月夜のデート2
※ローリー視点
風もなく静かな青白い幻想的な美しい空の飛行をしばらく楽しんだ後、アルは競技会の後に来た街が見下ろせる丘の上に降り立った。
わたしはさっと転移魔法で、アルの前に移動した。
「アル、そのままでいて。竜体のアルをもっとよく見たいの」
初めて見たアルの竜体は、月の光を浴びて黒色というよりは黒鉄色に光って見えた。
体躯は大きく瞳は黄金に輝いていて、ディーンの言う通り、竜王様に相応しい立派な姿だった。
今まで人型しか見た事が無かったから、本当に竜なのだと不思議な感じがする。
『我の姿は、恐ろしくはないか?』
アルが不安そうに問う。
でも、わたしには竜の姿をしていても、アルはアルにしか見えなかった。
それに、竜体は想像してたより大きいけど、恐ろしいというより鱗が艶やかに光ってとても美しい。
「大きくてすごくカッコイイ! それにとっても綺麗だと思う」
わたしが率直に感想を言うと、大きな黒竜が照れた。
竜体でもアルはアルらしくて、カッコイイのにすごく可愛い。
競技会の日、わたしの気持ちを尊重するあまり、干物みたいになって死にそうになるまで痩せ我慢していたアルを見て、愛しく思う気持ちがわたしの中に生まれた。
『そ、そうか! ローリーは我の竜体が好きか! 分かったぞ!』
アルが喜んでわたしの顔を大きな舌でペロリと舐めると、その衝撃で後ろに尻餅をついてしまう。
そして、何を考えているのか、さらにペロリと舐めてわたしをごろごろ転がし始めた。
「きゃー、ち、ちょっとやめて! きゃー、アル、やめてってば!」
やめてと叫んでも、わたしが喜んでいると多分勘違いをしているのだろうアルは、一向に止めてくれないので、わたしは最近使えるようになった雷魔法をバチッとアルの舌にお見舞いした。
「ギギェッ」
『い、痛い』
舌を小さな手で押さえながら痛がる竜の、アルの姿はおかしくて可愛い過ぎる。
思わず噴き出してしまった。
わたしがおなかを抱えて笑っていると、人型に戻ったアルがやって来て文句を言った。
「酷いではないか。遊んでやってたのに」
「酷いのはどっちよ! わたし、夜露に濡れてびしょびしょよ? 草まみれだし」
「え?」
「え? じゃないわよ。ほら」
びしょびしょになったガウンを見せた。
「ああ、済まぬ! そなたが竜体を褒めてくれたものだから、てっきり遊んで欲しいのかと思ったのだ。子竜達は竜体の我に転がされるのが好きでな、ローリーもきっと気に入るだろうと思ったのだが。本当に済まぬ事をした」
風魔法で服を乾かしながら、また、失敗してしまったとしょぼんと項垂れるアルを見る。
なんだか一回り小さくなったおじいちゃんっぽくて、これまた、すごく可愛い。
しょぼくれているアルを誘って、岩の上に二人並んで腰かける。
見下ろした街はあまりに静かで、別世界に二人っきりでいるような気がしてくる。
ちらりとこちらを見て、アルが拗ねるように呟いた。
「我ばかりが、恋をする」
「え?」
「何度も何度も恋をさせられる。魔法を操るそなたは、凛々しく優雅で美しかった。競技会では、我ばかりではなく、他の雄も魅了してしまった。ローリーは聡くて、優しくて、愛らしいから、皆好きになる。今だって、月の光から生まれたみたいに、すごく綺麗だ」
切なそうな眼差しにドキリとする。
「我もローリーに恋されたいのに。我は失敗ばかりする」
アルの独白を聞いて、わたしがどうしてあそこまで意固地になって憤っていたのか、分かった。
アルに惹かれながらも、いえ惹かれていたからこそ、それを認めたくかったのは、番いという名のわたしではなく、グローリア=ハイネケンという名のわたし自身を見て欲しかったから。
番いと呼ばれ、番いという膜に覆われたわたしは、どんなに甘い愛の言葉を囁かれても、中身のグローリア自身が蔑ろにされているようで、心に響かなかった。
でも今の愚痴のような告白は、アルがグローリアに恋をしてくれてるみたいで、なんだかすごく嬉しい。
だからわたしもアルの気持ちに応えたくて、恥ずかしいけど、素直な気持ちを一生懸命伝えることにする。
「そんな事ない! 竜の姿のアルは大きくてかっこ良くて、すごく素敵だし、人型のアルだって、じじ萌えっていうのかしら、可愛くて大好きよ! わたしアルに恋してると思う」
アルに恋してるって言うのは、すごく恥ずかしくて、最後の方は小さな声になってしまったけど、ちゃんと聞こえたよね?
恥ずかしくて俯けた顔を少し上向け、アルを窺い見ると、なんか微妙な顔をしてる。
アレ? もっと喜ぶと思ったのに。
おかしいな。聞こえてなかったのかな?
「もしかして、聞こえなかった? わたし、アルに恋してるって言ったよ?」
「いや、聞こえた。聞こえたが、今までぬか喜びばかりさせられておるゆえ、その、そなたは信用が・・・」
「え?」
「いや、何でもない! 嬉しい。本当ならもっと嬉しい」
「? 本当よ? 嘘じゃないわ」
「そうだな」
アルはわたしの言葉を肯定しながらも苦笑いで、わたしの頭を宥めるようにぽんぽんとした。
アルに比べればそりゃあ子供だけど、子供扱いされたようでちょっと悔しい。
ふくれて見せれば、アルは困ったような顔をして、少し逡巡した後、じゃあ、口づけしてもよいかと聞いた。
?
キスなんて、魔力交換する時にいっぱいしてるのに、どうして今わざわざ聞くかな?
「人間は愛情を伝えるために口づけをするのだろう?」
「あ、う、うん。そうだね」
あ、そうか。アルは魔力の交換じゃなくて、わたしに愛情を伝えたいって言ってるんだ。
そう気付けば、自分の顔がぼっと真っ赤になったのが分かる。
なんだか急に恥ずかしくなってきちゃった。
わたしは返事の代りに、俯けた顔を上げて、そっと目を瞑った。
アルの手がわたしの頬を撫で、顎に移り、ゆっくりと唇が重ねられると優しく優しく唇をついばむ。
ところが、うっとりし始めたところで、アルの唇が離れてしまった。
魔力の交換は無いにしても、いつものように唇を割って舌が侵入してくることも無く、唇を舐められたり、舌を絡められたりすることも無く、あっけなく終了した。
え?
もしかして、もう終わり?
あの、量的にあんまり愛情が伝わってないんですけど!?
・・・・・・
なんていうか、・・・物足りないっていうか、不満足?
もちろん、アルの愛情を感じなかったわけではないよ?
でも、はっきり言っていつもの方がもっと愛情を感じる!
だから、いつもみたいにして欲しいけど、もっとしてっていうのは、淑女としてどうだろう、やっぱりはしたない気がする。
・・・・・・
・・・・・・
「アル? 舌はもう痛くない? 傷になってるかもしれないから、ちょっと見せて? ああ、やっぱり少し傷になってるみたい。わたしの責任だから、舐めて治してあげる。そのままじっとしててね」
その後は、もちろんアルに愛情いっぱいのキスをしてもらうことに成功した。




