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ヒーラーストップ勇者様!  作者: 大きな愚
一章:勇者の旅立ち
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2:異世界リーフ

『無事に目覚めたようじゃな』


 開いた扉から寝台の傍らまでやって来たのは「妖精の女王」と表現するのがぴったり合うような人物で、私と勇者様の背筋も思わずピンと伸びていました。

 身長80センチほどの身体は、背中から生えた四枚の透き通った(はね)によって宙に浮かんでいます。

 顔立ちは、よくよく見るとやや目尻の垂れた優しそうな風貌なのですが、透き通った空色の瞳と陶磁器のような白い肌が威厳のある硬質なイメージを与えています。

 頭上には、ベレー帽が巨大化したような帽子。複眼と顎を供えて節足動物の頭部を連想させるその帽子は、すっぽりと頭を覆っていて髪の色は(うかが)えません。

 肌に密着してボディーラインを浮き出させる上半身と足首までを覆うボリュームたっぷりの下半身が対象的なドレスは、鮮やかな青でその肢体を包んでいます・・・・って勇者様、何を胸ばかり凝視してますか? 確かに大きいですけど。

 ところが女王様はそんな視線も悠然と受け止め、ふよふよと寝台(ベッド)の傍らにまでやってきました。

(わらわ)〈青〉(ブルー)妖精女王(フェアリークイーン)を務める、ビィ・〈青〉()・ケーナじゃ。』

卯月 鰆(うづき・さわら)だ・・・・です」

 胸を張って名乗るケーナ女王様の威厳に怯むこともなく勇者様は挨拶を返し、そして首を傾げます。


「俺は、どうして此処で寝てたんだ?」

『ふむ。そこから説明せねばならぬか』

「あぁ。頼む・・・・じゃないな。頼みます」

『妾が見つけた時には、()(ほう)は星の海に漂っておった』

「星の海っ!?」

 真剣だった勇者様の表情が突飛な単語を聞いて驚愕に変わります。

「海と言っても、フォーリヤ世界の外に広がる暗黒空間のことですよ。異獣(いじゅう)も居るから安全な場所じゃないんです。ご無事で良かったですね」

「世界の外の暗黒空間・・・・って宇宙か? なんで俺そんな(トコ)に?」

『其の方が思っておるモノとは違うのじゃろうがな。ポムよ、経緯を説明してやるが良い』

 ケーナ女王様は、手に持った(しゃく)で私に話を振ります。

「はい。まず、勇者様は〈転移魔法陣〉によって召喚されました。ですが〈天蓋結界〉に弾かれてフォーリヤ世界に入れず、星の海を漂う事になったものと推測されます」

「なるほど」

「星の海を漂う勇者様をケーナ女王様が見つけて救助しましたけど、それまでに受けていたダメージが原因で丸二日の間、寝込んでたんですよ」

「そうなのか。二人とも、ありがとう」

『構わぬ。他に聞きたいことがあるのなら聞くが良い』


「聞きたいこと・・・・そうだ、幹! 俺と一緒にもう一人いなかったかい!?」

 転移に至る流れを把握した勇者様でしたが、やはり転移の直線に一緒にいた友人を思い出してしまいました。

「・・・・」

『・・・・』

 思わず、ケーナ女王様と顔を見合わせてしまいます。

 この質問については予測できていたし、そのための準備もしていたのですが、やはり答えるには躊躇(ためら)ってしまいます。

「何か知ってるのなら教えてくれ。どんな事でも良いからっ!」

 必死に言い募る勇者様の姿にケーナ女王様は頷き、そして王笏で私に振ります。

 女王様、言いづらい事は私ですか。はい、わかります・・・・。

「お友達のミキ様に関しては、勇者様を庇って〈転生トラック〉に()ねられたということだけしか確認できていません」

 お伝えできるのが悲観的な事実と、不確定な予想だけなので、どうしても歯切れが悪くなります。

「ですので、ここからは希望的観測になりますけど、何処かの世界に赤ちゃんとして転生しているか、勇者様みたく結界に弾かれて星の海を漂っている可能性があります」

『妾が観測できる範囲は調べてみたが、其の方以外に漂っている転移者は居らなんだ。もし居るとすれば、その範囲外という事になるじゃろう』

「そうか・・・・」

 私の推測を伝えると、勇者様はそれだけ言って黙り込んでしまいました。

 肩を落として頭を抱える姿を見ていると、慰めの言葉が思わず口をついて出ます。

「あの・・・・勇者様、気を落とさずに」 

「幹は生きてるのかい? フォーリヤだっけ、この世界に産まれてくるのかい? 星の海から転移者を救助できるの、アンタ以外にも居るのかい?」

 声をかけた途端、勇者様は顔を上げて怒涛のように質問を繰り出します。

『そう一度に聞かれても困るじゃろうが。死んでいるとは限らぬ、という話じゃ。其の方がこの世界に転移してきた勇者である以上、ミキとやらがこの世界に転移もしくは転生する確率も高かろうな。そして、妾以外で星の海に手出しできるとなると・・・・居ないとも限らん。確認も連絡も取りようがないのじゃがな』

「そうか。だったら、希望は捨てなくても良いな」

 驚くほどの切り替えの早さでした。


「そう言えば〈勇者〉って何だ? それが原因で俺と幹は喚ばれたのかい?」

「勇者は、このフォーリヤ世界に於いて異世界より来たりて難事を成し遂げ世界を危地から救った者、とされていますね。例えば・・・・」


 始まりの勇者と言われる卯月 皇(ウヅキ・スメラ)は、海底で目覚めた禍獣(かじゅう)の王と彼の率いる万色の軍団に仲間と共に立ち向かい、これを倒して聖王国を建国したとされています。

 仲間には、後に彼の妻となった初代聖王が居たそうです。聖王家が勇者の血を引くという論拠とされているので何処まで本当かはわかりませんけど。

「ウヅキ・スメラ・・・・だから名乗っただけで勇者様呼ばわりだったのか」


 魔法の勇者と言われる卯月 博(ウヅキ・ヒロシ)は、隕石と共に飛来した刻獣(こくじゅう)の王を仲間と共に打ち倒し、その知識から勇者魔法の原型を作り上げたと言われています。今もフォーリヤ世界に伝わる勇者魔法は、彼の存在抜きにしては語れません。

 仲間には、豪剣使いの鬼、漆黒の鎧騎士、動く石の巨人が居たそうです。この組み合わせでは魔法を鍛えたくもなりますよね。

「勇者魔法・・・・そんなモノもあるのか。俺にも使えるのかい?」

「後で概要についてはお教えしますね」

「あぁ、頼む」


 謎の勇者と言われる卯月 学(ウヅキ・マナブ)は、幻獣王の住む紫の月に到達し、謎の契約を結んで謎の場所に謎の一族が住む謎の王国を作ったそうです。

 謎ばかりですね。

 仲間には、女戦士(ファイター)、女魔術師(メイジ)、女司祭(プリースト)、その他多くの女性冒険者に加えて幻獣王の娘も居たそうです。

「婆ちゃんの父親だな・・・・。十八歳で同級生三人を妊ませて雲隠れしたって噂が残ってる」

「英雄色を好む・・・・とも言いますし。あはは」


 木刀の勇者と言われる卯月 遥(ウヅキ・ハルカ)は、仲間と共に旅をする中で開きかけていた冥界の門を発見し、これを閉じて地上へ進軍しようとしていた冥獣(めいじゅう)の軍を押し返したのだそうです。確か、二年くらい前の話ですね。

「・・・・従姉だ」

「え?」

「従姉だよ。何やってんだ、遥姉!」

「なんでも、元の世界に戻る手段を探す旅だったそうですね。〈冒険者〉の一党と行動を共にして居られたそうで」

「そう言えば、遥姉の学校で神隠し事件があったとか・・・・」

 勇者様の親戚は、そういう方ばかりなのでしょうか?


「なるほど、もう充分だ」

 歴代の勇者について説明する私に、勇者様はストップをかけました。

「ということは俺も何かを期待されて喚ばれたってことか」

『そうかも知れぬが、誰が何のために喚んだのかも判らぬからな。其の方は気にせず己のやりたいようにすれば良かろう』

「わかった。じゃあとりあえず幹を捜すことにするよ」

『うむ。では改めて、妾は妖精女王ビィ・〈青〉・ケーナの名に於いて、ウヅキ・サワラを勇者として認定する』

「良かったですね、勇者様」

「ポムもありがとうな。世話になった」

 今後の方針も決まり、晴れやかな表情の勇者様と手に手を取って喜び合います。

 僅かな時間でしたが勇者様のお世話ができたこと、それは私にとって一生の誇りとなることでしょう。

 そんな感極まった私に、ケーナ女王様の爆弾発言が突き刺さったのでした。



『では、ポムは勇者の従者として旅立ちの準備をするのじゃ』

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[一言] 身内ばっかりじゃねえかw(予定通りのツッコミ
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