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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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ローリーの事情

※ローリー視点

 オレはスープの残りが入った大鍋を持って、大商隊の護衛達が食事をしているところにやって来た。

 朝、オレを突き飛ばした護衛隊長がいる。

 隊長がオレに気がついたようだ。

「お、朝のボウズじゃねえか。ここにいるってことは、雇ってもらえたんだな」

 そう言って、周囲を見回す。

「あの兄ちゃん達だな。良かったな。あー、・・・その、・・・朝は突き飛ばして悪かったよ」

 荷の検閲で文句を言われたり、いろいろあってあの時は忙しかったんだよと言い訳をしている。

 まあ、謝ってくれたのだからきっとその通りなんだと思う。

 自分が悪くても絶対に謝らない大人が多い中で、とても好感が持てた。うん、許してやるよ。


「あの、これ山鳩のスープなんですけど、銀貨1枚でどうですか? 残りものなんでお安くしておきます」

 護衛達は火を起こして鍋をかけてはいるが、スープではなくただの湯で、何か飲み物を用意しているようだ。

 他の食べ物は干し肉とチーズとパンくらいのもので、オレは残り物のスープでも十分に銀貨1枚で売れると踏んだ。

「どれ、見せてみろ。銀貨1枚にしてはちょっと具が少ないようにも思うが、まあいいだろう。朝の詫びも込めて買ってやるよ」


「ありがとうございます、へへ」


「へえ、小さいなりして、なかなかやるじゃねえか」

 別の男が間に割り込んできた。

「隊長、俺にもそれ分けて下さいよ。一人分にしちゃあ多すぎる」

 そう言って勝手に自分でよそい始める。

「お前だけずるいぞ」

「隊長ー、俺も俺も」

「ちゃんとみんなで分けようぜ」

 とわらわら他の男達も寄ってきた。

「うっめー、コレまじでうっめー」

「あー、なんか久しぶりに旨いもの食った気がする」

「はあ?よく言うぜ。昨日は街だったんだから、食堂で食っただろ?」

「あそこのは俺の口に合わなかった!」

 と口々にしゃべりながら、食事をしている。


「あ、もし良かったらデザートに焼き菓子とかフルーツとかいかがですか? お酒もありますが、見張りの仕事がありますからね、お勧めできませんけど」

「お、いいねー。何があるの? 見せてよ」

 オレは呪文を唱えてそれらを取り出した。

「お、収納魔法が使えるんだな。スゲーじゃん」

「こんな小さいなりしてんのに、魔法使いはやっぱり魔法使いなんだな」

「「「すげー」」」


 ここの護衛の人達は、護衛料金を前払いで半金をもらっているせいで懐が温かく、喜んでたくさん買ってくれた。

 

 オレはずっと聞きたかった事を世間話をするように軽く尋ねた。

 この商隊に近付いたのは、物を売ってお金を稼ぐためではなく、実のところ他に目的があったのだ。

 もちろん、オレはカネが稼げるチャンスを逃すような馬鹿ではない。


「おじさん達ってイシュラムから来たって聞いたけど、アレってほんとなの?」

 子供の容姿を最大限に活かし、無邪気さを装って尋ねる。

「オレのかーさんが寝るときに”竜の国”っておとぎ話をしてくれたんだけどさー、これはおとぎ話じゃない、本当にあった話なんだよって。実は竜の国はイシュラムにあるんだよって内緒で教えてくれたんだ」


 思った通り、皆は一様にぎょっとして気まずそうな顔をした。


「あー、それか。それなー、イシュラムではその話はしちゃいけないって事になってるんだ。特に年寄りの人間は、その”竜の国”って言葉を言うだけで顔色を変えて怒り狂うからな。竜の王様を怒らせちゃならねえってんで」

 隊長が若干声のトーンを下げて教えてくれた。

 やっぱりいい人だった。いたいけな子供を無視することなど出来ない人だ。


「でもさ、そうすると年寄り連中はソレが”ある”って思ってるって事だよな」

 別の若い男が言う。


「うーん、でも俺さー、仕事でいろんな場所に行くけど、イシュラムにそんなところないぜ?」

 また、別の男が言う。


「お前馬鹿だなー、そりゃそうだよ。結界を張ってるんだもん。普通の人間に見つかるようにはしていないさ」


「でもなー、そんな国ほどの広さの場所を隠せるものなのかな」


 隊長が口を開いたことにより、皆、話しやすくなったのか、自分の考えを口々に言い合う。

 特に若い者たちは、ここがイシュラムじゃない場所だからか、今まで思っていても話す事が出来ない鬱憤がたまっていたからかは分からないが、するすると持論を語り始める。


 それまでずっと黙り込んでいた一人の若者が、徐に話し始めた。

「俺はシュヴァイツ侯爵領が怪しいと思ってる」


「おい! めったなことを言うもんじゃねえ!」

 隊長が慌てて止めに入る。


「隊長だって、不思議な場所だって言ってたじゃないか」

「え、どういうこと? 隊長も何か知ってんの?」

「何?何?」

「俺も聞きたい!」

「教えてくれよ。イシュラムでは絶対にしゃべんないからさ!」

「俺もしゃべらねえ! だから教えろ!」


 隊長を除く他の護衛達が口々に、その若い護衛に詰め寄る。

 隊長は渋面を作っているが、もうその若い護衛を止めることはしなかった。


「隊長と俺は東のオルレアンとの国境までの護衛の帰りに、気まぐれに森を探検して帰ろうって話になって、それほど深い森でもなかったから、安易に入ってしまったんだ。何てことない森だったはずなのに、探検をやめていざ出ようと思った時に出られなくなった。結局うろうろ2日間も彷徨う羽目に陥って、命からがらなんとか抜け出したと思ったら、どこにいたと思う? 俺達いつのまにかオルレアンにいたんだよ。森に入って方角を見失うことはありがちだけど、俺と隊長だぜ? そんなこと百も承知で、森に入ったんだ。でも、今考えるとあの森自体が妙な感じだったんだよな。俺も隊長もその時には生きて出られて良かったーって、もうその後は怖くて森に近づけなかったよ。でも、後になってやっぱり気になって隊長に聞いたら、あそこはシュヴァイツ侯爵領だって教えてくれて。なんかちょっといわくつきの方らしいし、もう口にすんじゃねえぞって隊長に言われたから、今まで話したことなかったけど」


 


 オレは確信した。

 そのシュヴァイツ侯爵領にソレはある!

 思わぬ程の収穫を得て、オレはゆっくりその場を後にした。





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