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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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求婚4

※ローリー視点

 わたしはアルのおかげもあって順調に成長していて、両親はベッドから起きられるようになった。

 それで、家族揃って正式にお礼を伝えようと、みんなに応接室に集まってもらった。

 お父様とお母様が並んで座る向かいにはアルだけが座り、他の竜族の人達は後ろに立っている。

 わたしとジョシュは横の一人掛けのソファに二人で並んで座っている。

 

 お父様が代表してみんなにお礼を述べた。

「竜王様、ならびに竜族の皆さまには、命を救っていただきありがとうございました。このご恩に報いたいのはやまやまですが、屋敷と共に何もかも燃えてしまい、お返しするものもございません。ただ、ここにある壺いっぱいのお金だけは、グローリアが竜王様に差し上げるために一生懸命貯めたものです。どうかお納め下さい」

 お父様は、テーブルに置かれた壺を竜王様の前に、差し出した。


「この壺の事はよく知っておる。ありがたく頂戴しよう。ローリーの想いがたくさん詰まっておるからな」

 アルは慈愛のこもった瞳でわたしを見つめ、ほほ笑んだ。

 わたしもアルとディーンとの奇妙奇天烈な楽しい旅を思い出し、ほほ笑み返した。

 とても遠い昔のように感じるけれど、ほんの数週間前の事で、あの時国境でアルが私を見つけてくれたから、今があるのだと思うととても感慨深い。

 

 全部アルのおかげ。

 わたしも家族も命を救われ、闇の魔法使いの脅威も退けられた。

 そして、今、住む場所も提供してもらって、王宮のお世話になっている。

 そう、全部アルのおかげなのだから、わたしは恩に報いるべきなのよ。

 

 すると、アルが急にそわそわとし始め、チラりとこちらを見てから、姿勢を正しお父様に改まった口調で話し始めた。


「お父上殿、お母上殿、実は我にもお願いがあるのだ。このような場で言うのは、恩を売るようで心苦しいのだが、グローリア嬢に求婚する許可をいただきたい」


「え?!」


 隣でジョシュが思わずといった(てい)で声を出し、慌てて口を押さえわたしを見る。

 しかし、この時驚いたのはジョシュだけで、お父様もお母様も驚いた様子はない。


「人間とは番い、つまり妻を得たいと思ったら、その親にまず許可を得ないといけないと聞いた。我はグローリア嬢を妻にしたいと望んでいる」

 

 わたしはこの日が来るのをずっと先延ばしにしたかったのだけれど、アルからとうとう正式に申し込みを受けてしまった。

 貴族の家に生まれた限りは、お父様に従わなければならない。


「ああ、やはりそういう事でしたか。しかし、まさか我が娘が竜王様の番いに選ばれるとは思いもよりませんでしたので、とても不思議だったのです。なるほど、これで納得です」


 ふむふむと頷き、お父様はようやくすっきりしたとばかりに、爽快な笑顔でアルに向き直った。


「ああ、求婚の許可については、もちろん許可します。これは恩に報いるという意味合いももちろんありますが、娘を持つ親にとって、竜族の男は誰よりも理想的な男ですからね。歓迎いたしますよ!」

 お父様はにっこり笑って答えた。


「え?」


 今度はジョシュではなくて、わたしが思わず声を上げてしまった。

 恩に報いるのは分かる。

 命の恩人に対して、恩人の願いをお父様でなくともわたしも含めて、断れる家族は誰もいない。

 でも、人間でない、わたし達には未知のよく分からない種族の竜族の嫁になんて、嫌がると思ったのに。

 わたしはお父様がごねてくれるのを少しだけ期待していたのだ。

 アルの事は嫌いじゃない、むしろ好きな方だと思う。

 もう駄目だと思ったあの夜だって、アルの花嫁になれなかった事をちょっぴり残念に思ったのだ。

 身を削って助けてくれたアルにも、もちろん報いたいとも思う。けれど、でも! わたしはっ!

 俯いて口をぎゅっと閉じて堪える。

 

「リア、竜王様は全力であらゆるものからお前を守ってくれるよ。浮気もしない、誰よりも何よりも大切に幸せにしてくれるはずだ。弊害はお前を我が儘にしてしまう事くらいじゃないかな? ははは」

 お父様は明るくわたしに言い聞かせるように、それでいてわたしの真意を測るように、目をじっと見て言う。

 するとアルは、お父様の言葉に、喜ぶよりも先に警戒心を抱いたようだった。

「父上殿は竜族の男について、よくご存じのようで、正直、我は驚いた。何故、我らの習性に詳しいのだ? 我らの存在は長らく隠されてきたというのに」

 訝しげに目を細め、静かに、しかし言い逃れ出来ない声音でお父様に尋ねた。


 それに対してお父様は軽い調子で、わたしとジョシュがびっくりするような重大な事実を口にしたのだった。

「ああ、それは私の先祖が竜族だからです。私の父は人間でしたが、祖父は竜族と人間のハーフでして、小さい頃にはよく会っていました。父母は亡くなりましたが、祖父母も曾祖父母も、どこかで生きていると思いますよ。竜族は長命ですから」

 お父様はにっこり笑って言った。

 

 すると突然、後ろで話を聞いていたフェリシアさんが、弾かれたように大声で言う。

「アリシラよ! 私、ずっとこの緑の瞳に既視感を感じていたの! ああ、そうよ、間違いないわ!」

 そしてエリックさんと二人で喜び合う。

「ああ、エリック、アリシラは番いを得る事が出来たのねっ。良かった。本当に良かったわ」


 二人の様子から、わたし達は知り合いの竜族の子孫なのだという事が分かる。

 二人の見た目はアルとあんまり変わらないように思う。

 お父様の話からも、竜族はどうやら長命のようだし、アルも見た目とは違う年っぽいな。

 本人も年については結構ナーバスだったし。

 まさか、三百歳くらいのおじいちゃんだったりして? 

 そんなわけないか。おじいちゃんが求婚するなんておかしいものね。

 でも、アルはおじいちゃんっぽいとこが結構ある。

 つらつらととりとめもない事を考えていたら、お父様に名前を呼ばれた。


「リア、ジョシュ、驚いたかい? お前達が大人になったら話すつもりだったのだが、良い機会だから話しておくよ。先祖が竜族だからといって、私達は人間だ。人間の生活にはなんら変わりはない。先祖が竜族であろうとなかろうとね。だが、人生を歩んで行く過程において、自分のルーツを知る事は重要だ。私は、私達のような二つの種族の血を受け継ぐ者は、竜族と人間が共に生きていけるように陰ながら尽力すべきだと思う。そして今はまだ、竜族の存在は、過去の不幸を繰り返さないためにも秘匿されなければならない。分かったね?」


「「はい」」

 わたしとジョシュは神妙に頷き返事をした。

 

 そしてお父様はわたしをじっと見た後、アルに向き直り言った。

「さて、竜王様、私の気持ちは先ほど話した通りで、偽りなきものですが、なにぶん、娘はまだ子供です。貴族は本人の意思よりも家のために嫁ぐものですが、あいにく私は庶民の出なので、娘の意思を尊重したいと思います。妻も賛成してくれております」


 そして、姿勢を正し、お父様は頭を下げた。

「竜王様、求婚は娘が大人になって自分の意思で返事が出来るまで、どうか待っていただきたい。この通りお願いします」

 

 しかし、表面上お願いするという体裁をとったが、お父様には主張を曲げる気は全くないという気概めいたものが、顕著に出ていた。

 

 わたしはお父様の気持ちが嬉しくて、涙がぽろりと頬を伝った。

 

 お父様はわたしの心の(うち)を察し、アルの求婚に対して釘をさしてくれたのだった。

 




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