして近づいてみて匂ってくる魔物の匂いに、覚えがないと?」
「ちなみに、私は強力な魔物か魔王軍らしき魔力を感じ取りましたが、気のせいですかね?」
続けて何か言ってやりたかったが、特に何も感じないので、黙っていた。
「答えろ。でないと、大騎士団長は明日から空席になる」
まるでヤクザだ。やっていることは向こうの方が悪いが、この場面だけを見れば、危険なのはウルビスになる。まあ、この二人が魔物や魔王軍の気配を感じ取ったのだ。言い逃れはできないだろう。
「さあ、答えろ」
剣を引き抜いて放り泣けると、エリアルは尻餅をついた。倒れたエリアルに、ウルビスは剣で頬に一筋の切り傷を作れば、分かったと喚いた。
「犬耳族たちは、白水晶と黒水晶という二つの水晶に封じた!」
「それはもう分かっている。聞いているのは、それがどこにあって、誰が持っているのかだ」
エリアルの返答が遅れるたびに、ウルビスの切っ先は目玉へと近づいていく。あまりの恐怖に漏らしたエリアルは、取引を行ったと叫んだ。
「わ、私は弱い! 母様の加護がなくては、戦えない程だ! だから、魔王軍の錬金術師ジュリアスと取引をした!」
「魔王軍の幹部だと……内容はなんだ」
「し、白水晶と黒水晶に大量の、実験用とか言っていた命を集めれば、力をくれると約束してくれたんだ! だから、丁度従わない犬耳族たちを水晶に封じた。まだ、足りないとか言っていたが……」
錬金術師ジュリアス。ステラは二人の問答の間にその名を口にして、今になって思い出したらしく、声をあげた。
「人の命を奪って新しい魔物を作りだす魔王軍の幹部ではないですか! それに、幹部の中でもトップクラスに危険とされている相手ですよ! そんな相手に……それでも騎士団長ですか!」
「だ、だって僕……じゃなくて私は、力が欲しかったから……」
ステラは、心底呆れていた。出会って初めて、あの優しいステラが侮蔑の眼差しを向けている。
「それで、ジュリアスはどこにいて、水晶はどこにある」
「た、たしか約束している場所がある。そこで、明日会う予定だ……」
「ならば、俺たちも連れて行ってもらう。ステラと礼二も、それでいいか」
「丁度家が欲しかったところだ。また報酬でがっつり稼がせてもらうから、俺は行くぜ?」
「ジュリアスは錬金術師は危険です。魔法系のスキルを使えなければ戦いにならないかもしれないので、私も行きます」
お前たち、正気か。エリアルは泣きながらそんな事を言うが、これが俺たちのパーティーなのだ。
「案内してもらいますが、念のために、呪いのスキルをかけておきます。ちょっと押さえておいてください」
ステラがなにやら杖を取り出して呪文を唱えているので、ウルビスと二人で押さえつけると、青い結晶から現れた黒い輪がエリアルの首を絞めた。
「私の合図一つできつくなっていきます。やろうと思えば一瞬で喉を潰すこともできるので、裏切らない方が身のためですよ。それと……」
ステラは、呆然と立ち尽くしているスールとシールに歩み寄ると、その首輪に触れた。手のひらから柔らかな光が発せられると、首輪は消えてなくなった。
「あっ」
「えっ」
常に死んだような目でエリアルの命令を聞いていた二人は、眠りから覚めたように体が跳ねると、辺りを見回している。
そして、二人して漏らして泣いているエリアルを指差した。
「変態ロリコン騎士! ってか臭!」
「ホントに臭いです。いい大人がおねしょですか」
いきなり活発になった二人は、汚らしい物を見る目でエリアルを見ている。双子なので見分けがつきにくいが、髪の長く物静かなのがスールで、紙を短くしている元気なのがシールだと覚えることにした。
二人はエリアルを散々罵ったあと、ここはどこでなにが起きたのかと、親戚のような種族であるウルビスに聞いた。しかし、あの首輪については分からないようで、ステラにバトンを渡した。
「えーと、マインドコントロールですかね。指定した相手に従属するようになる首輪を付けられていたのです。それで、ここはハイランドという国の、ギルドです」
ハイランドと聞いて、シールが目を輝かせた。
「すごい! ハイランドといえば都会だよ都会! ショッピングもしたいし、食べ歩きとかも夢だった!」
「落ち着くのです、妹よ。どう見てもここは倉庫かなにかです」
「それでも、嗅いだことのない匂いが沢山してくるよ! 森の匂いしかしない里とは大違い!」
「その前に、ここにいる方々に現状を聞かなくては。改めまして、スール・エプレルです。こちらは双子の妹のシールです。歳は十五です」
なんというか、個性的な姉妹だ。神童と呼ばれているらしいが、まだ子供だから、早いところ里に返してあげよう。そのためにも、エリアルに案内してもらう必要がある。
「とりあえず、逃げられないように縛っておくか」
「そうですね。私の呪いも、レベルの高い魔術師なら解けますから」
そういうことで、一日ギルドの武器庫を借りることにした。ここに縛って猿ぐつわでもしておけば、逃げられないし、助けられないだろう。
スールとシールは、女同士ステラの家で一晩を過ごしてもらい、礼二はウルビスの家に泊まった。
おそらく、明日は魔王軍の錬金術師にして幹部のジュリアスとやらと戦うことになる。成すべきことが見つからないままいたずらに危険なことを繰り返していいのかと思うところがあるが、犬耳族は千人近くが水晶に囚われているのだ。それを知っていて力があるのなら、戦わなければならない。
それと、スキルレベルを上げたり、魔物を倒すたびに感じるのだ。例えようもない何かに近づいていると。それはどす黒いかもしれないし、純白かもしれない。今はまだハッキリ見えないが、近づいていると思う。きっと、その何かとは、戦うことに繋がりがあるのだと、なんとなくわかってきた。




