魔法学校
※ローリー視点
ハイネケン魔法学校はおじい様が国のために優秀な魔法使いを養成するために創立した学校である。
レノルドには王立の魔法学校もあるが、こちらは平民の入学は認められていない。
おじい様は優秀な人材は幅広く求めるべきであると考えて、私費を投入して平民が通える魔法学校を創ったのである。
現在、父もそうであるが、ハイネケン魔法学校の卒業生である平民が王宮でも、また王宮以外の場所でも魔法使いとして活躍している。
ただ、王立の魔法学校の卒業生とハイネケン魔法学校の卒業生の仲は必ずしも良いとは言えない。
貴族派と平民派と呼ばれ、王宮内では分裂して派閥を作りいがみ合っている。
そして、行きついたところが七年前と今回の闇の魔法使いによる襲撃事件であった。
首謀者は貴族派の中心人物であるジェラルド=ターンホイザーとされたが、詳しく調べてみると、ジェラルドを操っていた者が存在する事が判明した。
その者が闇の魔法に属する隷属魔法を用いて仲間を増やし、ジェラルドに徒党を組ませて襲撃事件を起こさせていたのだ。
だが、その者がどこの誰かなど、手掛かりは見つかっていない。
ジェラルドの記憶を探っても、記憶自体を操作されていて、曖昧模糊とした状態になっているのだ。
この事件により多くの平民派の魔法使いが犠牲になり、そして今回、闇の魔法使いの仲間に引き入れられていた貴族派の魔法使いが捕縛された事で、レノルドでは魔法使いが大いに不足する事態に陥ってしまった。
そこで魔法使いの育成が急務となり、国からの補助を受け、ハイネケン魔法学校は国中に大々的な募集をかけることとなった。
国中から集まった大勢の受験生の中から選ばれたのは、年齢8歳から17歳の厳選された四十名である。
魔力の高いわたしとディーンはもちろん選ばれて、新入生四十名の仲間入りを果たした。
ディーンは今、わたしの幻影魔法で、見た目は14歳の男の子になっている。
以前は髪の色や顔の印象くらいしか変えられなかったわたしの幻影魔法だけれど、体が成長したおかげかアルの魔力を貰っているおかげかは分からないけれど、高度な変化が可能になった。
ディーンの子供のふりは最初の頃こそぎこちなかったけれど、今では立派な14歳の男の子になりきっていて、というか、14歳の男の子に戻って人生を楽しんでいるようにさえ見える。
わたしもクラスメイトの中に、たくさんお友達が出来た。
入学当初は貴族ということで遠巻きに見られていたけれど、履修科目の取り方や学校の規則などを丁寧に教えてあげたら、創立者である伯爵家の一族なのに威張っていないし、お貴族様然として気どっていないところがいいわって気に入って貰えて、親しく接してくれるようになった。
「おはようございます、リアさん」
週が明けて、朝学校へ行くとアンがわたしを見つけて駆け寄って来た。
「おはよう、アン」
12歳のアンジェリーナ=ポメットは、わたしを除けば新入生の中で唯一の貴族出身者であり、寄宿舎においても同室なので、特に仲が良い。
二人で机につき、話をしているとレーナが声を掛けてくる。
「ねえ、リア、あなたは知ってる? この学校には座敷わらしが憑いてるって話」
最年長17歳のレーナは、姉御肌でクラスメイト全員の面倒をよく見てくれる。
「座敷わらし? ううん、そんな話聞いたことないわ」
「ふーん、そうなんだ。あのね、一年間一緒に授業を受けていたはずの人が名簿になかったり、名簿の人数がいつの間にか増えていたりするんですって」
レーナはどこで仕入れて来るのか、いろんな面白い話をわたし達に提供してくれる。
「私も聞いたわ。四十名で入学したはずなのに、いつの間にか四十一名になってるみたいな? でも、どの子も確かに生徒なんだって」
別のクラスメイトが話に割り込んで、他にも話を聞き付けたクラスメイトがどんどん集まって来た。
「でも、それって、ただ単にスキップした生徒とか逆に落第した生徒なんじゃないの?」
「そんなのじゃないって聞いたけど、真実はそうなのかしら?」
通常、初等科は10歳から12歳の子供が、一般常識や王宮でのしきたり、初等魔法を習う。
初等科で習うものはほとんど必須科目となっているため、わたし達新入生の四十名は必然的に一緒に授業を受ける事になる。
初等科の科目を修了後、中等科から高等科と進むにつれて専門の高度な魔法が学べるようになっており、大抵の生徒は6年かかって卒業する。
しかし、ハイネケン魔法学校は必須の科目単位と進級するための単位数、または卒業するための単位数を習得すれば、進級も卒業もスキップ出来る制度もあった。
そして今回は特例で年齢の高い者も新入生として入学しているので、初等科の生徒であっても、能力的に問題がなければ中等科、高等科の科目を受講する事を特別に許可されている。
魔法使い不足の現在、優秀な者は早く卒業させて、魔法使いとして実践的に働かせたいということなのだろう。
そしてそれは、わたしも含めクラスメイト全員の望むところでもある。
優秀で意欲的な彼らは、貴族の子弟のように遊び半分ではなく、確固たる野心や目的を持ち、貪欲に学ぶつもりでここに来ているのだ。
そんなやる気のあるクラスメイトにも恵まれて、わたしの学生生活は順調な滑り出しをした、と言いたいところなのだが、問題が一つある。
「クラウス君、今度あなたとペア」
「ごめん! 僕のペアはもう決まってるんだ」
ダッシュでわたしから離れて行った。
「えっと、じゃあ、ランディ君、あの」
「ち、近寄らないで!」
ひぃーと悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすようにクラスメイトの男子がわたしの周りから居なくなった。
「ねえ、ディーン、わたし何かしたかしら?」
ほとんどの男子はわたしに怯え、わたしは半径1メートル以内に近付くと病原菌が移るとでもいうかのような扱いをされている。
「ダンスの先生がなるべくいろんな人とペアを組むようにと言っていたから、相手をお願いしようと思ったのだけど、逃げられてしまったわ。ディーンとはいつでも練習出来るから、またティムに頼むしかないわね」
ティムは最年少の8歳の男の子である。
ダンスに限らず、ディーンを除くとティム以外、男子ではわたしとペアを組んでくれる人はいない。
「そうだな。ティムは何故か大丈夫みたいだしな」
「ダンスの練習が始まるまでは、みんな優しかったのに。わたしに足を踏み潰されるとでも思ってるのかしら」
わたしが落ち込んで言うと、ディーンがわたしを気の毒そうに眺めて慰めてくれた。
「気にするな。お前のせいじゃないから」
ディーンがブツブツ意味不明な独り言を呟いている。
「やっぱり、・・はショタなんじゃね? 血ってコワイなー」




