邪魔者がいっぱい2
「む、分かった。でも、魔力の注入は譲らんぞ! あれは必要なのだ」
学校の件はローリーの願いでもあるし、二人に譲ってやった。
だから、こっちは我を尊重してくれと暗に言ったにもかかわらず、
「いいえ、必要ありません。竜王様といえど、幼いリアに無体は許しません!」
などと、フェリシアは強気で我を責め始めた。
「な、何が無体なのだ! 我はそのような事をした覚えはない! 人聞きの悪い事を言うな!」
なんという事を本人の前で言うのか!
ローリーが眉をひそめて、怪訝そうな顔で我を見ている。ま、マズイ。
ほんのちょっと唇を吸っただけだ! アレを無体などと言うはずはない!
と思う!!!
我はきっぱり否定する。断固否定だ!
強気の姿勢が肝心、怯んではいけない。
ローリーに不審を抱かせてはならん。
フェシリアがじと目でしばらく我を見ていたが、ローリーを我から引き剥がして言った。
「母さまがちゃんと守ってあげますからね。安心していいのよ。リア、明日は一緒にお買い物なんてどうかしら? 少しくらいなら平気よ。文房具も揃えなきゃいけないし、制服の採寸にも行かないとね。娘とのお出かけなんて、とっても楽しみだわ!」
エリックも加わって、三人で明日の予定を楽しそうに話し合い始める。
「わ、我も行くぞ。おい、聞いておるか? 我もローリーと一緒にお出かけがしたいぞ」
「あら? 竜王様は国にお戻りになるのではございませんの? わざわざ、宰相様がお見えになったのは、竜王様を呼びに来られたのだと聞きましたわ。大人になるまではどうせ求婚も出来ないのですから、リアの事は私に任せて、どうぞ安心してお戻り下さいませ」
「あ、そうだ、アルベルト様、宰相様がお呼びです。勝手に離宮を訪れるわけにはいかないからって、俺にアルベルト様を呼びに来させたんですよ。なぁ、ローリー、人を待たせるのって良くないよな?」
「フェリシアのあの態度はなんだ!」
ちょっと前までは、大恩を受けた身ゆえ何なりと申し付けて下さいと、殊勝な事を申しておったのに、ローリーの母親気取りで偉そうに、我に許さんと言いおった。
宰相の待つ部屋に向かう廊下を歩きながら、ぷんぷんと怒ってディーンに愚痴をこぼした。
「自業自得ですよ。お気持ちは分からないでもないですけど、アレはやり過ぎです」
「な、何がやり過ぎだと言うのだ。魔力を注ぐ時、ほんのついでにちょっと唇を吸っただけじゃないか。そんなに目くじらをたてる事でもないだろう?」
「ちょっと吸っただけで、ローリーがあんな声を出すはずありません」
「な、さてはお前聞き耳を立てておったな。恥知らずな奴め。他人の秘め事を覗くとは、悪趣味だぞ」
我とした事が、失敗した。
結界を張っておくべきだった。
あの愛らしい艶やかなローリーの声を出させるのも聞いて良いのも、番いである我だけ。
済まぬ、ローリー。
「おかしな言いがかりは止めて下さい。でも、やっぱり、自覚はあるんですね。ローリーを上手く騙せたからって、周りの人間までごまかせるとは思わないで下さい。ローリーの家族の者に聞かれたら、どうするつもりだったんですか? アレを見たらさすがに竜王様に好意的なルドルフさんでも、接近禁止令を出しますよ。フェリシアさんには竜王様はロリコンなのかと詰め寄られるし、俺はもう庇い切れませんよ。ローリーと結婚したかったら、我慢して下さい」
「しかしだな、」
「さあ、着きました。入って下さい」
その話はこれでおしまいとばかりにディーンに促されて部屋に入ると、宰相のエルとフランが待っていた。
「竜王様、お願いします」
開口一番、宰相のエルが言った。
呼んでも居ないのに、今朝フランと共に王宮にやって来た。
「嫌だ。我はローリーの側にいる。お前だって、竜族の雄が番いから離れられないのは、分かっておるだろう?」
「ならば、番いの君にも一緒に竜王国に来て貰えばよろしいのです」
「それは出来ぬ。ローリーはまだ子供ゆえ、親元から引き離すのは可哀相だ。そもそも、お前は我に番いを見つけるまで1、2年は帰って来るなと申したではないか」
「そ、それは、そうですが、状況が変わったのです。申し訳ございません、その言葉は撤回致します」
我はため息をついた。
宰相のエルは優秀だ。
少々の問題ならば、こ奴がここまで出ばって来ることはない。
それに、これだけ言っても譲らないということは、状況は我が想像するよりも逼迫しておるということか?
人間を受け入れて三百年。
竜王国を構成する者は様変わりを見せた。
生粋の竜族だけであったのが、現在は少数の竜族と、多くのハーフ、そして番いまたは子孫である人間が混在する。
古来より住む生粋の竜族である少数の古老達は、竜王国内にて自由な単独生活を送っている。
問題は、三百年前より住むことになった竜族と人間の間に生まれた子孫達だ。
優性の法則より、第一世代はハーフであるが竜族の形質が表面化する。
だが、第二世代となると、ハーフ同士の子供は3対1の割合で、竜族と人間が生まれる。
そして、厳密に言えば、その3の竜族も、血の濃さから1対2に分けられる。
血の濃さは魔力と結び付いており、それが血統思想を生み、階級思想へと発展しているのだ。
竜王国には身分制度というものは無いが、竜族は魔力の強い者を崇拝し従う習性がある。
逆に言えば、魔力の低い者に対しては見くびって従わないということだ。
今や第三世代も加わり、人間は子を複数生むので、兄弟でありながら竜族と人間に分かれたり、益々複雑な形相を見せている。
人間が入って来るまでは、争うことなど無かったのだがな。
いがみ合うくらいなら、古老達のように集団行動をやめれば良いと思うのだが、それも出来ないらしい。
そして、今、宰相がここまでやって来たのは、争いの末に一部の竜族が人間を竜王国からオルレアン国に追い出した事に端を発している。
すぐさま連れ戻したものの、その様子を見ていた者がいて、オルレアン国ではちょっとした騒ぎになっているらしい。
国境辺りには、兵士なども常駐するようになって、不穏な様子に竜王国の中でも動揺が広がっているとの事である。
「お恥ずかしい事ですが、我々ではこの騒ぎは収められません」
・・・・・・
「フラン、宰相の件は分かったが、クリスティーネはどうした?」
我はフランを国に帰す際、宰相には番いがまだ子供ゆえしばらくは竜王国に戻れないとの言伝を頼み、もう一つ、クリスティーネをここに連れて来るように言ったのだ。
「それが、またどこかに出掛けられてしまったようで、見つける事が出来ませんでした」
上手くいかないものだな。




