邪魔者がいっぱい1
ローリーの両親に条件付きだが求婚の許可をもらった。
本当は、その日に求婚し、子供だから結婚はまだ出来ないでも、承諾を得て婚約者の地位の獲得を目論んでおったのだが、不首尾に終わった。
我もローリーはまだ子供ゆえ、特に急ぐつもりはなかったのだが、魔力の口移しという名の下、口づけを交わす度、あまりにも愛らしい反応を示すので、早く欲しくなってしまったのだ。
自分でも少々セコイと思わんでもないが、恩を盾にすれば断れまいと算段しておった。
ところがまあ、計算は狂ったが仕方がない。
あと半年もすれば、ローリーは十五歳、成人だ。
レノルド万歳! 成人年齢を十五にしたレノルドは素晴らしい!
成人の暁には、ローリー本人に求婚して、返事をもらえば良いだけのこと。
我はローリーにとって、とても役に立った竜王であるし、命の恩人でもある。
我の株はかなり上昇したはずだ!!
とはいえ、良い返事をもらうための下準備として、ローリーへの魔力の注入は欠かせない。
魔力と心は結びつくもの、だからローリーの心が我の魔力、すなわち我なしでは生きてゆけぬと思い込んだら、こっちのものである。
それに、魔力の注入はマーキングとしての意味合いもある。
また何より、ローリーへの口づけは、我の今一番の愉しみだ!
「ローリー、薬の時間」
ローリーの部屋に入ると、ベッドの中は空っぽで、窓辺に立つ清楚で可憐な一人の少女が居た。
ドクンと耳に聞こえるほど、我の心臓は鼓動を響かせる。
白い襟がついた薄いブルーの簡素なドレスは、腰に大き目のリボンが付いていて、愛らしい印象もあり、またほっそりとした少女の肢体にはぴったり合っていて、立っている姿は凛としてとても美しい。
髪はローリーと同じ金色であるが、真っすぐなローリーの髪とは異なり、ふんわりカールした髪で、腰のリボンと同色のリボンが後頭部に付けられていた。
呼吸を忘れるほどに、魅入っていると、聞き慣れた愛しい声がその口から発せられた。
「アル、驚いた? どう思う? やっぱりわたしには少し大人っぽ過ぎるかな?」
え?
「ローリー? ・・・なのか?」
我は上から下まで何度も視線を往復させて、確かにローリーである事を確認する。
身長も伸びて、大きくなっていたのは分かっていたはずなのに、髪型や服装でこんなに印象が変わるものなのかとひどく驚いた。
ローリーであって、ローリーでない気がする。
少し大人びたローリーが綺麗すぎて、眩しくて、なんだかすごく恥ずかしいし照れる。
手をとって、素直な気持ちをローリーに伝えた。
「すごく、綺麗だ。それに愛らしい。子供の愛らしさとは別の、美しい愛らしさだ。大人っぽ過ぎない、とてもよく似合っている。我はこのローリーも大好きだ」
「そうかな? フェリシアさんじゃなくて、フェリシア母さまがわたしにって、買ってくれたの」
ローリーは俯いて少し照れたように言った。
「フェリシア母さま?」
我が聞き直すと、それに答えるように、横からフェリシアが出て来た。
ローリーばかり見ていて全く気がつかなかったが、フェリシアとエリックが部屋の中に居たんだな。
「あの、私、リアのお母様のシルヴィア様から、自分の代りにってリアの身の周りの世話を頼まれましたの。それに、アリシラの子孫なら、私の子孫、つまり子供と同じですわ。ですから、母さまなのです。同じ理由でエリックは父さまなのです」
ローリーの両親はすっかり元気になり、二人とも仕事に復帰していた。
父親のルドルフは王宮に仕える魔法使いで、母親はハイネケン魔法学校の校長だ。
多くの王宮の魔法使いが闇の魔法使いとして暗躍していた事もあり、王宮では魔法使い不足で、猫の手も借りたいほど忙しい。
我が先ほどまで王宮へ出向いて、守りの結界を敷く魔石へ魔力の補充をしておったのも、魔法使い不足ゆえの事。
まあ、住居を提供してもらって、いろいろ面倒を見て貰っているのだから、我もこのくらいの協力は惜しまん。
そして、ハイネケン魔法学校においても、ジェラルドの専横によって、その理念が歪められ混乱状況が続いているらしい。
それゆえ、病み上がりだというのに二人は奔走している。
「竜王様、リアはもう年相応に成長しましたし、熱も痛みもございません。今日からは床を上げて、少しずつ体を慣らし、学校に行く準備をいたしますの。ですから、もう魔力の注入は必要ありません」
一体何を言い出すのか!
フェリシアがわけの分からない事を言っている。
「なんだと? 学校? 我はそんな事一言も聞いておらぬぞ」
誰が勝手に決めたのだと憤慨して言うと、フェリシアから反撃を受けた。
「別に竜王様は夫でも婚約者でもないのですから、了解を得る必要などございませんでしょう?」
それは、そうだが、なんでフェリシアがそんなに大威張りで言うのかと我はムッとした。
「ごめん、アル! 話すのが遅くなって。わたし、学校に行きたいの!」
不機嫌になった我に慌てたローリーが、先ほどとは逆に我の手をとり懇願する。
心がかなり揺さぶられるが、我は自分のために心を鬼にして言った。
「どうして学校なんて。我は反対だ。ローリーはそのへんの魔法使いよりずっと魔法が上手だろう? 必要ないではないか」
だって、学校なんて行ってしまったら、結婚までの我のいちゃらぶ同棲計画が台無しになってしまう。
「そんな事ない。わたしの魔法は独学だし、やっぱり基本からきちんと習いたい。それに友達だって欲しい。魔法だけじゃなくて他の授業だってあるのよ?」
「友達? 我がいるではないか。ローリーが望むなら、何だってするし、いつでもどこへでも一緒に行ってやるぞ?」
「・・・・・・」
ローリーが俯いて黙ってしまった。
「竜王様、そういう事ではないのですわ。リアは人間なのです。私達竜族とは違って、番いやパートナーが居れば全て事足りるというわけではないのですわ」
「アルベルト様、俺もローリーが学校に行くのは賛成ですよ。他の貴族令嬢と同じように行かせてやるべきですよ。人間の子供は同年代の仲間と共に過ごす事に喜びを感じ、成長していくものですから」
いつの間にか部屋に入って来ていたディーンが、ローリーの味方についた。
ローリーと共にありたいと願うのは、我の我儘なのか?
みんなが寄ってたかって我を悪者扱いする。
我だって、我だって、番いの望みならば叶えてやりたいという気持ちはあるのだぞっ。




