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水源京  作者: 猫山英風
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第30話


「水源京を元の状態に戻すには、どうあがいても水源を作るしかない。」


僕は翡翠とハクに向かって言う。


「けれど、水源の元である水そのものが雨音――雨によって運ばれていて、雨は風に乗ってやってくる。だから、水源を戻そうと思ったら風を戻さなくちゃいけなくなる。」

「そんなのは無理だ。例えどんな手段を使っても、大気の流れを変えるのは不可能――いや、出来たらできたで、あらゆる現象――あらゆる命に影響が出る。そんな危険はさすがに冒せねぇぞ。」


ハクの言葉に僕は頷く。


「うん。だから、別の方法を考えるしかない。それで、僕に考えがあるんだけれど、二人とも、聞いてくれる?」


僕はまっすぐ、そしてゆっくり二人の顔を見た。

 ハクの視線は直ぐに泳いだ。彼は僕の瞳を見るなり、肩を竦めるように鎌首を伸ばし、全身を一度震わせた。彼は僕が考えていることを、きっと察している。だからこそ、ずっと僕を気に掛けてくれた友人だからこそ、彼はその考えにイエスと言えないのだ。

 彼は口を開き、小さく言った。


「1つ聞きたい。」

「うん。いいよ、ハク。」

「……涼と紅葉のことはどうするつもりだ。」

「どうするって、どういうこと?」

「お前は翡翠を友達だと言って、友達を救いたいと言った。けれど、お前には人間の友達がいる。もし、もしもお前が――」

「大丈夫だよ。」


僕は言う。夏に吹く強い風のように、自分の中にある不安を弾き飛ばして。


「何があったって、僕と涼と紅葉との関係は変わらないよ。」

「……また、自分勝手なことを……」

「うん。自覚してる。」


ハクは僕の視線を確かめるように受け止めた。彼の瞳は厳しく、天敵に出会ったときのような威嚇するものだった。その赤い瞳を3呼吸程続けてから、彼はふっと笑う。


「――なんだそりゃぁ。数週間前とは随分と違うじゃねぇか。」

「ふふ、そうだね。きっとこれが急成長ってやつだよ。ほら、思春期だし。」

「いや、かんけーねーだろ。」

「そうかな?」

「そうだとも。」

「じゃあ、どうしてかな?」

「はぁ、そんなの――」


ハクは穏やかなため息をついてつぶやく。


「いい親友がいたってことだろ?」

「うん。」


ハクはあきらめたように、でもどこか楽しそうに息を漏らす。


「――ハッ、即答かよ。」

「うん。」

「じゃあ、オレから言うことはただ一つだけだ。

 絶対に、その親友、忘れるなよ。」

「うん。僕の命に掛けても、必ず。」

「そうか。」


彼はそういって蜷局を巻き、頭をすっぽりとその中に収める。


「ありがとう。」


ハクは答えなかった。けれどその尻尾が気にするな、と言いたげに2度小さく横に振られた。


「……翡翠、僕は君を助けたい。ううん、救いたいんだ。だから、力を貸してほしい。」


僕の言葉に、彼女の透明の頬が悲しげに笑う。


「……力を貸すも何も、私の問題だ。何でも言ってくれ。」

「わかった。なら――」


「『流水の神』――スイを見つけるのを、手伝ってほしい。」




 『神』は現象だ。自然現象そのものである彼らは、その現象あるところ、この世界のあらゆる場所にいる。雨が降る場所には雨音がいる。それは同時に世界のどこにでもいるんだ。そして、時が経って一度消えても、彼らは新たな自分として現れる。彼等は群にして個の存在だ。

 ならば、『流水の神』であるスイも同じだ。

雨音がたくさんいるのと同じように、水が流れるところに必ずスイは存在しているはずなんだ。


「この水源京は今雨音の雨で水が大量にあって、それが土に染みこみ、流れ出ている。その流れがあるから、スイはここにいるはずなんだ。」

「で?そのいるはずの神を、どうやって見つけるんだ?神なんて向こうからやってくる時しか、オレは見たことがねーぞ。」


僕はハクの言葉に頷く。


「確かに、僕らは雨音と会う時は、いつも彼女から、だった。

けれど、彼女が会いに来る時以外の雨でも、彼女は居るんだ。

ただ見えていないだけなんだよ。

雨音があの姿で僕たちの前に現れるのは、『精』が多い時だ。僕らはきっと、神の『精』が多いときにしか、彼らが見えないんだ。彼等が見えないときは、彼らの精は少ないんだ。

でも精があるなら――」


「僕は、『対話』できる。」


「!!」

「……なるほど、お前は精と対話できるのだったな。ならばスイの精と対話することができるはず、か。」


翡翠は少し考え、疑問をぶつける。


「だが、そんなこと本当にできるのか?確かにお前は精が見分けられるし、対話が出来る。しかしそれは精霊相手だろう?神としたことがあるのか?」

「ううん、ないよ。神の精は現象だから、他にもたくさんの違う精が混ざっている。水の精、大気の精、微生物の精……僕が見分けられる限界を超える量が入っているから、今までは対話できなかった。

でも、今この水源京の精は、極端に少ない。

だから、あと少しスイの精が多ければ、見分けられるはずなんだ。」


僕は翡翠に言う。


「だから、翡翠には水の精を操って、流れを起こしてほしい。」

「……そんなことでいいのか?私が水流を起こしても、微々たるものだ。神が姿をさらすまでの精には至らないぞ。」

「大丈夫。見えなくても、必ず対話できる。ううん、してみせる。」

「……そうか、わかった。

だが……精を操れば、それは私の精を同時に失う。私が消滅すれば、この水源京はこの世から消え去ってしまう。そうなったら、ここにいるお前たちも死んでしまう。

私は……それだけは、嫌だ。

だから、限界が来たら、例え何があろうとお前たちを外に放り出す。それでも、いいな。」


僕は大きく息を吸い、覚悟を決める。


「うん。大丈夫。」

「もって数分だぞ。」

「それだけあれば、十分だよ。」

「……そう、か……

 なら――」


 翡翠はそういうと、その透明な腕を僕に伸ばした。

美しい水晶のような指が、僕の頬を撫でる。


「一応、今のうちに言っておく。

 わたしは、お前と出会えたこと、うれしく思っているよ。

 最後に、あの花火を見せてくれた。

 お前という存在が、わたしに人の営みを見させてくれた。

 それは、わたしの――生涯の宝だ。

 最後に、わたしの本当の願いを――

 大切な人と一緒に過ごしたいという願いを

 かなえてくれたことを、わたしは感謝している。」


彼女はそっと僕の額に額を当てる。

彼女の透き通った瞳が、目の前にあった。


「――ありがとう。友よ。」


 僕は瞼を閉じて言った。


「うん。――でもね、最後じゃ、ないよ。」

「……」

「次は紅葉狩りだから!!」

「……ふ。そう、だな。」


彼女は笑った。

それは今までで一番穏やかで、一番美しい微笑みだった。

彼女の透明な髪の下から見えた真っ青な耳飾りが、僕には妙に輝いて見えた。


「それじゃあ」


僕は彼女の瞳を見る。

強く、絶対に救うと、そう自分に言い聞かせる。


「はじめよっか。」


読んでいただき、ありがとうございます!!

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