王子
※ローリー視点
えーっと、これは何?
アルに案内された部屋に入れば誰もおらず、ここではなかったのかしらと思って、キョロキョロ探していると奥に開いている扉を見つけた。
そうっと覗き込めばシュールな光景が目に飛び込んでくる。
そこは寝室でベッドの上には縺れ合う二人。
といっても、服は着てるし、何て言ったらいいのか、美女にのしかかっているのは小さな子供。
でも、キスしながら、その小さな手は何ともイヤラしく美女の胸元をまさぐっている。
わたしが呆気にとられて眺めていると、その美女、クリスティーネ様が気付いた。
エロを働いていた小さな子供、肌は白くぷっくり丸いほっぺを縁取るくるくるの金髪に碧い瞳、つまり容姿だけは天使の王子は、クリスティーネ様を退室させると向かいに腰掛けるようにと椅子を指差した。
「ああ、先ほどは失敬したね。人払いをして二人きりになったものだから、つい、ね」
・・・・・・
あっと、いけない。
「お初にお目にかかります。グロー」
「挨拶はよい。お前の事はよく知っている。で、アルベルトの番い、グローリアと言ったか、僕に何の用だ。手短に言え」
「ごほん、では、単刀直入に申し上げます。わたしを王宮の禁書庫に連れて行って貰いたいのです」
「へー、こいつは驚いた。禁書庫に手を出そうとするとはな。レノルドの偉大なる魔法使いシリウス=ノルドレッドの再来と噂されるだけの事はある。だが、頼む相手を間違えているのではないか? 私はまだ子供だよ? 王族とは言え、国の重要機密が保管されている場所に入れるわけがないだろう」
たった今王子が名前を出したシリウス=ノルドレッドは、レノルド国の最も偉大なる魔法使いであり、魔法使い物語のモデルとなった人物だ。
国民の誰もが敬うレノルドの救世主であり、全ての魔法使いが憧れる英雄、そして悲劇の主人公でもある。
「そうでしょうか。子供でありながら、古文書を含めた多くの書物を読破されておられるあなた様ならば、容易い事かと存じますが?」
王子はわたしの真意を見極めようと鋭い目を向ける。
「お前の父親は魔法学者だろう。何を調べようとしているのかは知らないが、父親に頼めば良かろう」
既に入れる場所は調べ尽くした。
「わたしが入りたい場所は、禁書庫でもあなた様でないと無理なところなのです」
「歴代王族の私物保管庫か」
「はい」
「ふーん。魔法使いのお前が興味を持つ王族と言えば一人しかいない、シリウス=ノルドレッドだろう。だがな、たとえ保管庫に入ったとしても彼の私物は見ることは出来ないぞ。箱に詰められていて開かないんだ。シリウスが死ぬ前に自分で封印したと謂われている。今までにも多くの魔法使いが封印を解こうと試みたらしいが未だに開けられてはいない。残念だったな、諦めろ」
偉大な魔法使いの遺したもの、魔法使いならば誰もが欲しいと思うだろう。
わたしが何故彼の再来かといわれる理由は一つ、新しい魔法を構築する事に長けているから。
偉大な彼は、多くの有用な魔法を後世に遺してくれた。
「では、わたしが開けます」
わたしは王子の協力を得るため、アルの事やこれまで調べて来た魔法について、かいつまんで話した。
「なるほどな。僕が死んだ後の大惨劇については聞いている。それに、魔法使い物語も読んだ事があるよ。随分昔の話だけどね」
「分かった。いいだろう。お前に協力してやる」
「あ、ありがとうございます! あの、本当に感謝致します!」
要求が要求だけに、承諾を得た事にホッと胸を撫で下ろした。
王子の懐柔に失敗するわけにはいかなかったから、自分でも知らないうちに極度の緊張状態に陥っていたみたい。
「協力の対価は新しい魔法製品を一つ開発し、その権利全部を僕に委譲する事だ」
だから、王子の対価の要求に対して、ぼけっとしてしまっていて反応が遅れた。
「おい、ちゃんと聞いてるか? あのな、昔の僕は確かにアルベルトの兄だった。だがな、今はレノルドの王子なんだ。国益を損なう可能性もあるのに、お前に協力するのだぞ?」
「はぁ」
「いいか、僕は力が欲しい。クリスに再会した時、二人で出奔する事を考えなかったわけではない。クリスと共に生きるという執念で僕は生まれ変わって来たのだからね。だけど、人間で生まれてみれば、今では父上も母上も乳母達も、そして僕の誕生を喜んでくれた国民も僕には大切になっていた。責任を放棄する事はもう出来ない。国を守るためにもクリスを守るためにも、僕は絶対的な力が欲しい。皆、幸せにしてやりたいんだ。分かったか?」
見た目天使の王子が懸命に心情を語る様子はなんとも愛らしく、そしてその内容は頼もしいものだった。
わたしだって、愛国心は持っている。
ただ、今はその対象がレノルドから竜王国に変わってしまっただけ。
でも、もちろん、今まで慈しんでくれたレノルドの国に対して感謝はしている。
「分かりました」
国の利益になるような良いものを作って差し上げようと決心した。
「ああ、そうだ! もう一つ頼みがある」
「はい! 何でしょうか?」
とんでもないエロ子供だと最初は思ったけど、王子は国の事を真面目に考えている素晴らしい方だった。
王子のためならば、何でもしようという気持ちで返事を返す。
レノルドの現王も素晴らしい方だけど、後継者の王子も立派な為政者になりそう。
「僕に変化の魔法を教えてくれ。まさか、魔法の教師に尋ねるわけにもいかなくてな、ちょうど良かったよ。竜族は本能で魔法を操る事が出来るけど、その点人間は面倒で困るな」
「変化? ですか?」
「そうだ。変化もな、ただ大きくなるだけでいいんだ。それなら簡単だろう? ああ、ごまかしだけの、幻影魔法は駄目だぞ? この小さい身体ではクリスと愛を交わすにも都合が悪くてな、不満だったんだ」
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エロ王子め!




