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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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愛の巣

※ローリー視点

 結婚式を済ませた日の夜、アルはわたしを背に乗せて山深いところへと飛んで行った。

 案内されたのは、渓谷の絶壁に掘られた横穴の洞窟。

 愛の巣、愛の巣ってアルが口癖のように言ってるのを、てっきり比喩だと思ってたけど、本当に()だったのね。

 洞窟の入口近くには、壁に大きな窪みが造ってあって、獣のような何かが氷漬けにされていた。

 中に入って行けとばかりに大きな竜の顔に押されて少し奥に進むと、洞窟は二股に分かれており、片方の小さな部屋にはバスタブが、そしてもう片方の広い部屋には馬鹿でかい鳥の巣のようなものと、ベッドがあった。

 バスルームと寝室って事かしら?

 たったそれだけのものだったけれど、そこはアルの魔力で満たされていて、暗くもないし、寒くもなくて居心地はそう悪くなかった。

 わたしが洞窟の中を見て回っている間、アルはというと、竜体のまま入口あたりでこちらをじっと窺いながらソワソワしている。

 もしかして、わたしがこの竜の巣を気に入るかどうか、心配してる?

 大きな図体で、所在なさげな様子が可愛すぎる。

「アル、素敵な巣だわ」

 わたしが黒竜に向かって言うと、黒竜はぴょこっと跳ねて、次の瞬間には人型になってわたしのすぐ側にやって来ていた。

「そうか、良かった! 気に入ったのだな! では、さっそく」

 さっそく? と思った時にはひょいと抱き上げられ、ベッドに運ばれて、覆いかぶさられていた。

「な、何?」

 ドレスを脱がせようとするアルの手を掴んだ。

「何って、交尾だ。巣を気に入ったということは、子作りしてもいいって事だろう?」

 え? そうなの? そういうものなの? 知らないよ!

「い、いきなり? ち、ちょっと待って」

「嫌だ。もう待たぬ。そなたが結婚するまでは駄目だと言うから、我は今まで、散々待ったのだ。結婚もした。巣も気に入った。もう待つ理由はない」

「で、でも、わたし、お風呂に入ってお化粧だって落としたいし、身体だって洗いたい。お願い! 綺麗にしてから、ね?」

 アルの下で手を合わせて必死に懇願したら、のしかかっていた身体を引いてくれた。

「・・・分かった。では、我は下で水浴びしてくる」

 よ、良かった! とりあえず、心の準備をする時間は確保できたみたい。


 アルが洞窟から出て行くのを見送って、ようやく人心地ついて、ほっとする。

 ベッドから下り、バスルームに行こうとして気付いた。

 脇に衣装箱のような物が置いてある。

 中を開けて見てみると、わたしの普段使っている諸々の私物が入っていた。

 きっとフェリシアさんが気を利かせてくれたに違いない。

 ものすごく嬉しい。

 恋人の、あ、今は夫か、夫にいきなり襲われかけて、気が動転してしまっている。

 自分の物を手に取れば少し落ち着いた。

 好きな(ひと)には少しでも綺麗に見られたい。

 特にこんな貧弱な身体で、過去に千人の、おそらくナイスバディな女性と関係を持ってきたような男を相手にする時には!



 これでよしっと。

 さっきはいきなりだったから動揺しちゃったけど、気合いも入れたし、やってやるわよー!!



「い、痛い!」

 いつかみたいに、舌を押さえながら、アルが文句を言った。

 話があると言ったにもかかわらず、また襲いかかって来たから雷魔法を発動した。

「酷いぞ!」

「だって、待ってって言ってるのに、アルが、がっつくから!」

「新婚の夫ががっついて何が悪いのだ! もったいぶるローリーが悪い! おあずけはもう沢山だと言っただろう!」

 ベッドの上に座り込んだアルは横を向いて、すっかり拗ねてしまった。

「もったいぶってるわけではないのだけど、えっと、ごめんね。痛かった?」

 ご機嫌はまだ直らない。ぷいと横を向いたままだ。


「でも、その、えっと、交尾の前に、したい事があるというか。わたしね、今から、あなたの魂とわたしの魂を結ぶ魔法をかけようと思ってるの。それで、あなたの意思を確認したい」


「魂を結ぶ?」

 やっとこっちを向いてくれた。

「そうよ。レノルドの偉大な魔法使いが不老不死の悪い魔女を死の道連れにするために創った魔法よ。どちらかががこの世から去る時、魂が括られているからもう一方は道連れにされる。ふふ、そうね、あの世でも結ばれたままかも」

 アルは驚いて目を見開いたまま、固まってしまった。

「わたしはそれで構わない」

 すると、アルの瞳から突然ぽろぽろと涙がこぼれ出した。

「我が一人残される事は、無い、と?」

「そうよ」

「ほ、ほんとうに?」

「ええ」

「ローリー、わ、我は、我は、嬉しい。こんなに嬉しい事はないっ。我は、怖かった。ずっと、ずっと。そなたを得てからは尚のこと、我は己が怖ろしかった。そなたに我を縛りつけてくれ」





 アルは優しかった。

 ずっと綺麗だ綺麗だって言ってくれたし、多分がっかりはしてなかったと思う。

 それに、コレを経験したら、身体が貧弱とかそんな事は、全く関係なかったって分かる。


『アル、何コレ。わたし達本当にひとつになってる』

『ああ、本当に。我もこのような経験は初めてゆえ、不思議だな。だが大層心地よい』

『うん。満たされてる。これで完璧になったってわたしが言ってるわ』

『ああ、その通りだ。また再び会うことが出来たな』

『ええ、わたし達は再び恋をして、また一つになる』

『ああ、その通りだ』






 アルはわたしの唯一無二の半身であり、愛しい夫でもある。

「アル、ルカをこちらに渡して」

「父上、お願い。母上に渡さないで。殺されちゃうよ」

「馬鹿ね、愛しい息子を殺すわけないじゃない。ちょっと締め上げるだけよ」

「い、いやだ! 父上助けて!」

「アル、聞いちゃ駄目! ルカはね、触らないでって言ってあったのに、わ、わたしの大切な研究資料を全部パアにしたのよ!」

「だから、謝ったじゃないか! 出しっぱなしにしておくからだよ」

「実験の途中だったのよ!」


「まあまあ、ほら、ダイアナがそなたを見て怯えておるぞ? ルカウスの事は我に免じて許してやってくれ」

 間に挟まっていたアルが仲裁に割って入って来た。


 愛しい夫でも、こういう時は少々小憎らしい。わたしじゃなくて、子供の味方についた。

 アルはイクメンだけど子供に甘過ぎる!

 

「甘やかさないで!」

「母上、あまり怒ると身体に障りますよ。仕置きは僕に任せて、母上は父上に慰めてもらって下さい。さあ、ダイアナ、こちらにおいで」

 長男のゼファーが三女のダイアナに腕を差し出し、ダイアナは名残惜しそうな素振りを見せながらも「キュキュ」と鳴いて、アルの肩からゼファーの方に移った。

「ルカ、行くぞ」



 二人と一匹がアルの執務室から出て行くのを見送ってから、アルに文句を言った。

「もう、子供に甘過ぎるわよ! しつけにならないじゃない!」

「そうか? 皆、そなたにうりふたつで可愛くてな。叱る気にならんのだ」

 アルに導かれるまま、膝の上に座り、アルの胸にもたれ掛かった。

「苦しくないか?」

「うん」

 わたしは今、七番目の子供を妊娠中。

 アルとわたしの魔力の相性は良く、ぽこぽこ子竜が産まれる。

 わたしが妊娠する度にぴりぴりナーバスになっていたアルでさえ、今ではもう慣れっこだ。

 頭を撫でて、優しくキスして、ゼファーの言った通りにわたしを慰めてくれている。

「うりふたつって、アルにでしょう?」

 ダイアナはまだ人型になれないから分からないけど、でも黒い鱗に金の瞳は上の五人と同じだから、多分人型になってもアルや他の五人と同じ、黒髪に黒い瞳の美形になるに違いない。

 

「いや、そなたにだ。聡明で皆、心優しい」

 心優しい性質はアルの方だと思うんだけどな。

「ルカはな、身重のそなたを手伝いたかっただけなのだ。失敗したようだがな」

「え? そうなの!? それならそうと言えばいいのに」

「ルカは特にプライドが高いゆえな、失敗したとは言いたく無かったのだろう。な? 誰かと同じだろう? ははは」


 ・・・・・・



 アルは明るく、よく笑うようになった。アルが笑うと嬉しい。

「ね、今度はどっちかな? どう思う?」

「さぁな? でもどっちにしてもそなた似の可愛い子竜が産まれる。我は幸せだ」

 アルはわたしの膨らんだお腹を優しく撫でながら言った。

「わたしも幸せよ」

 あなたとあなた(・・・)によく似た子供達に囲まれて、ね。

 


 


 


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