求婚3
※ローリー視点
目を覚ますと、ジョシュが抱きついて、竜王様がお父様とお母様を救ってくれると約束してくれたと泣きながらわたしに報告してきた。
「アル、本当なの? でも、どうやって? 時間は巻き戻せないって言ってたのに」
「時間巻き戻す事はできぬが、両親を救うことは出来ると思う。ローリーにしたように我の魔力を注入するのだ。だが、一刻を争うゆえ、我だけではどうにもならん。エリック、済まぬが、我が一人目の目途が立つまで、もう一人に己の魔力を注いでくれるか?」
「御意」
「済まん。フェリシアも済まんな」
アルが二人の竜族の人に、済まなそうな顔をして言った。
「いいえ。竜王様のお役に立てるなら本望だと申し上げましたでしょう?」
「こちらの準備は整った。あとはローリー次第だ。魔法を解き、時間が動き出すようにするのはローリーしか出来ぬゆえな」
わたしに否はなかった。
寝て休んだおかげで、気分も随分良くなった。
皆で、倒れている両親二人の元へ向かう。
血溜まりの中の二人を見ると、良くなったと思った気分がまた悪くなる。
自分が魔法を解くことによって時が動き出す、その怖ろしさに体が震え、身を竦ませるわたしをジョシュが抱きしめて、励ましてくれた。
アルはまず二人の元へ行くと、自分の腕を大剣でスパっと切った。
「アルっ!!」
わたしは驚いて思わず叫んでしまった。
「大丈夫だ」
そう言って、だらだらと流れ出る血を二人の体の傷の上に垂らしていく。
「これで再生能力が高まる」
流れ出る血は怖い。
命が吸い出されてしまいそうで、ジョシュにぎゅっと抱きついて目を背けそうになるのを我慢した。
「よし、準備は整った。ローリー、魔法を解除せよ」
わたしが魔法を解くと同時に、アルがお母様に、エリックと呼ばれた竜族の一人がお父様に口移しに魔力を注いでいく。
噴出していた血も止まり、胸が上下してお母様がせき込み、肺に溜まっていた血を吐きだした。
「こちらはこれでよし、エリック代ろう」
エリックに交代して、アルがお父様に口移しに魔力を注入する。
交代したエリックはふらつき、竜族の女の人に支えられて、逆に女の人から口移しに魔力の補充をしてもらっている。
魔力は生命力だと言っていたアルの言葉が蘇る。
しばらくすると、お父様の方も息を吹き返し、ようやくアルは血まみれの体を二人から離した。
アルは今まで見たことがないほど憔悴しきった様子で、後は治癒魔法と回復魔法で大丈夫だろうとわたしに力なく笑いかけ、床に座り込んだ。
血で汚れるから来なくていいと言うアルを無視して、両手を回して座り込んでいるアルを抱きしめた。
ただ、アルを労いたかった。
瀕死の両親を救って欲しいというわたしの無理な我が儘な願いを、身を削って叶えてくれた。
竜王様のアルと言えど、死にかけた者を蘇らせるのは簡単な事ではなかったのだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。こんなふうになるなんて、わたし思わなくてっ。代わりにアルが死んじゃうかと思ったっ。本当にごめんなさい。でも、ありがとう。本当にありがとう」
両親が助かった嬉しさと身を削らせた申し訳なさと労苦への感謝の気持ちがない交ぜになって、涙が勝手に溢れる。
わたしはアルの背に顔をくっつけて泣いた。
その後、アルが王様に交渉してしばらく住む事になったという王宮の敷地内にある離宮へと居を移した。
離宮では、至れり尽くせりで、身の周りの世話は全て王宮に働く人達がしてくれるし、両親も王宮魔法使いによって治癒魔法や回復魔法がなされ、どんどん元気になっている。
ジョシュは嫌々学校に戻らされたが、しょっちゅう帰って来る。
両親に魔力を注ぎ込んで、一時期に体力が落ちていたアルもエリックさんも今では元通りに復活した。
驚いた事にエリックさんとフェリシアさんは大森林地帯の女神の泉近くに住む竜族のカップルだった。
他にも数組の竜族のカップルが大森林地帯には住んでいるらしい。
わたしにも変化があった。
両親の時を解いた時にわたしの時も動き出したため、体が引っ張られるような痛みがあったり、体を成長させるのに魔力が費やされるのか、体力の消耗が激しくて、熱が出たりする。
そのため、未だにわたしはベッドの中にいる。
ああ、アルがやって来た。
満面の笑みでにじり寄ってくる。
「さあ、ローリー、薬の時間だ。口を開けて」
むむむ、わたしはチラリと視線をディーン達に向けた。
アルや竜族にとって、魔力を口移しする行為は人間の愛情の表現であるキスとは意味が違うんだろうけど、わたしは人間だから恥ずかしい。
いくら薬だと言われても、確かに効果もてき面に顕れているけど! 公衆の面前でそれをするのはとても恥ずかしい。
アルはくるりとディーン達の方に向きを変えると、言った。
手で払うようなゼスチャー付きで。
「お前達、ローリーが恥ずかしがるから、ちょっと部屋を出ておれ」
アルは三人を追い出すと、さあ、さあ、とわたしを促す。
「ほら、もう、誰も居ないから、恥ずかしくはないだろう? さあ、口を開けて。舌を出せ」
覚悟を決めたものの、やっぱり恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑って、アルの言うとおりに口を開けて舌を出した。
「よしよし、ローリーはイイコだなー」
でも、アルは言うだけで、自分から急かしたくせに、なかなかしてこない。
「アリュ、まだぁ? 早くぅ」
待ちきれずに、焦れて、わたしは目を瞑って口を開け、舌も出したままアルを急かした。
「そうか、そうか、早くして欲しいのか。分かった分かった、してやろうな」
そうっと頭と顎に手が添えられたと思ったら、優しく舌をちゅっと吸われた。
「あん」
鼻にかかった甘い声が漏れた。
自分で出した声に、自分が恥ずかしくなる。
口をアルの唇でゆっくり塞がれると、舌がヌルリと滑り込んできて口の中を舐め回される。
そして、アルは自分の舌をわたしの舌に絡めながら、魔力を少しずつ注ぎ始めた。
「あ、うん、う、ん、ん、あん、あ、舌吸ったらやだ、ある、あん、あん、・・・・・・」
わたしは正式な魔力の口移しなんて知らないから、これが効率の良い正しい方法と言われれば文句も言えない。
でも、この魔力の口移しを受ける度に、わたしはとても恥ずかしい思いをさせられている気がする。
頭がくらくらするから、アルにされるがままで、ろくな抵抗も出来ずに翻弄されてしまう。
それに、魔力とともにアルのわたしを想う気持ちみたいなものまで流れ込んでくるから、それも堪らない。
恥ずかしくて、顔が熱いから、おそらく赤くなっているだろう顔を俯けるわたしを見て、アルは実に満足げである。
なんか妙に腹立たしい。アルのくせにって思う。
そして、アルはいつものようにわたしの目を手で覆うと、眠りへと誘う魔法をかける。
「ゆっくり休むがよい」
わたしは、アルの落ち着いた心地よい声音の言葉を聞くと同時に眠りに落ちた。




