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虚無の正体。

作者: サボタジュ

 人間は群れで生活する生き物である。


 少年は幼い時に片親をなくし、男で一つで育てられた

 

 少年の父はいつも残業、出張などで帰りが遅かった


 少年は頼れる親族もいなかったので僕は家事全般は大体できるようにまでなった


 だが、やはり人間の本能なのだろうか。独りでの生活を続けていると心にぽっかりと得も言われぬ虚無感を覚えるのだ


 少年には友達が全くいなかったわけではない。むしろ多い方だ

 だが、中学、高校を卒業していくと多くとは話さなくなり、次第に疎遠になる


 そんなことを考えているからだろうか。心の虚無感はいつまでたっても満たされない


「少年」は心に空洞を持ったままいつしか大人になった。




「君、笑わないよね。」


 上司からの言葉である。

 そしてその言葉が最近の僕の悩みの種なのである。


「笑わない、か。」


 彼の言葉は虚空に消える。ここは彼の実家なのだが、最愛の父親も昨年亡くした。


 彼は愛想の良い人だと近所でも職場でも評判であったが故に理解ができなかった。

 上司はおそらく還暦を迎えるであろう、顔には深いしわが刻まれており、何を考えているのかわからない。

 性格は真面目そのものである。


「参ったな」


 彼は仕事で疲れた体を癒すためにベッドに入った。


 翌朝、会社に行くと、いつも通り、部長席に座っている。

 この人は何時に起きて通勤しているのだろうか。

 単純な興味がわいた。


「君、今日はいい目をしているね」

「はぁ、ありがとうございます。」


 なんだかお褒めに預かったようだ。


 仕事終わり、上司に声をかけられた。

「一緒に飲みにいかないか。」


 それは周囲から衝撃の声が漏れるほどの誘いであった。

 僕自身部長に対して興味があったからお誘いに乗ることにした。


「この度はお誘いいただきありがとうございます」

「いやいや、私から君に聞きたいことが多かったからね」


 なるほど。そういう理由か。


「まず、君はなんで笑わないんだい?」


 ……

「はい?」

「君は会社内で、少なくとも私の見ている前では今まで一度も笑っていないんだよ。」


 彼は理解ができなかった。この人が何を言っているのか。質問の意図が全く汲めないでいた。


「あー、質問を変えよう。 君は楽しいと思わないのかい?うれしいと思わないのかい?」


 彼はここに来て初めて焦りの表情を見せる。

 いくら記憶を遡っても漁っても、楽しい記憶が一切思い出せないのである。

 それは父といた時間でさえ。ゲームをしていた時間でさえ、同僚と飲んでいた時間でさえ。


「やっぱりね。君は物事を楽しいと思っていない。その理由がわかるかい?」


 わからない。わからないわからないわからないわからないわからない分からない判らない解らない

 この時、彼の心の罅が一気に大きくなり心全体を崩壊に向かわせる。

 そう、上司のその一言は彼の人生の多くを否定したのだ。

 自分が今まで楽しいと錯覚していたものはすべて見せかけであり、実際自分は何の感情をも抱いていなかったのだと。


「それは君が他人を無意識のうちに見下しているからだよ。」


 彼の心の崩壊が一時的に一つの疑問によって止まる


 僕が、他人を見下す?

 嘘だ。僕は周りの人間に対していつも劣等感を抱いていた。そんなはずはない


「あのね、君は頭が良いんだよ。」


「自然に思うのさ、こんな奴らと付き合って自分に何の利益があるのだと。」


「そうすると君は心から付き合えなくなる、上っ面だけの付き合いになるのさ。」


 彼は一つ大きな勘違いをしていたのだ。

 彼の心の虚無感の正体は「孤独感」ではなかったのだ。

 それは「理解者」がいないことだったのだ。

 誰も彼を理解していない。親でさえ。そんな理解者がいない人生を送った人間はもう、普通の人間には戻れない。

 そう悟った彼は無言で席を後にした。

 自分の人生が全て自己庇護から来た味気のないつまらないものだと悟ったのだ。


 その後彼を見たものは誰もいない

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