第7話 Only if_この程度の事が理解できないなんてさぞ苦しかろう!
Only if_この程度の事が理解できないなんてさぞ苦しかろう!
その人(性別年齢ともに不明)は、優しく思い遣りがあり、 思慮深く教養があり広範な知識を持ち 静かに熱く語る人でした。ある時、「理解に苦しみます……」と私に言ったのです。書き込んできたのです。
その頃、二人で部屋を、二人だけでオンラインでチャットできる部屋を作り夜を明かした日が何度もあったのです。
「今トイレいってくるね。ちょっと待ってて。」「ぅw」「ただいま~っ!」他愛もないどこか微妙な感じもする日々でした。たしか、赤ちゃんポストがテーマだったと思います。「理解に苦しみます……」その瞬間、理解に苦しんだのは、私の方でした。女でも男でもないその人が、理解できない程の馬鹿なのか?それとも私の方が理解し難い馬鹿なのか?五秒後には、「この程度の事が理解できないなんてさぞ苦しかろう!」叫んでしまっていたのです。チャットで。
その後その人とは連絡もつかなくなり、もう永久に合うこともないでしょう。ただその人を深く傷つけてしまった事は解っています。もう謝る事もできません。取り返しのつかない事をしてしまった。
あの事で、まさか、その人が死んでしまったりしてないだろうか。想像すると今でも胸が痛みます。
このエッセイのテーマとなった、あの女でも男でもない人が死んでしまったとしたら?
そこに千の理由があるとして、私が引き金を引かせた結果、彼女が死んでしまったのだとしたら?彼女の死のレゾンデートル(存在理由)は私なのか?最も重要な理由なのか?
遠いどこかで、光回線でかすかに繋がっているモニターの前の、あなたも私も生身の人間です。
行動する前によく考えねばならない。ここでも同じなのです。