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ヒーラーストップ勇者様!  作者: 大きな愚
四章:月夜の来客
28/42

6:日は昇り

「おはよーっス!」


 早朝の施療院に元気な声が響き渡ります。

 黄色く見える太陽の光に目を細めながらカーテンを引き、窓から外を見てみると案の定、大声の主はチャーリーさんでした。

 その横でガラガさんが耳を押さえようと四苦八苦していますね。

 私が昨夜受けた〈腹話術(ベントリロキズム)〉にも言える話ですけど、二対の耳を持つ〈獣耳人(ゾアノイド)〉は耳が良い反面、大きな音に弱いのです。

 二人の後ろでは〈軍用猪(ウォーボア)〉であるベオニアの背にテイワさんとメリーさんが揺られています。

 テイワさんは〈ウェンディゴ病〉によって酷使した筋肉の痛みで身動きがとれず、メリーさんは魔力の使い過ぎで倒れてしまい、二人とも昨夜は〈角鹿車(キャリッジ)〉の自室で休んでもらっていました。


 いつの間にか来られていた、此処〈コルゴ村〉の村長夫人サロリナさんが一行を迎えてくれたので、全員に一通りの診断をした後、勇者様の病室に集合しました。

 メリーさんは一晩しっかり寝たことで完全回復、チャーリーさんもダメージは残ってないようです。

 テイワさんと勇者様の身体も完治には日数がかかりそうですけど、順調に回復中です。

 そして、私とガラガさんは寝不足・・・・後で休ませてもらいましょう。


「まぁ、早いうちに色々と話をしておいた方が良かろうのぅ・・・・」


 ガラガさんが口火を切りました。

 寝台(ベッド)脇の椅子にそれぞれテイワさんとユリア様、勇者様の寝台にガラガさんが、シャムシエルを寝かせているもう一つの寝台に私とメリーさんが座り、チャーリーさんは窓枠に腰かけています。

 広い病室とはいえ、八人が一堂に会すると少々手狭に感じますね。


「しかしまぁ、こっちの方も襲撃されておったとはのぅ。戦力を分けておいて正解じゃったわい」


 縛られて寝台の上で転がっているシャムシエルを見ながら、ガラガさんが呟きます。

 その手は寂しそうに壺を撫でていますけど、施療院の中では噛み煙草とはいえ厳禁ですよ?


「分かっとるわい!」

「こっちの方もってことは、〈角鹿車〉にも襲撃があったのかい?」

「そうッス! 手強かったけど、爺さんとオイラとベオニアで何とか倒せたッス!」

「外見は小さな娘さんじゃったが、ありゃあ熟練の〈暗黒魔導士(ダークエージェント)〉じゃな」


 唾を飛ばして怒るガラガさんに、勇者様が問いかけます。

 その勇者様は再び全身を包帯と石膏で固められており、首から上くらいしか動かないので、見上げるような形になっています。

 そして、チャーリーさんとガラガさんが交互に襲撃の様子を説明してくれました。


 二人が順番に見張りをしながら休んでいた深夜、こちらではシャムシエルが侵入してきた頃、ガラガさんが当番の時に異変が起こりました。

 襲撃者は魔法の霧によって視界を封じた上で一人一人始末していくつもりのようでしたけれど、厩舎でベオニアと一緒に眠っていたチャーリーさんを最初に狙ったのが運の尽きでした。

 視界を塞ぎ、音を消し去る魔法の霧も、猪の鋭い嗅覚までは誤魔化せず、チャーリーさんを起こしたベオニアの体当たりを受け、襲撃者は二対一の戦いを強いられます。

 そして、〈邪悪探知(ディテクト・イービル)〉の魔法によって異変を察知したガラガさんも加われば、例え一人で〈戦舞術(ファイター・マジック)〉〈交霊術(オカルト・マジック)〉〈紋章魔術(ルーン・マジック)〉を扱える〈暗黒魔導士〉が相手とはいえ、数の優位を活かしてなんとか倒すことができたのです。

 朝になって起きてきたメリーさんに留守を託し、二人と一頭は村の冒険者組合(ギルド)に襲撃者を引き渡したのだそうです。


「今頃は取り調べの最中かのぅ」

「むぐぅ・・・・」


 ガラガさんが襲撃者の末路について口にすると、私が座っている寝台の背後からうめき声が聞こえてきました。

 寝惚けた勇者様のギブスで固められた腕と全力疾走中にぶつかったシャムシエルは鼻骨と上顎骨を骨折していたので手術で骨の位置を元に戻してギブスで固めてあるため、今はまともに喋ることができません。

 身動きもできないよう手足も拘束してあるのですけど、その顔色がどんどんと悪くなっています。

 一つには、自分も襲撃者として引き渡される可能性があるという心配があるでしょう。

 依頼を受けた〈冒険者〉と言えど、村の公共施設に対する不法侵入、器物破損といった罪状もあるので、その辺りに無頓着な〈森蛮人(アマゾネス)〉と言えど先行きは不安になるかもしれません。

 もう一つは、チャーリーさんの話に出ていた襲撃者の特徴ががシャムシエルの言っていた依頼人と一致することでしょう。

 彼女が嘘を吐いているのでなければ、シャムシエルは依頼人を可哀想に思い、言うなれば義憤によって依頼を受けた形になるので、依頼人が捕らえられたという話を聞いてその気持ちを募らせている可能性はあります。

 対面の寝台で寝ている勇者様を見る目がギラギラしていますし、注意した方が良いかもしれませんね。


「・・・・というのがこちら側のあらましなのです」

「そう。やっぱり思った通りになったわね・・・・」


 私がシャムシエルを気にしている間にも情報の交換は進み、ユリア様の報告も終わっていました。

 ユリア様の方は可愛らしい(かんばせ)をきりっと引き締めて口を開きます。

 シャムシエルによる施療院襲撃について聞き終えたテイワさんは憐れみと諦観の籠った目でその顔を見つめます。


「この隊商(キャラバン)は〈ノース・キティ公国〉の公都〈エクウス〉まで行かれるのですよね?」

「えぇ、そうよ?」

「良ければ、わたくし達を連れて行っていただけないでしょうか? クーデターの報告をしなくてはならないのです!」

「条件次第ね。アタシは商人なの。ユリアちゃんは、その代償に何を差し出せるかしら?」

「それは・・・・」

「アナタを護衛の必要があるお客様として迎え入れるとしたら、隊商に対する旅の危険性は大きく増えるわ。そうなるとウチの雇い人(スタッフ)への危険手当、場合によっては再契約が必要になってくるの。お分かり?」

「はい、分ります・・・・」


 クーデターの報告は、確かに必要で重要なことですけど、本心ではそれだけでなく救援、そしてお母さんの救出を頼みたいのでしょう。

 そんなユリア様に、意外と厳しい商人の顔でテイワさんは対峙しています。

 おそらくこの展開を予想していたのでしょう、利と理で武装された意見は言葉に詰まるユリア様と対照的です。

 そして、黙り込んだユリア様に、横からやんわりとメリーさんが問い掛けます。


「この〈コルゴ村〉から車で一日の所には〈パーソレイ公国〉の公都〈キノケファルス〉がありますわぁ。どうして〈エクウス〉なのですぅ?」

「その・・・・〈パーソレイ公国〉には知り合いがあまりいなくて。〈ノース・キティ公国〉なら大僧正(アーチビショップ)か騎士団長が会ってくれると思うのです」


 私たちの暮らす〈ネルガート聖王国〉に十二ある公爵の中で一二を争う大公爵家の一つが〈ノース・キティ公国〉を収める〈ノース家〉です(ちなみに〈パーソレイ公国〉は中の下といったところでしょうか)。

 大陸北東部の広大な草原地帯を領地とする〈ノース・キティ公国〉は牧畜を主産業とした豊かな土地でもあるのですけど、それ以上に〈天獣王ネルガート・マキ〉を祀る総本山という特性があり、〈ノース家〉の歴代公王が大僧正を務めることになっています。

 また、遊牧で鍛えられた〈騎兵(キャバリエ)〉と屈強な〈軍馬(ウォーホース)〉に支えられた騎士団を擁しており、〈黒騎士〉の異名を持つ騎士団長は最強の騎兵とも言われています。

 そんな大僧正や騎士団長に会ってもらえるというのですから、流石は評議長のお嬢様ということなのでしょうか。


「良いコネね。素敵。採用っ!」

「できるなら、道中で護衛を増やしたい所ではありますけどねぇ」


 あ。テイワさん、速攻で手の平を返しました。

 メリーさんも良い笑顔で算盤を弾き始めています。


「そうと決まれば、とっとと身体を治さないとだな。〈癒し(イヤシ)〉!」

「まぁ、無理せん範囲で魔法も使って二日って所かのぅ」

「それまではオイラとベオニアで護ってやるッスよ!」


 勇者様も前向きな意見を出してくださり、早速、勇者魔法による治癒を始めています。

 ガラガさんもチャーリーさんとユリア様たちを歓迎する旨を伝え、私も胸を撫で下ろしました。


「これでイルヴァさんの治療も継続できますね」

「はい。皆さまよろしくお願いいたします」

 

 こうして、ユリア様が一行に加わったのでした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 姫、一緒に戦うなら護衛じゃなくても・・・(ボソリ あ、テイワさん睨まないでカタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ 真面目な話、姫が戦えるかってのもありますが 知り合いね・・・着いてもひと騒動有りそう…
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