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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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二人の長い夜2

 ローリーを抱き上げるのは止めて、寝室の扉を開けてやり、ベッドに入るように言葉で促した。


「アル、そのままで寝るの?」

 我がその隣にそろりと入ろうとすると、ローリーが指摘する。

「ああ、いつものやつは洗濯中でな」

「でも、それじゃあゴワゴワしない? 脱いでもいいよ?」

 ローリーの言葉に、ドキリとする。

 我のベッドに薄布で横たわったまま手をついて半身を起こし、ローリーは大きな翠の瞳で我を見詰める。

 その姿に、ローリーの真意は知っているはずなのに、期待が鎌首をもたげる。


 ・・・・・・


 スーハースーハー、深呼吸深呼吸。平常心平常心。


 断じて誘われているわけではないと己に言い聞かせる。

 おそらくローリーは親切のつもりで言ったのだろうが、大抵の男はそうは受け取らない。

 このような場所で言われたら、誘われたと思うだろう。

 ローリーには本当に教育が必要だ。全く。切実に。

 

「いや、このままでよい」


 むしろこのままでないとマズイ。

 洗濯中など嘘だ。

 念のため、わざと一番生地が厚くて固いズボンを穿いておいた。うん、正解だった。

 ローリーに気付かれぬように、がっちりとガードしておかねばならん。

 我にその気はなくとも、勝手にその気になるモノがおるからな。



 ベッドに横になるとローリーがもぞもぞ動いてすり寄って来た。

「二人で寝るとすごくあったかいね」

 我の腕を抱き寄せ、手を握ったり、肩のあたりの匂いを嗅いだり、頭を擦りつけたり、ああ、頼むから脚を絡めるのはやめてくれ。


 スーハースーハー、深呼吸深呼吸。平常心平常心。

 そうだ。頭の中で難しい計算をすると良いと聞いたことがある。やってみよう。


 するとローリーが、今度はしがみ付いていた腕を持ち上げ、その下に潜り込み、我の腕を枕にして、胸に顔を埋めた。

「こうしてるとすごく幸せ。安心する」

 そう言ってぎゅっと抱き付き、より一層体を密着させる。


「・・・そうか、我も幸せだ」

 我はそなたを組み敷いてしまいそうで、不安ではあるがな。 


 我が眉をひそめて計算している顔を怒っていると思ったのか、ローリーが不安げに謝ってきた。

「アル、怒ってる? 今夜は我が儘を言って、困らせてごめんなさい」 

「いや、怒っておるわけではない。それに良いのだぞ。番いとは元来そういうものなのだ」

 体は動かさず、腕枕をしている方の手だけを曲げ、安心させるように頭を撫でてやる。

 そう、怒ってはいない、己の制御に難儀しているだけで、我はいつだって共にありたいのだから。

「我は、ローリーが離れがたいと思ってくれた事を、とても嬉しく思う」

 

 ローリーはその後、とりとめもない話を心あらずの状態で延々と繰り返した。

 もう寝ようと言っても、神経が高ぶっているせいか、全くやめる気配がない。

 しかし、よくよく注意をして聞いてみると話の端々に、ローリーの心が見え隠れしていた。

 どうやら我に関して気にかかっている事があるらしい。


「ローリー、気にかかる事があるなら、黙っていないで言った方が良い。でないとまた、魔力が暴れるぞ?」


 ローリーはしばらく黙ったままであったが、大きくため息をついた後、ぽつりぽつりと自身の心情を吐露し始めた。

「ねぇ、アル、嫉妬って苦しいね」

「ん? ああ、そうだな」

「クリスティーネさんがアルの恋人じゃなくて、本当に良かった」


「あのね、わたし、アルに酷い焼きもちやきだって言ったけど、わたしの方がもっと酷い。だってね、だってわたし、」


 再び黙り込んでしまったローリーを促すと、より一層胸に顔を潜り込ませてしまう。


「言ったら、きっと呆れると思うもん。嫌いになるかも。だって自分でも、こんな嫉妬深い女なんて、嫌いだもん。でも、自分でも、おかしいって思うのに、止まらないの」


「ローリー、安心せよ、何を言っても我がローリーを嫌いになる事はない。それに我とて、嫉妬深さでは誰にも負けぬぞ? お互い様だ。そうは思わぬか?」


 しばらくの逡巡の後、ローリーは覚悟を決めたように埋めていた顔を出し、我のシャツを握りしめて絞り出すように言葉を発した。


「あのね、クリスティーネさんは恋人じゃなかったけど、・・・その、他に恋人がいたのかなって。ほら、アルは、宰相様に言われて無理やり花嫁探しの旅に出たわけでしょう? 番いじゃないと子供が生まれないから。だから、仕方なく別れた恋人とか、あー、やっぱり言わなくていい! 聞きたくない! 怖い!」


 そう言ってローリーは両手で耳を塞ぎ、我に背を向け丸くなってしまった。

 どういうことだ? 我の過去の女たちに嫉妬しているという事か?

 なるほど。

 竜族は嫉妬深いが、互いに長い歴史を持つ故か、男女共に過去について言及することはない。

 一途である印象が強い竜族も、番いが見付かるまでは実のところ禁欲的というわけではなく、自由恋愛を愉しむ者も多いからだ。

 寿命が長い竜族は、急いで子孫を残す必要もない。

 

「安心してよいぞ。我にそのような恋人はいない。過去においても、な」

「ほ、ほんとう? アルがすごく愛した人はいないの? アルと愛し合った人はいないって事? 本当なら、すごく嬉しい! わたしだけ? ねぇ、アルが愛してるのはわたしだけ? 今まで生きてきて、わたしだけなの?」

「ああ、そうだ」

「アルが好きなのはわたしだけ。嬉しい! 嬉しい! わたしだけ! わたしだけ!」

 ローリーの喜びようは凄まじかった。

 ベッドの上で飛び跳ねようとするのを止めると、寝たままごろごろ左右に転がって、奇声を発して喜んでいる。

 と、今度はがばりと起き上ったかと思うと、我に覆いかぶさるように抱き付いた。

「アル、大好き! わたしもアルだけだよ。アルが好き! アルだけを愛してる」

 おっと、勢いよく飛びついて来たために、うっかりその体を抱きとめてしまった。

 薄布を通して、華奢な肩や細い腰、やわらかな肌の感触が直に手のひらに伝わる。

 おまけにローリーは興奮して気付いていないが、脚が剥きだしで、素肌がまる見えだ。

「アル、大好きよ」

 ローリーが、真上から我を見詰め、唇に、鼻の頭に、顎に、頬に、愛情たっぷりの口づけをくれる。 

「アルが他の女の人にも愛を囁いたり、口づけたりしていたと思うと辛かった。アルを誰にも奪われたくない。過去であっても」

 我は堪え切れず、蕩けるほどの甘い言葉を囁いてくれるローリーの柔らかな体を、しっかり抱き締めた。

「そなただけを愛してる」

「わたしも、あなただけ」

 甘い空気が見詰め合う我らの間に流れる。


 い、いっちゃう? 駄目かな?

 草の汁も大丈夫だし、ドレスもつるりと剥けるけど。


 こうかなあーかなと段取りを組み立ていると、ローリーが突如よいしょと我の上から退いて行く。

 ? 何をするのだろうと眺めていたら、手早くめくれ上がったドレスの裾を整え、枕を整え、我の隣に行儀良く横たわった。

 え?

 そして、呆然としている我の手を手繰り寄せ、恋人繋ぎにする。

「今まで何かが胸に詰まったみたいですごく苦しかったけど、すっかり治ったみたい。明日は元気に学校に行けそうよ。アル、ありがとう」

 昨日は全然眠れなかったから、すごく眠い、おやすみなさいと言ってあっという間に寝息をたて始めた。


 ・・・・・・

 

 ローリーよ、ゆっくりではなく、やっぱり早く大人になってくれ。






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