プレゼント
翌日は土曜日で、学校はお休み。
普段なら予備校に行くのだが、たまたま休講になったので、未羽ちゃんと買い物に行く事にした。
「久しぶりだね。洋服とか買おうかなぁ……」
「バイトできないから、今月ピンチ。真奈実だけ買いなよ」
「えー? 未羽ちゃん買わないの? 私だけかぁ。残念」
「受験後はバイトできるから、その時買うよ」
「分かった。あ! あのお店良くない?」
未羽ちゃんと一緒にモールの中にある一軒のお店に入った。
可愛い花柄のワンピースや、スカート、ブラウス等があり、目移りしてしまいそう。
「いらっしゃいませ〜」
女性店員さんの、間延びした声は無視して、私は洋服探しに没頭した。
なるべく体型を隠したいから、少し大きめのサイズの服を探す。
「どれにしようかなぁ…」
「真奈実、このワンピースは?」
「これ? でも、体型出ちゃうよ?」
未羽ちゃんが一枚のワンピースを手に持ってやって来た。
水色のワンピースは、腰の部分がベルトになっていて、リボンの形をしていた。
膝は隠れるけど、身体のラインが出てしまう。
「お客様? このワンピースはとても人気なんですよ? 試着なさってみては?」
「一度着てみなよ」
「うー……」
二人の声に押され、フィッティングルームへ入る。
確かに可愛いワンピースだ。けど……。
迷いに迷い、結局試着する。
「着てみたけど、やっぱり……」
「似合うじゃない! 無理に身体のラインを隠すより、出した方がいいって」
「お似合いですよ。身体の線を出すのは抵抗がありますが、敢えて出す方がいいんですよ?」
「そうかなぁ………」
今迄はダボッとした服を着ていたけど、確かにこう言うのもいいかも知れない。
「じゃあ、これください」
「ありがとうございます〜」
キレイにラッピングしてもらい、店を出た。
「本当に似合うかなぁ」
「まーだ言ってるの? あの店員さんも言ってたでしょ? 敢えて体型隠す事ないんだって」
イマイチ納得できなかったけど、まぁ可愛いかったし、良しとするか。
「お腹空いたね。 何食べる?」
「うーん。脂っこいものは避けたいなぁ」
「じゃあこないだオープンしたパンケーキの店行かない? 私行きたかったんだ。真奈実、甘いもの我慢してるでしょ? そこのお店は、人工甘味料とか使わないって言うから、食べても大丈夫だよ?」
「パンケーキかぁ。うん、行こう」
あんまり食べなきゃ大丈夫だよね?
と言う事で、パンケーキのお店へ向かった。
「昼時はやっぱり混んでるねー。あ、メニューあるよ? 私は何にしようかなぁ」
メニューを手に取り二人で悩む。
「私はクリームたっぷりにしようかなぁ」
「クリーム……。うー、捨てがたいなぁ。でも、このフルーツ盛りにする」
「クリーム美味しいよ?」
「でもいいの……」
少しでもカロリーの低いものにしなきゃ。
中に案内され席について、未羽ちゃんはクリームたっぷりのパンケーキと紅茶、私はフルーツ盛りのパンケーキとアイスティーを注文した。
「あー早く来ないかなぁ。お腹空いたよ」
「未羽ちゃんは食べてもすぐお腹空くよね?」
「そうだね。なんか物足りなくなるんだよねー」
「でも太らないよね……」
「あら。私だって見えない所、凄いわよ?」
「嘘だぁ!」
なんて、他愛ないお喋りをして、パンケーキを堪能した私達は、食後のアイスティーをゆっくり飲んでいた。
「それよりさ、あんたクリスマスのプレゼントはどうするの? 五十嵐にあげるんでしょ?」
「う、うん……。そのつもりなんだけど、何にしようか悩み中なんだ。五十嵐君の好みが分からないし……」
「そんな事言ってるなら本人に聞けば?」
「ダメダメ! 絶対聞けない! それに聞いたら、きっと要らないとか言われるもん……」
「まぁそうなりそうだよね。じゃあどうする?」
「五十嵐君の友達に聞いてみようかと……」
「へー。度胸あるじゃない。人見知りのあんたが」
「背に腹は変えられないよ」
「ふふ。頑張って!」
店を出た私達は暫く色んなお店を見て歩いた。
五十嵐君の好きそうな物はないかな。なんて思いながら。
私だって本当は友達に聞きたくない。絶対に揶揄われるし、教えてくれるか分からないもの。
でも、あげるなら少しでも好みの物がいいし。
私って諦め悪いなぁ……。
「ねえ! あそこのお店寄ってみない?」
未羽ちゃんが指差した方に目を向けると、メンズ服のお店だった。
「男の人のお店だね」
「無難にいった方がいいと思って。どうせ真奈実の事だから、五十嵐の友達と話せないでしょ?」
「うー。頑張ろうと思ってるよ?」
「どちらにせよ、色々見ておくのもいいでしょ」
そうして入ったお店には、やっぱり男の人の物ばかりが置いてあった。
「五十嵐君の好きそうな物…は、分からないから、手袋とかマフラー?」
「定番だよね? まぁあっても困らないけど」
「色は……。五十嵐君制服のインナー、オレンジとか着てる…」
「やだ、あんたそこまで見てるの?」
「ブレザー脱ぐとシャツが透けるの! ワザと見てる訳じゃないよ!」
「じゃあ、暖色系がいいかも。あ、これは? 赤って言うか焼き芋みたいな色してるし」
「手袋……。五十嵐君、手袋するかな?」
「マフラーは? こないだマフラーしてるの見たよ?」
「ウソ! 何色してた?」
「うーん? 茶色だったかなぁ? 忘れた……」
「色被ったらダメだよね……」
「じゃあ、手袋とかはやめて、キーケースは?」
「キーケース? 何で?」
「あいつも受験でしょ? 大学行ったら車とか、バイクとか、免許取るんじゃない?」
「そっか。キーケースか……」
「まだ使うのは先になりそうだけど、どうせなら先々必要になりそうな物がいいかと」
「そうだね。ありがとう!」
私は革のキーケースを購入した。
クリスマスは会えないから、その前に渡そう。
迷惑かも知れないけど、もう直ぐ自由登校になるし、卒業したら会えないかも知れないし……。
ため息を押し殺し、ラッピングされたプレゼントを大事にカバンにしまった。
「すっかり夕方だね〜。日が暮れるの速い」
「そうだね。帰ったら課題やらなきゃ……」
「頑張るね。私はゆっくりする」
「受験生だよ? やっぱり頑張らなきゃ」
今日は一日楽しかたな。五十嵐君のプレゼントも買えたし、思い切ってワンピースも買えた。
こんなに充実したのは久しぶりだ。
「じゃあ、私こっちだから。また明後日ね」
「うん。今日はありがとう。また明後日」
未羽ちゃんはバスで帰り、私は駅へ向かった。
「後で未羽ちゃんにLINEしよう」
なんて一人呟き駅へと足早に歩いていると、向こうから見慣れた集団が歩いて来たのが目に入った。
あっ!五十嵐君のグループだ!
何故だか咄嗟に角を隠れる様に曲がってしまった。
別に隠れる必要なんてなかったけど、何となく集団は苦手だ。
角を曲がり、電柱の後ろで過ぎ去るのを待つ事にした。
怪しい人みたい……。
なんて事を思っていると、直ぐそこまで五十嵐君達が来ていた。
「五十嵐、まーた告られたんだって? 何回目だよ。羨ましいねー」
「……うるさいな。五回目だよ」
「へー。五回も? よく諦めないねー」
「可愛い子ならまだしも、あいつだよ? 五十嵐大丈夫?」
「まぁ、興味無い。って言ってるだけだから、諦めると思ったんだけどね……」
「また言われるかもな。結構しぶとそうじゃん」
「吉井さんならオッケーなんだろ? あいつ、自分の事分かってるのかねー?」
「知らねーよ! もういいだろ? 休みまであいつの事思い出したくない」
「あー。分かった分かった。でも、なー」
五十嵐君達が通り過ぎても、その場から暫く動けなかった。
聞いてはいけない事を聞いてしまった?
やっぱり迷惑でしかなかったんだ……。
「身の程知らず」
そう言われた気がした。
今日買ったプレゼント、渡す事なんてできない。
絶対にできない。
楽しかた一日が真っ黒なペンキで塗られた様な気がした。
電車に揺られながら、五十嵐君の事を考えたけど、好きな気持ちは直ぐには消えてくれない。
好きでいるのも、ダメですか?
やっぱり興味、無いですか?
家に帰っても、自分の部屋に篭ったままで、何にもする気が無い。
未羽ちゃんへのLINEもしなかった。
親は仕事でいないから、ちょうどいい。
ぼんやりと考えた。私の気持ちを。
「好きって、苦しいなぁ。報われないって、悲しいなぁ……」
六回目の告白と、クリスマスのプレゼント。
五十嵐君の為に、やめた方がいいよね……。
机の奥にしまったプレゼント。私の気持ちも一緒にしまいこんだ。