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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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二人の関係3

「いやっ! わたしに触らないでっ!」


 え? 


「ローリー?」


「あっ、ご、ごめんなさい」


 朝の挨拶をしようとローリーに近付き、いつものように頭を撫でようとしたら、ローリーにその手を振り払われてしまった。

 な、なんで? 我は拒絶されたショックに、しばらく身動きする事もままならなかった。

 だが、ローリーの方も無意識にしてしまった自分の行動に、おののいているように見える。

 明らかに様子がおかしいローリーを見て、もしかして体の具合でも悪いのかも知れぬと気を取り直した。

 今朝は我の部屋に迎えにも来なかったしな。


「どうしたのだ? どこか具合でも悪いのか?」


 歯を食いしばり、顔色はますます青ざめて、自身の体を両手で抱きしめるようにして震えるローリーが心配になって、頬に手を伸ばす。

 ところが、指先が頬に触れる前にその指先が凍りついた。

 え? 驚き手を引っ込めると同時にローリーが、うっと呻いて、床にうずくまってしまう。

「ローリー!」

「うっ、ぐっ、・・・我慢出来ない! ああ、魔力が! 魔力が溢れ出てしまうっ」

 ローリーが叫ぶと同時に、ローリーを中心に床が、同心円状にピシピシという音を立て急速に凍り、どんどん広がって行く。

 あっという間に食堂の壁も天井も氷に覆われ、そこに居た人間も床から足へとはい上がってきた氷に、床に縫い付けられ動けなくなってしまった。


「あうっっつ、だ、だめ! うっく、耐えられない!」

 ローリーは尚一層体を丸め、暴れる魔力を封じ込めようともがいている。


「ローリー! 落ち着け! 魔力が暴走しておるのだ。大丈夫だ、心配はいらぬ」

 安心させるように、ローリーに声を掛けた。

 感情の高ぶりに合わせるように、ローリーの魔力に親和性の高い氷魔法が発動している。

 冷静なローリーが魔力を暴走させるなど、一体何が起こったというのか。


「大丈夫だ、我がすぐに助けてやるからな」

 ローリーの元へ行くために、うんしょうんしょと氷に縫い付けられた足を力任せに動かす。

 ミシミシという音と共に氷が割れた。

 これでよしと、ローリーを見ると辛そうで、今にも泣き出しそうな目を我に向けていた。


「い、いやっ! ああ、駄目! いやあああああああああああ!」


 ローリーの悲鳴と共に、ビシビシッという轟音と更に分厚い氷が床を這う。

 そして、食堂の外側からも悲鳴が上がった。


 そして我の目の前にだけ、進入を阻むように床からとげとげの巨大な氷のつららが生えていた。

 しかも何となく尖った先は、こちらを向いているように感じる。

 間を阻むそれに、ローリーの我への拒絶の意志を感じた。

 

 

「無事な者はすぐに離宮より退避せよ。これより離宮に結界を張る。すでに氷に巻き込まれた者は必ず助けるゆえ、じっとしておれ」

 茫然自失となっている我の耳に、宰相エルランドの落ち着いた声が聞こえてくる。


「ああ、また妃殿下に氷柱にされてしまったな、ディーン。ははは」

 フランミルドからは世間話をするかのように、ディーンに話しかけるのんびりとした声。


「ああ、リア、可哀相に。もういいの。我慢するのはおやめなさい」

「そうです。グローリア様、我慢する必要はありません。どんどんおやりなさい」

 フェリシアとエルランドは訳の分からない事をローリーに言っている。


 一体何なのだ!

 慌てふためいているのは我だけか?

 皆はこの状況が予測されてでもいたかのように、驚きもうろたえもしていない。

 我だけが、何が起こっているのかさっぱり分からない。

 ただ、ローリーに拒絶されたという現実に打ちのめされ、立ち尽くすのみ。


「一体何の話をしておるのだ? どういう事なのだ? お前達は何か知っておるのか?」


 ローリーはうずくまって、ただ泣いていた。

 可哀想で、抱きしめて慰めてやりたいと思う。

 だが、その原因が我だというのか?


「ローリー、済まぬ。我がまた何か失敗したのだろう?」


「ちがうっ、うっく、わたし、わたしが悪いの。わたしがちゃんとできなかったのっ。我慢できると思った。なのに、ごめんなさい。でも、わたし、わたし、うああーん」

 ローリーの悲しげな泣き声が、胸をつく。

「ローリー・・・泣くな、泣かないでくれ。我が悪かった。そなたが我の事で我慢する事など何もない。知らず知らず、我がそなたに何かを強いたのだな? そうなのだろう? 済まなかった。許してくれ、ローリー」


 我が許しを乞い、それを聞いたローリーが違う違うと首を振って更に泣く、という事を何度か繰り返した頃、フェリシアがため息をついて言った。


「竜王様が、リアを、番いを蔑ろにしたからですわ」

「母さま! やめて!」

「いいえ、リア。こういう事ははっきりさせた方が良いのよ」

「蔑ろだと? 我がいつローリーを蔑ろにしたと言うのだ!」

「昨日ですわ! クリスティーネ様がお見えになられてから、ずっとですわ!」

 !!

 フェリシアの我を鋭く責める声音に驚いた。

 どういうことだ? 

 クリスティーネが来たからとローリーを蔑ろになどした覚えはない。

 ただ、時間がなかったから、クリスティーネにかかりっきりになってしまった事は認める。

 だが、

「クリスティーネにかかりきりだった事は認めるが、ローリーを蔑ろにした覚えはないぞ」

「そうでしょうか。クリスティーネ様に会えてよっぽど嬉しいのでしょうけど、浮かれ過ぎて、リアの気持ちを慮る事も出来ないようですわね」

「何の事だ。はっきり言え!」

「なら、言いますけど、番いの前であの態度は何なんですの? クリスティーネ様にベタベタと付き纏って世話を焼いたり、嬉しそうにドレス選びに参加したり。おまけに10倍も20倍もするような高価なドレスをクリスティーネ様には2着も買って、リアには何も買ってくださらなかった。あげくの果てには番いの前で他の女性を褒めるとか、あり得ませんわ。リアが何も言わないからって、酷過ぎます!」


「いや、2着買ったのは替えがいるだろうと思ったからだ。高価過ぎるとは思ったが、たまの事だ、まぁ良いだろうと。他意はない。それに、ローリーにも、もちろん買ってやるつもりだった。だが、ローリーが要らぬと言ったのだ。お前だってその場に居たではないか」


「リアに要らないと言わせたのは竜王様です。あのような、ついでに買ってやるみたいな口ぶりで言われて誰が欲しいものですか! 私だって要りませんわ。それに、私は特別な(・・・)ドレスだと申し上げたはずです。リアは、リアは、お誕生会で竜王様に求婚されるかも知れないからと、竜王様に釣り合うように上品でエレガントな上質のドレスを選びたいと言って、普段利用しない高級店を選んだのです。リアなりに竜王様に求婚されるのを楽しみにしていたのですわ。なのに、竜王様はその気持ちを踏みにじったのです」





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