お持ち帰り公爵2
※ディーン視点
ばれた。ばれた。ばれた。
やばい。やばい。どうしよう。
一体、そのフォンテーヌとかいう女は、リアに何を、どこまで、吹き込んだんだ?
リアはどこまで知っているんだ?
「はあ? なんだそれは。お持ち帰り? どういう意味なのだ?」
「お持ち帰りっていうのはね、その、つまり、舞踏会や夜会の後、部屋に誘うって意味らしいわ。それで、お持ち帰り公爵っていうのは、あなたに誘われたいご婦人が列を成しているという意味で呼ばれている名だそうよ。わたしは知らなかったけど、有名らしいわ」
「知らん。我は知らん。確かに誘われる事が無いとは言わん。だが、我にはそなたがおるのに、他の女を誘うはずがない。そうであろう?」
竜王様の言葉にリアは顔を苦しげに歪め、こぼれそうになる涙を堪えて、絞り出すように言葉を続けた。
「なんでもね、一夜を共に過ごすと、若返ったり美しくなったりするんですって。女性達の間では昔から伝わる憧れの伝説らしいわ。それがね、最近、頻繁に出現しているらしいの。シュヴァイツ公爵と一夜を過ごして美しくなった方が」
まずいまずいまずいまずい!
「し、知らん! 我ではない! 断じて我ではないぞ!」
「なら聞くけど、先月、ゼフィラス国に行ったわよね? アルメダ様という名前に聞き覚えはある?」
アルメダ!! あのくそ女か! 絶対に誰にも言わないって約束したのに!
「ゼフィラスには行ったが、アルメダなど聞いたこともない! 知らぬ!」
「その方がフォンテーヌ様とご友人らしいの。フォンテーヌ様はアルメダ様の話を聞いて、それであなたの部屋にやって来たと言ったわ! これでも、まだシラを切るつもり?!」
「知らぬものは知らぬ! ローリー、本当だ。信じてくれ」
「酷い! わたしが子供だからって! 社交界デビューだって、しないで欲しいって言ったのは、わたしを見初めて求婚する男性が増えるからじゃなくて、本当はこの話をわたしの耳に入れたくなかったからなんでしょ!」
リアは、とうとう、うわぁーんとテーブルに突っ伏して泣き出してしまった。
「違う! そうじゃない!」
「嘘つき! 愛しているのはわたしだけだって言ったのに」
「嘘じゃない! 愛しておるのはそなただけだ!」
ああ、まずいまずい。
竜王様の名前を出すと、どんな女でも百発百中なもんだから、つい出来心で乱用してしまったのが間違いだった。
あれほど、口止めしたのに、女という奴は!!
仕方がない。
俺は、リアの前まで行き、床に土下座した。
「リア、済まん! 済まない! 申し訳ない! それは俺なんだ。竜王様じゃない。視察で竜王国を離れた時なんかに、俺が勝手にシュヴァイツ公爵を名乗って、その、女を引っかけてたんだ。”お持ち帰り公爵”と呼ばれるようになったのは俺のせいなんだ」
「そうなの? じゃあ、アルはこの件に関しては無関係って事?」
「そうなんだ。本当に俺が全部悪い。竜王様は関係ない。竜王様はここ50年くらい、竜王国から出ないでずっと洞窟に引きこもっていたんだから、出来るはずがない」
今度は竜王様の方を向いて、深々と頭を下げた。
「竜王様、本当に本当に申し訳ございませんでした。お叱りは存分に受ける所存です」
「伝説もあなたなの?」
「ああ、そうだ。ハーフとはいえ竜族だろ? 俺のアレは生命力の源だからな。人間の女には垂涎ものらしい。すこぶるモテるんだ」
「ふーん、おかしいわね。わたしが聞いた話では、シュヴァイツ公爵の伝説は何代にも亘っているそうよ。ということは、お持ち帰りの前任者が居たって事よね?」
「・・・・・・」
頭のいい女はこれだから嫌いだ。
ここで収めて欲しかった! 俺の身の安全のためにも!!
「アル?」
「・・・・・・」
「アル? 聞こえてる?」
「・・・・・・」
「アル!」
「あ、ああ、年のせいか耳が遠くて・・・」
「アルがお持ち帰りの前任者だったのかって聞いてるのだけど」
「・・・・・・」
ああ、やばい。俺のせいで、芋蔓式に竜王様まで。
「しようがないわね・・・」
「・・・・・・」
ああ、頑張って下さい、竜王様!!
相手が根負けするまで、黙秘でねばって下さい!!
「アル、怒らないから」
「・・・・・・」
「本当の事を話してくれたら、許してあげようと、」
「ほ、ほんとうか?! 本当に話したら許してくれるか? 嘘は駄目だぞ? 絶対だぞ?」
ああ、竜王様、駄目です! 女の許してあげるなんて嘘ですよ!
嘘に決まってます! 餌に決まってます!
竜王様にアイコンタクトを必死に送るが、リアのご機嫌をとることに一生懸命で、全然気付いて貰えなかった。
「ふーん。つまり、番いが欲しかったアルは、そういう事をすれば情がわいて、番いが見つかるかなーと思ったって事?」
「そうなのだ。そうなのだ。イヤラシイ目的だけではなくてだな、正当な理由があってのことなのだ。分かってくれたか? それにこれは昔の話だぞ? 昔も昔、大昔の、我がもっと若い頃の話だ。ローリーはまだ生まれてもいないのだから、見付かるはずなどなかったのだな、ははは」
「・・・・・・」
「ローリー? か、顔が怖いぞ? それにな、愛のない交わりなど何の意味もない、虚しいだけですぐに飽きてしまった。我にとっては、愛するそなたとの口づけ一つの方がどんなに素晴らしいものか」
何とかご機嫌をとろうと、竜王様はリアの手を取り口づけて、愛の言葉を紡いでいく。
「本当? 愛はなかったのね? わたしだけ?」
リアも竜王様の愛の言葉に絆されて、まんざらでもなさそう。
「そうだとも! 比べるまでもない。数多の女と交わったが、我に悦びを与えられるのはそなただけだ。愛しい唯一無二の番いなのだ。だからな、嫉妬などせずとも良いのだぞ? な? 機嫌を直してくれ、な?」
「あまた・・・」
「え?」
「数多って? 数多ってどのくらい?」
「さあ? 覚えておらん」
「覚えてないの!?」
「え? ローリー、怒ってるのか? 本当の事を言ったら許してくれるのだろう? ちょっと待てよ、今思い出す! えっとえっと、千人くらいかな?」
「いや、嘘だ! 嘘だ! 五百人くらいだったかも!」
きっと人間の許容範囲ではなかったのだな。
リアは、節操無し!エロじじい!と叫んで出て行ってしまった。
「なあ、ディーンよ、ローリーは許してくれたと思うか? 我には怒って出て行ってしまったように見えたのだが」
この事がばれたら、俺は間違いなく宰相様に殺される。




