座敷わらし?
※ローリー視点
「あ、座敷わらし!」
ティムの声にみんなが反応して、指を差した方向を一斉に振り向くも姿はすでに消えていた。
「くそっ、残念!」
「あーん、見れなかったー」
「僕、ちらっと見れたかも! ティムくらいの男の子だった!」
「私も見たわ! 顔は分からなかったけど、頭は黒かったと思う!」
クラスメイト達は口ぐちにしゃべり出し、見えた見えなかったと大騒ぎである。
今、このクラスでは座敷わらしを見つける事がブームになっている。
どうやら、この座敷わらし、このクラスを気に入ったようでしばしば出没するらしい。
らしいというのは、残念ながらわたしは一度もお目にかかれないでいるから。
「そうかやっぱり居たんだ! 俺、なんとなく気配を感じてたんだよなー」
ロイが言うと、レーナがロイの首を絞めて揺さぶった。
「もう、だったら教えてよ!」
「ぐぇ、や、やめ、て、だって、騒いだらせっかく来てくれたのに、逃げちゃうだろ!」
「えー、だけど私も見たいよぉ」
ロイもレーナと同じ17歳で、二人は仲良しで、いつもこうやってじゃれ合って遊んでいる。
発端は、クラスメイトの女の子のひとりが、上級生にからまれていた時に、突然つむじ風が吹いて小さな男の子が腕を引っ張って助けてくれたという話をクラスでした事だった。
すると、その子供なら見かけた事があると、実は私も、僕も、と似たような話が続出し、その子供が噂の座敷わらしではないかという話になった。
わたし達新入生は特別に、中等科や高等科の授業も、先生の許可が出れば受ける事が出来る。
わたしもそうだが、志の高いクラスメイト達は当然高等魔法を習う機会を逃すはずもなく、みんな各々の希望の授業を選択し受けている。
初等科のしかも平民が自分達と同じ授業を受ける事を、当然快く思う上級生はいない。
上級生のクズ貴族子弟は、才能も努力も皆無のくせに高いプライドだけは持ち合わせていて、優秀な新入生を妬っかみ、陰湿な虐めや嫌がらせをしてくるのだ。
ハイネケン伯爵家令嬢のわたしに、内心ではどう思おうと、表立って手を出してくる馬鹿はいない。
まあ、実技演習の時に、失敗したように見せかけて攻撃してくるくらい。
でも、七年間実践で鍛えたわたしに、クズ貴族のへなちょこ魔法が通用するはずもなく、返り討ちにしてやるけどね。
二度とそんな気を起こさないように、完膚無きまでに。
だから、わたしが居れば助けてあげられるのだけれど、そうそうみんなと同じ行動が取れるはずもなくて、どうすれば良いのか対策には頭を悩ませている。
ただ、悪口を言われたり、無視されたりするくらいなら良いけど、制服を裂かれたり、暴行まがいの行為など実害があり過ぎて看過出来ないのだ。
お母様も対策はとってくれているものの、相手も巧妙で、そして貴族と平民という身分もあってなかなか現状を打開出来ないでいる。
「ディーンは見れた?」
「え? あ、いや」
座敷わらしがクラスに居る時は、大抵ティムが見つけてみんなに教えてくれる。
わたしも見つけようとして、本当は魔法は授業以外では使ってはいけないことになっているけれど、こっそり探知魔法で探してみた。結果、駄目だった。
やっぱり、子供の神様だから、ティムみたいに純粋で小さな子供にしか見えないのかしら。
「あーあ、わたしも見たいなー。ねえ、ティム、今度居たらこっそりわたしに教えてね? ん、あれ? これ・・・」
机の上にふと目を戻すと、髪留めが目に入った。
手にとってじっくり眺める。やっぱり、わたしのみたい。
「この前の魔法演習の時間に失くしたと思ってたのだけど、誰かが見つけてここに置いてくれたのかしら」
ティムがわたしの座っている席に歩いて来て、思わせぶりに言う。
「さっき座敷わらしがここに来たのは、これをリアに届けるためじゃないかな?」
そして、わたしからさっと髪留めを取り上げ、髪留めをわたしの頭に付けた後、優しくするりと髪を一撫でしていった。
「え? あ、ありがとう」
髪に触れられてゾワっとした。
こんな事をするのは、今はもうアルだけだから、他の人に触れられると気持ち悪い。
でも、ティムに他意は無いのだからとスルーしようと思った時、あ、あれ?
子供らしくニコニコ笑っているティムが、一瞬ニヤリとしたような気がしたけど、き、気のせいよね?
「どういたしまして!」
お手伝いをお母さんに褒めて貰ったかのようにティムが元気に答えた。
「お、おい! 何してるんだよ!」
ディーンが先ほどの行為を咎めるような大声を出した。
「え? 何? 髪を触っちゃ駄目だった? だってすごく綺麗な髪だったから。リア、ごめんなさい」
謝るティムはしょんぼりしていて、先ほどの不敵な気配はなく、やっぱりわたしの勘違いだったみたい。
でも、まあ、ここにやきもち焼きのアルが居なくて良かった。
子供であっても関係なく、ティムに何をしでかすか分からないし、わたしも酷い目に遭う事は間違いない。
先日なんて、犬に舐められただけでやきもちを焼き、顔中を舐められるという事態に陥った。
「あ、うん」
「あ、座敷わらし!」 突然ティムが叫んだ。
「え? どこどこ?」
「かと、思ったけど、気のせいかな」
きょろきょろと辺りを見回してティムが言った。
「なーんだ、残念」
がっかりと肩を落としていると、突然屋外にバリバリという雷のような轟音が聞こえた。
え? 何? 雨降ってないよね? 快晴の青空だけど、今の何?
みんなもどうしたどうしたと騒いでいる。
「屋外の演習場で、誰かが魔法をぶっぱなしたんじゃない?」
ティムがくっくっと笑いを堪えながら言った。
でも、しばらくして堪え切れなくなったのか、ぶーっと吹き出し、何故かゲラゲラ大笑いしている。
「ティム? どうしたの? 大丈夫?」
「あ、う、うん、もう愉快過ぎて、僕笑い死にしそう。本当にリアには感謝してるよ」
???
◇◇ ◇◇ ◇◇
「おい、ディーン、なんでティムには黒い呪いは発動しないんだよ。あれは完全にアウトだろ!」
「・・・・・・」




