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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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ディーン

※ローリー視点

「アル、お願いがあるの」


 あれからアルは予定通り一週間程で一旦は帰って来たけれど、またすぐに戻って行った。

 騒ぎは想像以上に大きくなっていて、竜族の隠匿は難しいと判断され、その存在を公にすることに決めたらしい。

 公表するにあたっての根回しやら、準備やらで、アルは忙しく竜王国とレノルドを行ったり来たりを繰り返している。

 竜王国のために尽力しているけれど、きっとうまくいかない事も多く、頭を痛めているのだと思う。

 アルはこのところずっと悩ましげな顔をしていた。


 アルはなかなかわたしと離れたがらなかったので、こちらの離宮でも執務をとる事が増え、それに伴い竜族の人達が出入りする事も増えた。

 奇妙奇天烈な行動が多いアルだから、こうしてまとも(・・・)に執務をとっているところを見ると本当に竜王様で、ちゃんとお仕事が出来るのだと驚くばかりである。

 

 わたしがディーンにそう言うと、アルがおかしな行動をとるのはわたしが関わることに限定されるらしい。

 ディーン曰く、竜王様は気さくである事は間違いないが、普段は威厳もあるし、竜体の体躯などとても立派で誰もが憧れ、頭を垂れる黒竜なのだとか。

 それに何より竜王国の危機に直面した時に、竜族を救ったのは当代竜王様である事は紛れもない事実で、その時の事を覚えている者で竜王様に感謝しない者はいないし、それだから魔力のせいだけでなく、自分も含めて、竜王様の事を心から慕って仕えている者が多いのだと、ディーンが誇らしげに話してくれた。


  

「ディーンも一緒に学校に通うことを許可してもらいたいの」

 

 ディーンの口癖は『俺は出来そこないだから』。

 竜族なのに魔法が使えない、その事がひどいコンプレックスになっている。


「おい、やめろっ。俺は魔法を習いたいとも学校に行きたいとも、何も言ってないだろ!」

 ディーンがわたしとアルの間に割り込んで来た。

 わたしは、これまでにもディーンには学校に通う事を薦めたが、ディーンは自分と向き合う事を恐れて逃げてしまって話し合う事も出来ないでいた。


「今年度のハイネケン魔法学校の生徒の募集は年齢制限がゆるくなってるし、チャンスなのよ。あなた、魔法が使えない事、悔しくないの?」


 ジェラルドおじ様のせいで、ハイネケン魔法学校は今や創立理念から大きく外れて、クズ貴族のためのクズ子弟が通う学校になり果てている。

 平民のための奨学金制度は廃止され、お金さえ払えば入学が認められたため、王立の貴族が通う魔法学校に行けない出来そこないばかりが集まってきているのだ。

 それを是正するため、今お母様は奔走しているわけなのだけれど、今回の幅広い年齢層の募集も七年間平民の入学が阻害されてきたために、市中にいるであろう優秀な人材を掬いあげる目的を持っている。

 


「悔しいさ。だけど、仕方がないだろ! 魔力はあっても、使えないものは使えないんだ。俺は出来そこないなんだよ」


 学校へ通うための準備の途中、ディーンがわたしの教科書に興味を示し、そういえば、アルがディーンは魔法が下手くそなのだと言っていた事を思い出した。

 それでわたしがディーンにいろいろ聞いてみると、驚くべき事実が判明する。


 生粋の竜族は生まれながらに魔法が使えるらしい。

 誰に教えられなくても、本能で魔法を操る事が出来るのだとか。

 ところがハーフは魔力は備わっているものの、本能で使うということが出来なくて、人間のように学習することが必要だったけれど、母親に捨てられたディーンに魔法を教えてくれる人間は居なかった。

 宰相様やアルが途中で気付いて教えてくれたらしいけど、イメージしたり念じれば発動する竜族の魔法をディーンは扱うことが出来なかった。

 

 ハーフの存在にも扱いにも慣れていなかった竜族の中で、魔法を操れない事を蔑まれたりして、ディーンは自分を出来そこないだと思い込んでしまったのだ。

 今現在竜王国では、ディーンの失敗を踏まえて、母親から魔法を習う事が出来ないハーフや人間の子供達のために、学校を設立しているようである。



「ディーンは出来そこないなんかじゃないし、魔法が使えなかったのはあなたのせいじゃない。何度も言うけど、竜族の魔法と人間の魔法は似て非なるものなのよ」

 

 人間の魔法は魔法陣に組み込まれた魔法式に魔力を流す事で、発動させる。

 イメージも大切だけれども、魔法式抜きには発動しないものなのだ。

 慣れれば確かに考えなくても出来るようになるけれど、竜族の魔法のように水と念じれば水が出て来るような、そんなものとは根本的に異なるのだ。

 

 わたしだってそんなあきれた魔法使えないわよって何度も説得したけれど、今度も上手くいかなかったらと、ディーンの心の傷や不安はあまりにも大きく、なかなか一歩を踏み出せずにいるのだ。

 

 アルはしばらく黙ってわたし達のやりとりを聞いていた。


「それは妙案だな。ああ、まったく良い。ディーン、ローリーと共に学校へ行け。これは命令だ」


「アルベルト様!」


「ありがとう! アル!」

 一歩を踏み出せずにいるディーンの背中を、アルが押してくれた。

 

 ちょいちょいとアルがディーンを手招きして呼んだ。

「ディーン、ちょっとこっちへ来い」

 

 そしてアルが何やらディーンにこそこそ話をし始めた。

 男同士、素晴らしいアドバイスで、ディーンを励ましてくれているのに違いない。

 アルはディーンのコンプレックスも知っていて、育ての親なんだもんね。

 

 わたしは嬉しくてディーンに笑いかけて言った。


「アルもやっぱりディーンの事は心配だったのね! ね! ディーン、わたしも協力するからね!」


「・・・・・・」








 ◇◇ ◇◇ ◇◇ 

 

「我はずっと悩んでおったのだ。ローリーが学校に通うのを許可したものの、あんなに愛らしいのだ、学校で若い雄に横取りされたりしないだろうかと心配で心配で、夜もおちおち眠れぬほどに頭を悩ませておったのだ。竜族ならば我の魔力に気付くだろうが、人間ではそうもいくまい? 本当は我が一緒に学校に付いて行きたいくらいなのだが、執務をとっている我はカッコいいとローリーが褒めてくれたゆえ、放り出して行くわけにも行かぬ。お前がローリーに近付く雄は排除せよ。良いな?」




「・・・・・・はい」




 

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