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ヒーラーストップ勇者様!  作者: 大きな愚
二章:テイワ武装商会
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4:創世神話

「今回はあんまり実入りが良くなかったのです」

「まぁまぁ。大きな損害も無かったことだし、トントンって所じゃないかしら」


 商会長の弟子で商人見習いでもあるメリーさんは、解体した猛獣の状態が余り良くなかったことで意気消沈。それを商会長のテイワさんが慰めています。


 襲い掛かって来た〈鉄絲猴〉(アイアンドリル)の群れを撃退した後、私達が護衛として参加している「テイワ武装商会」の面々は、倒した〈鉄絲猴〉たちを解体しました。

 冒険者歴の長いテイワさんや老練なガラガさんは手際がよく、死んだ猛獣から荷物に積み込む素材を切り分けていました。チャーリーさんは周囲の警戒に余念がありません。

 〈鉄絲猴〉の毛皮は名前の通り毛が堅くて、火に弱く魔法への耐性も低いものの刃物による切断には非常に強いため、防具の材料として人気があるのだそうです。また右前足はお守りとして一部で好まれているそうで、〈霊術師〉(ミスティック)のメリーさんが暗い笑いを浮かべながらしまいこんでいました。

 他に爪や牙といった素材は、該当する獣の討伐依頼を出している〈冒険者ギルド〉に討伐部位として持ち込むと僅かに報酬を得られます。冒険者にとって結構バカにならない収入なのです。

 私と勇者様も解体を手伝いました。「山鳥くらいなら捌いたことがあるんだけどな」と最初は笑顔だった勇者様ですが、始めて解体する猛獣にはてこずらされていたようです。

 街道沿いに置いておくと、また別の猛獣が住みついてしまいかねないということで、残りの屍骸は街道から外れた場所に埋葬し、私達はようやく旅を再開しました。


 一戸建ての家を丸ごと〈巨大角鹿〉(ジャイガントラー)に牽引させた角鹿車(キャリッジ)の中は意外と広く感じます。

 全体的には木目調の落ち着いた内装で、けど所々の細かい部分で繊細な彫刻や可愛らしい小物が配置されており、商会長(テイワさん)の趣味の良さが伺えます。

 一階には台所兼用の居間(リビングキッチン)客間(ゲストルーム)に、倉庫と食糧庫。二階には商会長の執務室兼寝室、二人部屋が二つ、そして御者台。三階は屋根裏部屋なのですがガラガさんが書斎として占拠しています。


 ここに六人が入ると手狭に感じるのですけども、実際に六人が中にいることは滅多にありません。

 〈軍用猪〉(ウォーボア)のベオニアに乗って駆けるのが好きな〈騎兵〉(キャバリエ)のチャーリーと、空が飛べて反響低位エコロケーションで周囲に気を配れる私は、哨戒を引き受けることが多くなります。

 テイワさん、メリーさん、ガラガさんは御者台から〈巨大角鹿〉を操って進行方向を決めたり休憩の指示を出したり。この辺りは雇われたばかりの護衛ができる仕事じゃないので、必然的に勇者様は暇を持て余すことになります。


「おぉ、良いぞ。今代の勇者殿に教えを授けられるとは〈賢者〉(ワイズマン)冥利に尽きるからのぉ」


 居間の中央に置かれた円卓では勇者様にガラガさんがフォーリヤ(この)世界の成り立ちを教えてくださることになりました。

 冒険者訓練校では最低限の技術だけを叩きこまれたため、勇者様にはこの世界における一般的な教養が欠けています。その話をしたところ、テイワさんとガラガさんが手の空いている時に講義してくださることになったのです。

 メリーさんに助手を頼みたいというガラガさんに応えて交替するテイワさんと一緒に、私も御者台へ上がることになりました。私なら御者台からでも講義が聞こえますから問題ありません。


「さて、今日の講義は歴史という話じゃが」


 授業が始まりました。


「世界の成り立ちを問うのならば、まずは神々について話さねばならぬのぅ」

 ズズ、とお茶を飲みながらガラガさんが話を切り出します。

「世界の成り立ちか・・・・」

「ちゃうわい。獣人世界(フォーリヤ)翼人世界(ナール)魔人世界(エアデ)鬼人世界(シロガネ)龍人世界(シュウイ)を合わせた〈五行世界〉の成り立ちじゃな」

「なんか、無駄に壮大だな・・・・」

 引き攣った声を上げる勇者様。


「と言うてもさわりの部分だけじゃがな。カッカッカ」

「ガラガ先生、あまり苛めないであげてくださいねぇ」

 呵々大笑するガラガさんをメリーさんが窘めてくれます。

「はじめに有ったのは創造神である〈神霊メイスン〉じゃった」

 〈神霊メイスン〉はすべての始まりとされる神ですが、その理念や思想などはさっぱり知られていません。思索と探求の果てに悟りを開いた〈賢者〉のみが加護を得られる存在ですね。


「〈神霊メイスン〉は五つの世界を作った。その後、それぞれの世界に五柱ずつの神を作り世界を委ねて去っていった。作り出された神々は、それぞれに委ねられた世界をそれぞれの権能を使って管理し始めたのじゃ」

「フォーリヤ世界に作られたのは五柱の獣神(けものがみ)でした。獣神たちは自ら生み出した眷属、後に異獣と呼ばれる者たちと共に力を合わせて世界を整えていきました」


〈渦獣神〉(ネームレス・テリオン)は海を作って力の流れを生み出し、〈刻獣(アルシレス・レス)神〉(・テリオン)は大地を作って物理法則を組み立て、〈冥獣(カサラ・イル・)神〉(テリオン)は冥府を作って生命を循環させ、〈翔獣神〉(ウィル・テリオン)は空を作って季節を巡らせ、〈暴獣神〉(レックス・テリオン)はその過程で生まれた不要なものを砕いていったんじゃ」

この本(アブラメリン)によると、この時代がフォーリヤ世界が最も活気に満ちた時代だそうです」

 メリーさんが普段から抱えている魔導書(グリモワール)を示します。


「じゃが、そんな時代にも原初の神々にも、終わりの時が訪れたのじゃ」


「終わりの始まりは、秩序を司る〈刻獣神〉と混沌を司る〈渦獣神〉の間に起きた諍いでした」

「あぁ、うん。その二人が仲悪いのはなんとなくわかるかな。学級委員とパリピ勢みたいな相性の悪さだよな」

 勇者様が納得してるのは良いですけど、その例えの方がよくわからないですね。


「輪廻を司る〈冥獣神〉が〈刻獣神〉に同調し、対抗した〈渦獣神〉が破壊を司る〈暴獣神〉を巻き込んだことで、それぞれの眷属を含む世界を二分する戦いは始まってしまいました」

「戦いの口火となったのは、儚さを司る〈翔獣神〉じゃ。どちらの勢力にも与しなかったが故に、〈暴獣神〉によって滅ぼされてしもうた」

「神様って死ぬのかい?」

 勇者様の疑問はもっともです。


「普通は死なん。死ぬことの無い神を滅ぼす。破壊を司る〈暴獣神〉ならではじゃろう」

「結果的に〈暴獣神〉は対立する〈刻獣神〉と〈冥獣神〉を滅ぼし。返す爪牙で、味方である筈の〈渦獣神〉まで滅ぼしてしまいました」

「破壊の権能しか持たぬ〈暴獣神〉が一柱残されたことで、この世界は滅びに向かうことになった。その時、〈神霊メイスン〉が再び降臨されたのじゃ」

 ガラガさんのテンションが一気に上がりました。


「降臨した〈神霊〉(メイスン)はこの世界に〈神樹スゥイカ〉を差し向けた。〈神樹〉(スゥイカ)は大地に根を張って世界を癒し、その(かいな)を広げて〈暴獣神〉を眠りにつかせたと言う」

「世界は滅びを免れたんだな!」

 釣られたのか勇者様のテンションも上がってきました。


「ところがどっこいじゃ! 〈神樹〉と〈暴獣神〉との間には多種多様な動物や植物が生まれ落ちた。その中には現存している生物も多いのじゃが、それを良しとせぬ者もいたのじゃ」

「その当時。世界には、滅びた神々によって生み出された異獣たちと〈暴獣神〉の子らである新しい生物達が暮らしていました。しかし、異獣たちは奉じる神を滅ぼされた恨みを新しい生物たちに向けたのです」

「創世の助力となるべく生み出された原初の異獣たちは強大で、生み出されたばかりの新たな生物たちが立ち向かえるものではなかった。そこで〈神樹〉は眠れる〈暴獣神〉の力を借りて新たに三柱の獣王を生みだしたのじゃ」


「生み出された〈天獣王〉〈地獣王〉〈幻獣王〉の三柱は世界の各地に結界を張り、強大な異獣たちが世界に影響を及ぼさないようにしました。そして獣王の父となった〈暴獣神〉は〈獣皇神〉として崇められることになります」

「現在、〈司祭〉(プリースト)が信仰するのは、〈獣皇神〉と〈神樹〉、そして獣王三柱というのが一般的じゃな。まぁ、種族によって偏りはあるが」

 知られざる創世神の〈司祭〉であるガラガさんも、滅びた神々を奉じる〈霊術師〉であるメリーさんも、一般からは逸脱しています。そして、一般的な神殿では〈獣皇神〉が世界を作ったことになっています。つまり、この話は一般的な神殿ではまず聞けないということです。

 勇者様にとっては際先の良い出会いだったと言えるでしょう。



 神学の授業で講師を務めてくれたガラガさんとメリーさんが御者台に上がって来ました。

 二人と御者を交替し、テイワさんと一緒に私が居間に下りると、勇者様はノートを整理している所でした。どうやら話を聞きながら書きとっていたようです。勉強熱心ですね。見ていると、私が以前に話していた事も一緒に纏めてありました。


 三柱の獣王とその結界によって安定を得た世界に、滅びに瀕した〈妖精郷〉からの移民船が墜落したということ。

 移民船に乗っていた〈古妖精〉によって原住生物から〈獣耳人〉(ゾアノイド)〈森蛮人〉(アマゾネス)〈地鼠人〉(プグラシァン)の知的生物が生み出されたこと。

 〈獣耳人〉たちが起こした隣の世界(ナール)との戦争に嫌気がさして〈古妖精〉たちが姿を消したこと。


 ここまで勇者様が聞いてきのはいわゆる「先史」です。社会的に広まっている歴史に上書きされて、知っている者が限られる失われた歴史。

 迂闊な相手に話すべきではないということ、そして現在の社会で通じる歴史をどこかで教えておいた方が良いと思いました。

 そんな勇者様の姿とノートを交互に見るテイワさん。〈賢者〉ガラガさんと〈霊術師〉メリーさんを抱える商会長は、どうやら私と同じ考えに至ったらしく、熟考した後で艷やかな唇を開きました。


「勇者ちゃん。今度はアタシが〈冒険者〉の歴史を教えてあげちゃうわ!」


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[気になる点] 誤字羅「ぎゃおーす!」 >空が飛べて反響低位(エコロケーション)で周囲に気を配れる私は、哨戒を引き受けることが多くなります。 反響"定"位 >勇者様にとっては際先の良い出会いだったと…
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