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卒業

それからの私は、勉強を頑張った。受験生は勉強第一。

五十嵐君への想いは消えてはくれない。けれどそれを断ち切る様に勉強した。


「真奈実、あんた大丈夫? 目の下クマだらけだよ…? 」


「あ、未羽ちゃん…。大丈夫だよ 」


「ならいいけど、あんまり無理しないのよ? 」


「うん。ありがとう」



ポッキーを一本貰いながら笑った。


本当は辛くて仕方ない。毎日辛い。けど、どうにもならない事だってあるのはわかってる。

だから今は勉学に打ち込もう。それでいつかはわすれる様にするんだ。



「結局クリスマスも何にもしなかったんだ…」


「うん…。迷惑かけたくなかったし」


「告白もやめたしね……」


「……はは。それも、ね」


切ない気持ちを抱え、ポッキーを齧った。




本当はクリスマス、告白してプレゼント渡したかった。けど、迷惑にはなりたくない。だから今度のバレンタインデーも、丁度三年は自由登校に入る頃だし何もしないと決めていた。


「チョコくらいはいいと思うんだけどねぇ」


「それも、ねぇ…」


やっぱり嫌がる事はしたくない。

今までしつこく告白してきて今更だけど。


「吉井さん、チョコ渡すみたいよ? 」


「……吉井さんのは喜ぶよ」


「あんまり後ろ向きにならないの! 」


「ありがとう…」



曖昧に笑って自分の席に着いた。




二月のバレンタインデー。何だかんだといいながら、諦めの悪い私は、コッソリチョコを用意した。


勿論直接は渡さない。ベタだけど五十嵐君の机に入れるつもりだ。


嫌がる、よね…。でも最後だから。これだけは許して欲しい。


私は希望の専門学校に進学が決まっていて、皆んなもそれぞれ進路が決まりつつあった。

五十嵐君は地元の大学へ進学するらしい。専攻は分からないけど。

卒業までもう少し。卒業したら、五十嵐君に会う事は無いだろう。


ならば。


私は意を決してチョコを持参した。


放課後になり、人もまばらになっていく頃、私は五十嵐君のクラスの前に立っていた。

手には先日買ったチョコレート。握り拳を作り、覚悟を決めて教室に入る。


五十嵐君の教室…。ここで彼は学んだんだ。

感慨深い物があるが誰かが入って来ては不味いので、以前リサーチした五十嵐君の机に向かい、さっと机の中へチョコを忍ばせ、慌てて教室を出た。


「緊張した…」


自分の教室に戻り息を整える。思った程に緊張したけど、心なしかスッキリもしていた。

想いは流石に断ち切れないけど、最後にチョコを渡す事ができた。

うん。よくやった。


何だか軽やかな気持ちになり、学校を出て家まで帰った。


ドキドキする気持ちは中々鎮まらなく、どこか呆けていたかも知れないけれど、翌日には大丈夫になったので、学校へ行く準備を始めた。



「五十嵐君、チョコ見つけたかな…」


実は昨日は五十嵐君は放課後サッカーをするために校庭にいる事は知っていた。

サッカー部だった彼は引退してもよく顔を出すらしい。なので昨日も顔を出す事を教えて貰ったのだ。


だけど直接なんて渡せないから、机に忍ばせた。

だから昨日彼が机を見ていればチョコの存在に気がつくはず。


なんて思ったかな。しつこいって思ったよね…。

気落ちする気持ちを奮い立たせ、学校へと向かった。


「おはよう。未羽ちゃん」


「おはよー」


いつもの学校、いつもの教室。いつもの未羽ちゃん…。

だけど、もう少しでこの日常が無くなるんだ…。


「春休みのバイト、決めたよ! 」


未羽ちゃんが嬉しそうに話しかけてくる。


「本当? 何やるの? 」


「うん、ウェディングレストランのバイト。基本はレストランなんだけど、結婚式もできるの。で、結婚式の時はそれ専門の制服に着替えての接客」


「へー。スゴイ! 未羽ちゃん器用だから、接客上手そう」


「はは。器用なんかじゃないって。でも花嫁さん見れるのはいいよね」


「未羽ちゃん、ウェディングプランナーさんになるのが夢だもんね」


「そう。だから頑張るんだ」


「頑張ってね」


そう告げて自席に着いた。


今日は卒業式の練習。それも緊張するのに、五十嵐君の反応にも緊張してる…。

他クラスだから顔見れるかわからないけど…。


何て思っていたら、中休みに五十嵐君一行と遭遇してしまった。


いつかの様にさっと身を隠す。堂々となんてしていられないよ…。



「五十嵐? チョコ何個貰った? 」


「チョコ? ああ…。吉井さんから一つと、三組女子から三つ。部活マネから二つだな」


「結構もらってんな。羨ましい…。ところで例のあいつからは? 」


「例の? ああ…。貰ってないな」


「遂に諦めたか! あいつ急に大人しくなったもんな! 」


「そんな事どうでもいい…」


「お前もホッとしたろ? 」


「……まぁな」



笑い声が遠のいていく。私は自分の立ってる場所が揺れている錯覚に陥った。


「なかった事にしたかったんだ…」


なんだ。そうか…。


そう思えば何処か納得した。

きっとあのチョコは捨てたに違いない。家か何処かで処分したのだろう。名前書いてあったし。下手に学校では捨てなかったのか…。


完全にフラれているけど、改めてまたっていうのは厳しいなぁ。


教室に帰ってからも、家に帰ってからも、心が死んだ様に麻痺していた。


未羽ちゃんは心配してくれたけど、ごめんね。笑えないよ…。


五十嵐君への想い、早く消えてくれないかな。


そんな事を毎日思いながら、私は高校を卒業した。

四月からは専門学校に通う。夢を叶える為、ガラス工芸家になる為、一生懸命頑張るのみだ。



「卒業おめでとう」


「無事卒業できたね」


「また、会おうね。絶対に」


「当たり前じゃん」


そう言って未羽ちゃんは最後のポッキーをくれた。


卒業おめでとう。五十嵐君。新しい生活がより良い物になります様に…。


校庭に目をやる。五十嵐君が笑っていた。

その姿を目に焼き付けて、未羽ちゃんと他の友達と学び舎を後にした。

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