閑話、青年と少女の話
数万の星の下に彼女はいました
とても儚くすぐ消えてしまいそうな彼女がいました
彼女は毎日そこにいました
やがて私は彼女と話すようになりました
彼女の好きな星座は双子座であるという事を知りました
私も双子座が好きだと伝えると
とても綺麗な笑顔で笑いました
その笑顔に私は心を奪われました
毎日のように
同じ場所に
同じ時間に彼女は現れました
そして私も同じ場所
同じ時間にその場所に行きました
とても楽しく
とても嬉しい日々をそこですごしました
それは彼女も同じだったようで
家の中にいる時よりも楽しい
そう彼女は言います
ある日彼女はその場所にいませんでした
私は不安になりました
その日彼女が現れることはありませんでした
次の日も
その次の日も
彼女が現れることはありませんでした
一ヶ月
二ヶ月
三ヶ月
四ヶ月
五ヶ月
六ヶ月
七ヶ月
八ヶ月
九ヶ月
十ヶ月
十一ヶ月
十二ヶ月
二年
三年
四年
五年
六年
七年
八年
九年
十年がたちました
私はずっとあの場所に通っています
ある日
彼女に会いました
ちょうど十年と一日の時がたった時でした
お久しぶりです
彼女は言いました
お久しぶりです
私は言いました
ごめんなさい
彼女は言いました
待っていました
私は言いました
ありがとうございました
彼女は言いました
どういたしまして
私は言いました
ふたご座の伝説って知ってますか
彼女は言いました
いいえ
私は言いました
彼女はふたご座の伝説について話してくれました
その話を聞いた私は
美しい話だといいました
彼女は言います
ありがとうございました
彼女は言います
私はこれからどこか知らない場所へ行きます
私は言います
もう会えないのかと
彼女は言います
私の体は三日後私のものじゃなくなる
私は言います
どういうことなのかと
彼女は答えず
その場を去っていきました
その後私はこの世を消える時まで
彼女に会うことは出来ませんでした
もしかしたら彼女は
双子座の伝説のポリュデウケースのように
自分の命を誰かに差し出したのではないか
私は薄れゆく視界の中で思った
一瞬だけ彼女に似た少女を見たような気がした